赤いクレヨン
僕には感情がない。
好きという感情も、嬉しいって感情も。
なんの感情もない。
悲しい、なぜかこの感情だけ知っていた。
だから僕の世界はモノクロだ。色がない。
誰か色をつけてくれる人はいないだろうか、
それしか考えて来なかった。
そんな時
出会ったんだ。絵の具とクレヨンを両手に走る君を。
1時間前、
僕は大学から帰るついでに近くのスーパーに寄ることにした。選ぶのが遅い僕は、スーパーで少し買うだけで1時間近くかかった。
スーパーのレジで財布を出した時に、学校の中に大事なノートを置いてきたことに気がついた。
買った食材をリュックに詰めて、急いで大学に戻った。
戻っている最中、絵の具とクレヨンを両手に持ってスケボーに乗ってこっちに向かってくる女の子がいた。
「やばいやばい!時間がない!!おおお、お兄さん!!このままだとその真っ白なTシャツにクレヨンと絵の具が付いちゃう!どけてー!」
スケートボードに乗って今にも転びそうな女の子は、僕に突進してきた。
「痛てて…あ!お兄さん…!ごめんなさい!!めっちゃ絵の具とクレヨンついちゃった!!ごめんなさい!クリーニング代…」
「いいよ。カラフルでいいし。それよりもちょっとどけてくれないかな…?」
「あー!すみません!重かったですよね…!すみません!ちょっと急いでるので!」
女の子は赤いクレヨンを一本落として絵の具とクレヨンを持ってまた走って行った。
「あ、ちょっと!……クレヨン一本くらいいいか。」
このクレヨンが僕の人生を
変えた。
学校に戻って、ノートをリュックの中に入れる。
「よし。」
教室から出た時、あの絵の具を持った女の子が走ってきた。
「あ!さっきの!あのさ、クレヨン知らない?赤いクレヨン!」
僕が拾った赤いクレヨンか。
と思い、リュックを漁り始めた。
「拾ったんだけど…。」
リュックを漁っていると、リュックから、赤いクレヨンと「感情」と書かれたノートが落ちた。
「あ!これ!ありがとうー!ん?感情…?」
「そ、それは僕の…!」
好奇心旺盛な女の子は、秒でノートをめくった。
「これ…。君、色をつけて欲しいんだね。」
そこには今まで僕がこの病気をどう思ってきたかが書かれていた。
「………色をつけても、絵の具だと、擦れば水で落ちてしまう。僕みたいなやつは特に。だから、色をつけなくてもつけても一緒なんだ、どうせ白黒になる。」
「じゃあ、弾けば。」
「…え?」
「ちょっと来て!」
そう言って女の子は僕の手を引っ張って走った。
「はぁ…はぁ…こんな走らせてどうしたの…」
「ここから見える世界は、水で落ちるようなそんなものじゃないよ!ほら!見てみて!」
下げていた顔を上げてみた。そしたら、そこには綺麗な景色が広がっていた。
「ちょっとまってて!」
女の子はそう言って、走って行った。
数分後、大きなキャンバスを持って走ってきた。
「それどうしたの?」
「よいしょっと!…これ!見て!」
「…綺麗…。」
そこにはこの景色が描かれていた。
でも、ただの絵ではなくて引き込まれる絵だった。
「これ、クレヨンで描いたの。」
「クレヨンでこんな絵が描けるんだね。」
「うん。だから君も、君に絵の具はまだ早いかもしれないけど、クレヨンなら、水を弾く。絵の具を弾く。君は、このクレヨンみたいに、可能性を秘めてるのかもしれない。
だから、君はこのクレヨンみたいに無限の可能性を信じてみないか!」
女の子はクレヨンを一箱渡して言った。
「無限の可能性…。」
まだ女の子の名前も知らないのに。背中を押されてしまった。
「やってみるよ、僕。君みたいに。君を超えてみる。」
そうして、僕の心の冒険は始まった。