彼女の双子の妹とデートしたら修羅場になった。 〜すみません。似すぎていて気づきませんでした〜
読んでいただきありがとうございます。
「ごめん!ちょっと待ったか?一葉」
「……うんうん。全然大丈夫。今、来たところだから」
「そうか」
そんなありふれたカップルのやり取りをすると、俺はいつもどおり手を差し出した。
しかし中々、その手は繋がれない。
いつもならすぐに繋いでくるのに。
「どうした?」
「なっ、なんでもない!」
どうしてか一葉は顔が赤くなっている様子だ。
心なしか握られる力も強い気がする。
この感じは初めてのデートの時みたいだな。
いつもとは違う一葉の様子にそんなことを思いつつ、俺達はデートを始めた。
◇◇◇
デートが始まってすぐに俺は一葉の様子に再び違和感を覚えた。
「一葉」
「……何?」
まただ。
また目をそらされた。
デートが始まってからもう一時間は経つが、俺達はまだ一度も目があっていない。
いつもなら目があった瞬間に笑ってくれるのに。
何だか今は言葉の節々に棘がある気がする。
「そういえば。今日は左につけてんるんだな。リボン」
「えっ!え〜と、え〜と朝起きるが少し遅れて……」
「そうなのか?」
「うっ、うん!」
休憩で入った喫茶店の中でそんな会話をする。
結局、あの後もギクシャクしていて距離感がよく掴めていなかった。
男の俺がクヨクヨしていたらダメだ。
俺はこの流れを変えようと立ち上がった。
「一葉。遊園地に行こう」
俺は一葉の手を掴むと歩き出した。
もちろん会計は俺が全て払った。
◇◇◇
「きゃあああああああああ!」
遊園地に入ってから、最初は固かったもののだんだんと一葉の態度が柔らかくなっていった。
今では完全に楽しんでいる様子だ。
「幽太。次あれ乗ろうっ!」
「わかったから、一回。一回だけ休憩させて……」
もうあれこれ二時間は乗りっぱなしだった。
元々絶叫系が苦手な俺はもう限界だ。
俺達はベンチで休むことにした。
「ごっ、ごめんなさい!私、興奮しちゃって」
「大丈夫だから。一葉が楽しんでいて何よりだよ」
俺は涙目になっている一葉を安心させるように手を重ねながら言う。
「幽太」
「一葉」
周りには人がおらず、俺と一葉の二人だけ。
お互いの息遣いがわかるほど近い距離。
交錯する視線。
赤く染まった一葉の顔。
そして潤っている一葉の唇に近づいていく俺の唇。
一葉はギュッと目を瞑る。
俺は唇を重ねようとして―――
「幽太!」
「………………え?」
声のした方へと目を向けるとそこには。
「その女誰?」
一葉がいた。
◇◇◇
「その女誰?」
「一葉?えっ、ここにもいるのも。えっ?」
俺は一度ベンチから立ち上がる。
今、話しかけてきた声は絶対に一葉のものだ。
聞き間違えるなんてありえない。
でも、さっきまで一緒にいた一葉も声は同じだった。
じゃあ一体どういうことだ?
「双葉……なの?」
俺が困惑していると、後からきた一葉が声を上げた。
その顔は驚愕に染まっている。
「双葉?双葉って一葉の妹じゃ―――うわっ!」
「ちっ」
俺が喋ろうと気を抜いた瞬間。
一葉もとい双葉が俺に襲いかかってきた。
今、キスしようしたんじゃないか?
ていうか舌打ちした?
「もう少しだったのに……もう少しで幽太くんにキスされそうだったのに!」
何を言っているんだ?
俺は身の危険を感じて本物の一葉の方に逃げる。
「助けてっ!一葉」
「キスって?」
「へ?」
「キスしようとしたんだ。他の女に」
あれ?
これ俺の味方が一切いないのでは?
「まぁいいわ。そのことについては後で”ゆっくり”聞かせてもらうから」
「はい。すみません」
一葉はそう言うと一歩踏み出して俺の前に出た。
なんて頼もしいんだ!
「それで。これはどういうことかしら?双葉」
「どうもこうもないよお姉ちゃん。私も幽太くんのことが好きになっちゃったの」
「私の彼氏よ」
「それがどうしたの?」
「は?」
え?めっちゃコワいんですけど。
ガチの姉妹喧嘩やん。
足が震えてきたんですけど。
「……いいわ。好きになったのは一万歩譲って許すとしていつ好きになったの?」
「私達の家に来たときね。そこで一目惚れしちゃった」
「へっ、へー」
あまりにも真剣に語る双葉の姿を見て一葉でさえも困惑している。
「ところでお姉ちゃん。忘れていない?幽太くんは私のことずっと一葉だと思ってたよ?これっていくら似てても愛があればわかるんじゃないの?」
「……何が言いたいの?」
「ははっ。簡単なことだよお姉ちゃん。幽太くんはお姉ちゃんのことあんま好きじゃないって言いたいの」
「妹でも許さないわよ?双葉」
ガチの修羅場になっていく現場を俺は見つめる。
朝から違和感を感じてはいたが、まさか一葉じゃなくて双葉だったとは。
似すぎだろ。双子ってコワい。
双葉とは一葉の家に行ったときに数回顔を合わせただけの間柄だ。
特に仲がいいわけでもない。
「幽太くん。どうなの?お姉ちゃんのことどう思ってる?」
「幽太。ちゃんと答えて」
美人双子姉妹に迫られる俺。
気づくと周りにはさっきの言い合いを聞きつけてどんどん人が集まって来ている。
どっちに答えてもまた修羅場の予感。
ああ神様。俺はどう答えればいいですかぁあぁあああああぁああああ!?
【完】
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