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19.誤解……よりも話しはゲームです

 ともかくヤスオは誤解を解かなければならなかった。


 凪海(なみ)の言い草よって、菜々(なな)はすっかり汚らしいとする視線を向けてくる。女性二人を相手にいかがわしい関係を結んでいると思い込まれている。まさか自分が男女関係であらぬ疑いを受けるなど、これまでの安い人生において考えもしなかった。


 ゲームなんです、ゲームの話しなんです! と姿は哀れささえ感じさせる姿で懸命に訴えた。


 なに? と不可解な表情する菜々に突破口を見た。


 ヤスオは矢継ぎ早に説明した。


 オンラインRPGゲーム『スタルシオン』でパーティーを組んでいる人たちで、今もチームとして一緒にプレイしている。自分がゲーム好きなのをこれ以上ないほど主張した。


 唖然とした様相の菜々だ。


 少し後悔が過ぎるヤスオであった。

 職務がIT関連にあるからといって、ゲーム好きとは限らない。他の職種より多いかもしれないが、中には全くやらない人もいるにはいる。プライベートまでコンピューター関連に関わりたくない。ゲームなんかへ夢中になる人種と、差別混じりの区別をしてくる者だっているのだ。

 いちおう広言は憚ってきた。

 菜々にはゲーム趣味を知られないほうが良かったか。

 そうビクついていたらだった。


「安田さんも『スタルシオン』やっていたんですね」


 一気に風向きを変える返答があった。

 ヤスオにすれば最も対人関係において打って出れる話題を得た。

 水を得た魚という比喩が当てはまりすぎる饒舌さを発揮する。なげぇーよ、と凪海が挙げ、そろそろご飯の支度しようよ、と未亜(みあ)にたしなめられるまで語っていた。


「こんなにしゃべる安田さんなんて、会社では考えられないです」



 最後に菜々の暴露がトドメとなって、ようやくヤスオは我に返った。。夢中でしゃべっていた己れを顧みれば、少しどころかけっこう恥ずかしい。

 焦りまくるヤスオを見かねてか。未亜が夕飯へ促し、また菜々を誘う。いいタイミングで今度こそ待ち望んでいた宅配もきた。まさしくどっさり送られてきた魚の量もまた客人を引き止める効果があったようだ。


 夕餉となれば、気安い空気も生まれる。楽しい食事会となる。


 和やかな雰囲気がひと段落を見たところで未亜が茶碗と箸を置いて、菜々へ向く。


「いろいろ誤解を招く真似をした原因はわたしがやっちゃ……安田さんの好意に甘えていることが全てです。どうか批難はわたしにだけ向けてください」

「そんな、こちらこそ玄関先でみっともない大声を上げて申し訳ありませんでした。そもそもプライベートについて口出しする自体がおかしなことです。でもあの安田さんが女性といたら、驚きは隠しようがありません」


 食事の手を止めて菜々のほうもきちんと返事している。

 ヤスオは笑えるな〜、と凪海がちゃかす。しょうがないじゃないですか、とヤスオは不貞腐れている。残る二人に軽い笑みが生まれていた。

 真面目と不真面目が拮抗していた空気は、未亜によって前者へ傾いた。


「でもいつまでも今のままとするつもりはありません。あと八ヶ月ください」


 えっ、とヤスオは驚きの声を上げた自分に驚いた。他人さまの行動に関心は持っても気持ちを示すなんてしてこなかった。だけど今は……。


「み、未亜さん。あと八ヶ月って、どういう……」

「今の調子でいけば、それくらい完済できそうだから……ね」


 なにやら未亜の言葉尻も途切れがちだ。

 完済? と事情を知らない菜々が疑問の一言を挙げてくる。

 ちょっと親のな、と凪海がいい感じで濁している。


 安田家の居間はシリアスといった雰囲気になった。

 残念な人と評価されるヤスオだ。次の言葉を期待される人物であるが、なかなか口が開けない。


 代わりに話題を変えようと切り出したのは凪海だった。


「ところで鮎川(あゆかわ)さんって言ったっけ、スタルシオンをやっているのか」

「え、あっ、はい。いちおう二つのチームに属しています」


 えっ、とまた驚くヤスオだ。だが今回において口は滑らかだ。 


「二つのチームに所属なんてあるんですか!」


 返答は求めた相手ではなく、呆れたように凪海が答えた。


「そら、すんだろ。ていうか、一つだけとするプレイヤーのほうが少ないんじゃね」

「そ、そういうものですか」

「だってよー、一つだけじゃやれる時間が限られるだろ。みんなが揃うまでなんてしてたら、いつになるんだよって話しだよ」


 確かに、とヤスオは納得である。自分が参加する『チームYMN=やみん』の活動もここ最近はこうして集まる日曜に限定されている。


「それもありますし、どこのチームもメンバーは多めじゃありませんか。揃い次第だから、タイミングが合わないと参加できませんし」


 菜々も述べた実状に、なるほどとなるヤスオだ。よりプレイをしたいならメンバーは控えがいるくらいの数がいたほうがいい。だけど、やっぱりである。


「でも自分としては今のまんま、今のメンバーで冒険していきたいですよ」


 いい顔を未亜だけでなく凪海も見せた。

 気持ちは一緒、とする気持ちが雰囲気だけで察せられる。


 菜々などは、ちょっと羨ましそうに目を細めている。


 だからだ。

 急にヤスオがあたふたしだすから、他の女性陣はなんだなんだとなった。


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