僕たちだけのサンプリング音源
「SUI夏っ。外に行こう。」
今日hajimeと話し合いで集まったら突然言ってきた。
「外?なんで?」
「サンプリングの素材を探しにだよ。」
「サンプリング?」
僕は首を傾げる。これもよく聞く言葉だけど、実際どういうことなんだろう。
「トラックを作るとき、色々な曲とか声や音を切り取って組み合わせて、新しい音楽を作っていくんだ。それをサンプリングっていうんだけど。その音の素材を今回は街中の音を録ってきて作ってみたいなって思っているんだ。」
「街中の音?そんなもので音楽が作れるの?」
「なんでも音であれば素材になるよ。例えば、信号機の音、電車が到着する時の音。この世界は色々な音で溢れてるよ。」
「そうなんだ。スゴいね。」
「なんか俺らしさを考えてみて、じゃあ俺が住んでいる街の音を曲に入れてみたいなって思ってさ。」
「面白そう…!」
「だろ?まぁ、実際使うかどうかは別として色々な音を録りに行こうぜ。ひとりでもよかったんだけど、ちょっと録音してるの不審者っぽく見られたら困るなって思ってさ。」
「うん。一緒に行くよ。僕も何を録るのかも興味あるし。あと僕も街の音を聞いてみたい。」
今まで街の中の音になんて耳をすましてこなかった。一体街にはどんな音が溢れているんだろう。
「ちなみに何で録音するの?」
「それはだれもが持っているコレだよ。」
そう言ってhajimeはスマホを見せてくる。
「スマホで!?」
「難しい機材なんていらない。音楽っていうのは誰でも簡単に始められるんだよ。」
hajimeがニンマリしながら答える。
スマホを持って僕たちは街のいろいろな音を録音した。
いつも通る横断歩道の信号機の注意音。自動車のクラクション。電車が駅に入ってきたときの音。いつも郵便を送るポストを叩いた音。ファーストフードでジュースを啜る音。たくさんの人がいる雑踏の音。途中に雨が降ったときの雨宿りの音。
聞いてみるとこの世界は本当に色々な音が溢れている。音楽っていうものはこんなところにもあるんだな。
「雨の音って今までちゃんと聞いたことなかったけれど、すごい素敵なんだね。」
「規則的みたいで、不規則でなんかいいよな。妙に落ち着くし。」
雨宿り中に雨音を聞いて、僕の中にも何か歌詞が降りてくるような気がした。




