表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/36

第16話 妹

「人間……? ちょっと待ってよ、マスター。だってこいつ人間を捕食……」


 メアに捕食されていた亡骸に目をやる。それは出血こそしているものの、食われたような形跡はなかった。だったらあの咀嚼音みたいのは何だったんだ⁉


「傷口から察するに、こいつの針かな?」


 犠牲者を見ながらマスターは言う。


「針?」

「まぁ、詳しく調べてもらう必要がありそうだな。山根ちゃん、俺の胸ポケットからスマホ出してプロに掛けてちょうだい」

「はい……」


 言われるままスマホを操作し、プロに掛ける。


「うんうん、そう。んじゃ、よろしくね。山根ちゃん、サンキュー。もういいよ、切っちゃって」


 俺はマスターの耳に当てていたスマホを離し、通話を切る。


「プロが、来るんですか?」

「そうそう、博士はほら。体使うの苦手だから。プロに運んでもらわないと。俺もいつまでもこのままじゃいられないしね」


 博士が脳筋タイプじゃないことは分かる。が、プロに運んでもらうってのが分からない。このメアをか? いやいや、プロにそんな筋力はないだろう……。


「正確に言うと、半人半メアかな? 両方の波が出てるのよ」

「それって一体どういう……」

「さぁ、俺もこんなケース初めてだからねぇ。ただまぁ、人間の要素はまだあるって訳だから、殺す訳にも行かないでしょ」


 自分が窮地だったってのに、あの一瞬でそんなこと考えてたのか……。あれ、そう言えば……倉庫で襲われたとき、ゲコも攻撃の手を止めていたように見えたけど、まさか……どうなんだろう? 肝心のゲコは未だに反応なし。前回もそうだったけど、治癒に相当のエネルギーを消費するのだろう。


「お、来たね」


 マスターの声に反応して周囲に目を向けると、建設現場の一角につむじ風が起きている。


「涌井氏、辰己氏から聞いたガニ」


 特徴的な口調と共に、風の中から博士が出てくる。そのあとからプロも出てきた。どうなってるんだ?


「おぉ、博士。こいつだ。ちょっと見てよ」


 マスターは切り離した両手で押さえているメアに目をやって、博士に言う。


「ちょっと見てみるガニ」


 博士はそう言うと、メアに近寄る。すると、白衣のポケットからペットボトルを出して、それを飲む。それから人差し指を鋭く伸ばして、メアの腕に食い込ませた。


「もう手を離しても大丈夫ガニ」


 メアは動かなくなった。


「博士、一体何を?」


 疑問を先送りせず、俺は博士に聞いた。


「暴れないように、麻酔を注射したガニ」

「麻酔? 博士の指から?」


 あれ、モグラってなんかそんな能力あるんだっけ? 博士のオヤはモグラだったはず。聞いて益々疑問が残る。


「だから、さっき麻酔薬を飲んだガニ。それがわいの体の中を通って、指先から注射液として出せるガニ。わいもただのモグラじゃなく、日々進化してるガニ」

「なるほど……」


 え? それ、麻酔薬そのまま飲ませればよくないか……? 喉元まで来たその言葉を、俺は飲み込んだ。


「これは……毒だと思うガニが、研究室でよく調べるガニ。これはエロゲーどころじゃないガニよ」


 博士の興奮した様子。よほど興味を惹かれるもののようだ。

 ん、待てよ? ってことは博士の中では【研究>エロゲー>俺】か……。


「頼んだよ、博士。んじゃプロ、よろしく」

「あ……任せ、て」


 プロはメアに向けて右手を上げると、メアをつむじ風が包み込む。そして風と共にメアの姿は消えた。続いて、博士とプロも出てきた風の中に入る。その風も二人の姿と共に消えた。俺は知識をフル稼働させて考える。きっとあれはワームホールのようなものなのだろう。


「あれ、死体はそのままかよ……」


 現場に残った犠牲者を見ながらマスターは言う。


「まぁ、誰にも見られてる訳じゃないし、あとは警察に任せましょうかね」

「見られる?」

「ほら、変にうちらが疑われたら面倒じゃない」

「まぁ、確かに」

「結局最初の大きな波の主は会えなかったけど、まぁ一件片付いたし、良しとするか」

「あの……」

「ん、どうした?」


 ここで西川を目撃したことを報告しようとした。だけど、確証がある訳じゃないので、少し濁して言う。


「西川さん、この辺りにいないですよね?」

「西川ちゃん? いないいない。妹ちゃんのことがあるから、仕事以外で家を離れないよ」

「妹?」

「あれ、聞いてない?」

「はい……」

「しまったなぁ。言っていいもんかなぁ」

「マスター、お願いします。教えてください!」


 別に西川のことなんか興味ない。あんなやつ。俺はただ、マスターがそこまで西川がここに居るはずがない、と言い切る根拠が知りたかった。ただ、それだけだ。


「絶対に言っちゃダメだよ?」


 そう釘を刺すと、西川の妹のことについて俺に話し始めた。


「西川ちゃんはさ、元々かなり荒れててさ」


 今でも荒れてますけど……。


「メアのくせに人間じゃなく、メアを襲いまくってたのよ。まぁうちらもそうだけどさ」


 まぁ確かにそうだけど。


「ただ違うのは、うちらは人間を守るって大儀があるけど、彼の場合手あたり次第メアを襲ってた」


 あいつらしいと言えばあいつらしいけど……。


「それである日、うちの博物館、エデンに襲撃に来たのよ」

「え……そうなのですか?」

「ただうちはほら、精鋭揃いだからさ。彼もまぁ強かったけど、返り討ちにした訳」


 ざまぁみろ。


「別に命までは取ろうと思ってなかったんだけど、負けを悟った彼はさ、命乞いじゃないけど言う訳よ。自分は死んでもいいけど、妹を助けてくれって」


 ん、どういうことだ?


「聞けば、彼には先天的に目が不自由な妹が一人いるんだって。それが突然原因不明の昏睡状態になって、ついには医者も匙を投げたようでさ。懇願する彼の必死さに、俺たちもそのままにはしておけず、様子を見に行ったのよ」

「西川……さんの家に?」

「そうそう。そこで目にしたのは、青白い顔してぐったりとやつれて、息もたどたどしい妹ちゃんの姿」


 俺は黙って聞きいる。


「同行してた博士にすぐ見てもらってさ、栄養だけはその場で点滴を設置して送ることが出来た。血液を持ち帰って調べても、原因は毒と言うことしか分からず、なんでも他のどの毒の分子配列とも一致しない型みたいでさ」

「中和出来ない……?」

「そそ。栄養で死なないように生かしてるのがやっと。それも毎日薬を入れ替えないといけないから、西川ちゃんも大変だろうよ」

「でも、毒の元があれば、どうにかなるんじゃ?」

「それがさ、メアに襲われたことしか分からないみたいで。だからどういったメアか、毒がどんな種類かも手がかりなし」

「それで、メアを手あたり次第に?」

「そうだね。でもうちらが協力を申し出たら、素直に受け入れてくれてね。山根ちゃんがうちに入るちょっと前までは、接客も普通にやってたんだけどねぇ」

「俺がエデンに勤め始める前まで?」

「そうそう。今よりずっと明るかったよ、彼」

「なんか……俺が原因?」

「違う違う。山根ちゃんが入る一月くらい前からだから」


 とりあえず、俺があいつを変えた訳ではないらしい。むしろ、毎日いびられて迷惑してるのはこっちだ。


「まぁそういう訳だから、彼は今も妹ちゃんのとこにいるよ」

「分かりました。俺も変なこと言ってすみません」

「気にしなさんな。んじゃ帰ろうか」


 バイクに戻ると、俺はマスターの後ろに跨った。

ご拝読ありがとうございました。


未熟な文章ですが皆様の心に残るような作品を作るべく頑張ります。

少しでもこの作品をいいと感じて頂けましたら、大変お手数ですが下記のブックマーク登録と、☆☆☆☆☆欄から率直な評価を頂けると幸いです。


ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ