ゾンビではない
放課後。
「今回はダジャレ部にするか。」
ヤシヒロが言った。
「嫌だ。」
カシノリが言った。
「候補には入ります。」
アカネが言った。
「候補にも入れたくない。」
三人は廊下を歩いていた。
部活動見学週間だった。
ヤシヒロが立ち止まる。
「ここか。」
扉には、
『言語遊戯研究会』
と書かれていた。
その下には小さく、
『通称 ダジャレ部』
と書かれている。
「帰ろう。」
カシノリが言った。
「まだ見ていない。」
ヤシヒロが言った。
「見なくても分かる。」
「分からない。」
アカネが言った。
「ダジャレは慎重に判断したい。」
「だから何を判断するんだ。」
ヤシヒロは扉を開けた。
放課後。
二年B組の教室には今日も意味の分からない光景が広がっていた。
「…………」
一人の男子生徒が無言で立っている。
そして、
両腕を前に出した。
ゆら……
ゆら……
規則的に左右へ揺らす。
教室の隅では見学中の一年生達が不安そうな顔をしていた。
「え、なにこの部活……」
「本当に存在したんだ……ダジャレ部……」
ヤシヒロは静かに言った。
「ゾンビではない。」
「まだ何も起きてない。」
カシノリが言った。
「三十秒スタート!」
部長の風巻先輩が叫ぶ。
男子生徒のジェスチャーが加速する。
腕を揺らす。
大きく揺らす。
「ゾンビ!」
高屋さんが叫んだ。
「地中から手が出てくる感じのやつ!」
「違います!」
風巻先輩が即答する。
「えぇ!?」
「高屋、お前は毎回ゾンビだ。」
教室が笑いに包まれた。
しかし一人だけ笑っていない人物がいた。
富良田さん。
ダジャレ部のエースである。
彼女は男子生徒の動きを見続ける。
左右。
一定。
大きなうねり。
「波か。」
男子生徒が丸を作った。
「正解に近い!」
風巻先輩が叫ぶ。
一年生達がざわつく。
「分かるの!?」
男子生徒はさらに続ける。
何かを握る。
口元へ。
叫ぶ。
「マイク。」
富良田さんが言った。
残り十秒。
部室全体が考え始める。
波。
マイク。
海。
叫ぶ。
会場。
富良田さんが目を開く。
「海上が会場!!」
「正解!!」
教室が爆発した。
歓声。
拍手。
机を叩く音。
男子生徒は膝から崩れ落ちる。
「伝わった……」
一年生達は完全に引いていた。
「意味分からない。」
「なんで盛り上がってるの。」
ヤシヒロは小さくつぶやいた。
「覚えておこう。」
「何を。」
カシノリが聞く。
「海上が会場。」
「そこなのか。」
風巻先輩が腕を組む。
「甘いな一年。」
そして真顔で言った。
「ダジャレとは魂の会話だ。」
沈黙。
ヤシヒロが言う。
「魂が会話している。」
「そうらしいな。」
カシノリが言う。
「なら肉体は休ませるべきだ。」
「何言ってんだ。」
アカネが言う。
「合理的です。」
「どこが。」
「疲労が減ります。」
「魂だけで大会できる前提なのか。」
風巻先輩は満足そうにうなずいた。
「見込みがある。」
「ない。」
カシノリが即答した。
風巻先輩は黒板を指差す。
そこには、
『説明したら負け』
と書かれていた。
「怖い。」
カシノリが言った。
「全国では常識だ。」
風巻先輩が言う。
「全国怖い。」
「去年の優勝校は『地下で自家製』で優勝した。」
「どういうことだ。」
風巻先輩は少し考えた。
「知らん。」
「知らないのかよ。」
「だが感動した。」
「雰囲気で語るな。」
アカネは手帳を開く。
『ダジャレ要観察』
『説明したら負け』
『部長もよく分かっていない』
と書いた。
「失礼だな。」
風巻先輩が言った。
「違うんですか。」
「分からん。」
「ほら。」
カシノリが言った。
三人は部室を出た。
扉が閉まる。
廊下を歩く。
沈黙。
ヤシヒロが言った。
「見落としていた。」
「何を。」
「ダジャレ部。」
「普通見落とす。」
しばらく歩く。
ヤシヒロが立ち止まる。
「変だな。」
「何が。」
ヤシヒロは少し考えた。
そして首を振る。
「分からない。」
沈黙。
アカネが言った。
「明日も見学しますか。」
ヤシヒロは少し考える。
そしてうなずいた。
「ダジャレは分からない。」
「部活だぞ。」
カシノリが言った。
「だから分からない。」
ヤシヒロが言った。
「何も解決してない。」
アカネが言う。
夕日が廊下を赤く染める。
ヤシヒロは窓の外を見る。
そして静かにつぶやいた。
「海上が会場。」
「またそれか。」
カシノリが言った。
「覚えておこう。」
「何のために。」
ヤシヒロは少し考えた。
そして答えた。
「そのうち使う気がする。」
「何にだ。」
「分からない。」
「結局それか。」
カシノリはため息をついた。
アカネは手帳を開く。
『海上が会場』
と書き込む。
「お前まで何やってる。」
「念のためです。」
「何の念だ。」
アカネは少し考えた。
「分かりません。」
「お前もか。」
夕日が差し込む廊下を三人は歩いていく。
ダジャレ部。
意味は分からない。
だが、
少しだけ気になった。
それが始まりだった。




