上を向いたらひとりじゃない
「なにこれっ!スパイ施設みたい!」
今日は2人で曲の相談をするためhajimeの家に来た。hajimeの部屋はパソコンだけじゃなく色々な機材が置いてあってスパイの隠れ家みたいだった。
「このボタンいっぱいあるゲームみたいなの何なの?DTMで検索するとたまに見るんだけど。」
「それはフィンガードラムって言って色々な音を取り込んで指でドラムの音の打ち込みするんだよ。」
「指で!?そういうものなんだー。え!?鍵盤あるけど、ピアノ弾けるの?」
「弾けないよ。それ、MIDIキーボードって言って、それも音の打ち込みに使えたり、音のチェックに使えたりするんだ。マウスでいちいち入力するより直感的にできるんだよ。あとたまにテキトーに弾いた音入れたりもする。」
「へー。すごいんだなぁ。僕のループ音源だけで作ったのとは訳が違うね。」
「ループ音源も手軽だし、面白いよ。俺も最初はそれから始めたし。ドラムの打ち込みを自分で入れてみたりとか少しずつ変えていって楽しくなっていたよ。あと『Banban作っチャオ』だけでアルバム作った歌手の人もいたりすんだよ。」
「まじ?物は使いようなんだなー。」
色々な機材に興味を惹かれつつも、話し合いを始める。
「SUI夏の前の『影踏み』は誰かのマネばっかみたいに感じる自分自身のの悩みみたいなのがテーマだったじゃん。俺も作っていてどうしても誰かのコピーなだけに感じるところがあってスゴい共感できた。だから今回も2人が共感できるテーマがいいなと思った。」
「難しいね…。」
なんていったてお互い出会ったばっかでそんなに詳しくない。しかもこんな短期間で腹割って話すとか、コミュ障気味の僕にはちょっといやかなり無理だ。
「2人で決めるのが難しいなら、SUI夏に歌詞を何個か書いてきて、そこから俺が選ぶって感じにしようかなと思うんだけど…。大変?」
「それなら行ける!」
別に今ガッツリ腹割って話さなくても歌詞で伝えることできるよね。むしろそれがありがたい。
「じゃあ、歌詞が出来たらhajimeに送るよ。」
「うん。書き始めくらいで送ってもいいから、よろしく。」
しかし…どうしたものか。イメージ…イメージ。歌詞のイメージを色々と張り巡らせるけど何も浮かばない。僕だけじゃなくなるべく2人らしいのがいいんだけど。
前の作詞のときにペンとノートよりスマホのほうが捗ったから、スマホを握って待ってみてもいいものが浮かばない。
「うーん、困ったな。」
どうでもいい時にはあんなに浮かんでくる歌詞がストンと落ちてこない。スマホにメモしている前に浮かんだ単語をいろいろ見てみてもピンとこない。
「何か…何かあと1ピース欲しいんだよなぁ。」
浮かんでくるときは大抵きっかけがある。そこが出てくると一気に進むんだけどな。
そういや…前に送ってもらったhajimeのトラックもう一度聞いてみるか…。
エッジのある中にちょっとした切なさや繊細さも感じる…。なんだろう…この感情…最近感じたような…。
あ!
思い出した。hajimeが僕の歌詞を誉めてくれた時の感情だ!あと初めていいねをもらったときの…。誰かが僕の作ったものを聞いてくれた、見てくれたときの感情…。
僕は急いでスマホで浮かんだ言葉をまとめる。
「無視」
「繋がる」
「ひとり」
「いいね」
「上を向く」
それを繋ぎ合わせて歌詞を作る。…うーん、2人のと言うより明らかに僕の感じ強いな…。でも一応送ってみよう。もしかしたらこれを見てhajimeのほうも思い付くこともあるかもしれないし。あと僕の思っていることも伝えたい。
「hajimeが前に送ってくれたトラックから思い付いたんだけどどうかな?僕の要素強めになっちゃったんだけど。」
メッセージを送る。
「おぉ。こうくるか!いや、いいよ。俺も最初作ったとき、ほとんど見向きもされなかったことがあって気持ちわかる。確かにあのトラックと合わせるといいかも。もしかしてメロディとかもある?」
一応僕は考えたメロディがあってそれを歌って送ってみる。
「いいよ。その感じで行ってみよう。」
「上を向いたらひとりじゃない」
この電子の世界じゃ
何を生み出したって
誰にも気づいてもらえない
誰にも気づかれないで無視されるのが当たり前
誰も聞いてない見てない中で壁打ちみたいに呟き続ける
たったひとつのいいねで
気づける
誰かと繋がっている
気づいてもらえる
上を向いたらひとりじゃない