表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/98

9.よりよって……この人に知られるとは

 かつて同棲していたとする未亜(みあ)の告白に対してだ。

 羨ましい、と返すヤスオである。

 当然ながら同じ家で生活する女性二人であっても不明な限りだ。

 

 だが凪海(なみ)が何か思いついたかのよう。なるほど、と、ぽんっと手を叩く。


「なんだ、やっぱりヤスオも男だったんだな。いやらしいヤツだぜ」

「なんですか、いきなり。そうそうこの際だから凪海さんに注意を喚起したいものです」

「なにがだよ」

「先日のスタルシオンでもそうでしたが、このチームには男がいないなど、自分を無視した見解が多すぎですよ。男として扱えなくても、せめて認識くらいはしてください」


 わかった、とする凪海の返事だった。

 意外な想いが隠せないヤスオだ。まさかこんなあっさり了解されるなんて思いも寄らずである。

 直後に甘さを痛感させられた。


「ヤスオって世間ではあまり男として認められていなそうだもんな。わかった、オレと未亜だけは認めてやるぜ。菜々(なな)さんは微妙かもしれないけどな」


 ずいぶんな言われようできた。なんだかあんまり嬉しくないんですけど、とヤスオは文句を垂れずにいられない。

 けれども真実に慌てる展開はこれからだった。


 ははは、と凪海は笑ってからである。


「それで、男として認められたいヤスオは要求したいわけだよな。同棲が羨ましいとする肝心なことをしたいわけだ。しょうがねーのかな、うちの弟たちも猿みたいなとこもあったし」


 これに驚きを示した者は、向けられた当人ではない。ヤスオにとって女性は異界に属す存在であり、交われる相手でないと意識下に刷り込まれている。


 代わりとばかり未亜が難しい顔で反応した。


「え、まさか凪海、やっちゃんと……」

「んなわけねーだろ。そこはあれだよ、未亜が責任持て。けどよ、外でしてくれよな。この家でしてたなんて思うと、さすがのオレでもちょっとなー」

「で、でもさ……やっちゃんて。そうしたことはお仕事にしている人以外には経験ないみた……」


 しまった、とばかり慌てて口を閉ざす未亜だ。

 そうなのか! とひときわ大きく上げた凪海は、にやり笑う。悪魔も真っ青な邪悪な表情である。


 ごめん、と未亜がヤスオへ両手を合わせて頭を下げている。

 謝罪を受けたほうは、未だ謎としたままだ。

 凪海がはっきり口にして、ようやくだった。


「なんだよ、ヤスオって、しろうとドウ○イだったのかよー」


 ぎゃーとヤスオは絶叫した。

 うっかり口を滑らせてしまった謝罪だとやっと理解できた。ホントごめん、と未亜が繰り返し謝ってくる。


 あわわわわ、とヤスオは声が出ないほどうろたえるばかりだ。


「おうおう、ヤスオのおかげで、人間の泡食っている状態がどんなもんか、よくわかったぜ。そうか、図星かー」


 やけに楽しそうな凪海だから、なんとか闘志を燃やせたヤスオだ。普段なら黙ってやり過ごすところだが、毎日顔を合わせる相手であれば反撃もしよう。ただし戦うとする姿勢は自己基準であり、実際の態度はさほどでしかない。


「そそそそそう言いますけどね。しょしょしょしょうがないじゃないですか。こんな歳になってもお付き合いどころか、デートだってしたことないですよ。所詮は自分ごときなんですよ」


 なんだかよりバカにされたくて訴えているみたいじゃないか、とヤスオは言った直後に思う次第である。

 はぁ〜、と凪海に嘆息を吐いて肩を落とされてしまう。哀れみの眼差しをもって、ぽりぽり頭をかきながらである。


「そうだよな、ヤスオだしな、しょうがないよな」

 と、まるきり救いにならない同意を挙げていた。


 そうなんですよー、とヤスオがなにやら理解をしているようであってもだ。

 未亜はまだ責任を感じているようだ。


「で、でもさ。やっちゃんが風俗行っていると聞いて、わたし安心したの」

「なにがだよー、未亜」


 当人のヤスオでなく、凪海が疑問を呈してくる。


「別に否定をするわけじゃないの。愛に性別関係なしが認知された現代じゃない。だけど、ほら、やっちゃんがそちら方面だったら、なんか寂しいというか、ああそうなんだっていうか……」


 イマイチなに言ってんだかわっかんねーぞ、と凪海が返す横でであった。


 がばっとヤスオが顔を上げた。

 なんだなんだ、と凪海を驚かすほどの勢いだ。

 真っ直ぐな目を向けられた未亜は真剣な面持ちで言葉を待つ。

 ヤスオは中身が空の湯呑み茶碗を握りしめた。


「じ、自分は女性が好きですー。だから未亜さんが羨ましいと思ったのですよー」


 ヤスオがする魂の叫びであった。

 でもおかげで、どうしてこんな話しになったか。未亜と凪海は発端を思い出せていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ