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5.なんというか……難題ではないか

 さっそくだし、やっぱりだった。

 妹のうららが食事もせず帰宅するなんて、とヤスオが不審を抱いた翌日である。

 味に特別な問題はないものの形状が奇怪とくる未亜(みあ)の手料理を、凪海(なみ)も含めた三人で囲んでいた時だ。


 電話台から鳴った。

 音を立てているのは、でんっと居座る昔ながらの黒いダイヤル式固定電話ではない。勧誘を始めとする迷惑電話が多かったため、ヤスオは解約している。電話機は祖父母の形見として取ってあるだけだ。現在はスマホの充電場所が電話台の主な役目だった。

 メロディは有名なゲームテーマである。並ぶ三台のうち、誰のものと確認するまでもない。


 そそくさと立ち上がったヤスオが画面を見たらである。なんだぁ? と思わず洩らしてしまう相手であった。


「なんだよ、母さん」


 スマホを耳に当てたヤスオの声に、未亜と凪海の箸が止まった。


「えっ、なに……急になにを……ち、違うよ……そうだけど……う、うん、わかった……早めにね、まぁそれはわかるけど……」


 再び充電器へスマホをセットし炬燵テーブルへ顔を向けたヤスオを待っていたのは、好奇心だった。彼女たちの目は、何を話していたのか聞きたい! と訴えている。

 座り直せば要望に応えるべく、さっそく口を開いた。


「母親からでした」

「そんなのはわかってるつーの」


 おまえーといった凪海の口調である。

 確かに惚けているな、と自覚するヤスオだ。

 まぁまぁ、と未亜がなだめては訊く。


「それでやっちゃんのお母さん、怒ってない?」

「え、なんでですか」

「女が二人も勝手に住み着いているわけだしさ。息子の将来を考えれば、良くないとか思われて、おかしくないかなーって」



 両手を大きく振って見せるという、ヤスオにしては珍しく大仰な仕草を取った。 


「もうその点については、ぜんぜん。むしろ未亜さんと凪海さんにはお礼が言いたいそうです」

「感謝を言うのはこっちなんだけどね」


 未亜の言に、あの凪海でさえ「そうそう」と乗っかってくる。


 ヤスオは感動してしまった。

 互いが互いを思いやる心が三人にある。この同居は決して間違いではなかった、と確信できれば嬉しくなる。

 悪い性癖が出てしまう。


「もぉおー、やっちゃん、笑わなくたっていいじゃない」


 少し頬を膨らませている未亜だ。

 そそそそそそういう意味じゃなくて、といつものごとくヤスオはふためいた。


「で、ヤスオ。久しぶりに母ちゃんとしゃべっただけか」


 意外に冷静な凪海のおかげで、ヤスオは要件を思い出せた。


「あのですね。イヤだったら、はっきり断ってください。どう見てもうちの両親、変な期待に胸を膨らませているようで……」

「ええい、だからなんだっつーの。オレたちに訊くことがあんだろ。気になってしょうがねーんだけど」


 凪海の怒りはもっともだと納得したヤスオは母親が言ってきた要望を口にする。きっと未亜はともかく凪海は拒否するだろうと見立てていた。

 なので二人揃って怖いくらいノリ良く了承してくれば驚いた。


 同時にこれはヤスオに困った事態がやってきたことを意味した。

 同居する未亜と凪海の二人は、まだいい。


 けれどももう一人とする菜々(なな)は、どうなのか? 失礼に当たらないか。

 ヤスオはおっさんが板につく年齢まで来ていたが、なにぶんだ。

 女性をプライベートで、遠隔地まで共に行きましょう、とするお誘いなんてしたことがない。


 翌日に会社で菜々と出くわせば、急にお腹が痛くなってきた。

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