ピカソのカケラ
「どう?」
hajimeがコード進行を意識して作ってみた曲を聞いてみた。すごいクオリティが上がったように聞こえる。…………でも。
「すごい良いんだけど…なんかイマイチ…。」
「なんだそれ。形にはなってるよな?」
「いや、クオリティは段違いに上がって聞こえるよ。ただ僕はいつものhajimeが作るやつのが好きかな…。………なんかピカソのカケラが消えちゃった感じ。」
「ピカソのカケラ?」
なんだそれって目でhajimeが見てくる。
「ちょっと話長くなってもいい?」
「いいよ。」
hajimeがゆっくり頷いて聞いてくれる。
「晩年のピカソがさ、言った言葉で『ようやく子供のような絵が描けるようになった。ここまで来るのにずいぶん時間がかった。』っていうのがあるんだ。」
「うん。聞いたことある。」
hajime相づちを打つ。
「これは僕のとらえかたで、ピカソが本当に言いたかったこととは違うかもしれないけど。子供の絵って独創的で心惹かれることあるじゃん。まだ何物にも捕らわれていない絵で。でも大人なって、固定観念や常識に捕らわれたりするとうまくやろうとしちゃう。そうすると見た目はなんとなくキレイだけど、なんだか面白味も味も消えていってしまう。」
「それは…中途半端にコード入れた俺の曲みたいだな。」
「きっと、きれいだけではない歪んだ線にも何かの魅力があるんだよ。 それは正直どんなものかははっきりとわからないけど。ぼくらはまだまだ未完成。だから、素人の僕らの作るものには不格好だけど、ピカソが求めたカケラがあるのかもしれない。って思っているんだ。自在には出せないけど。」
一息ついて僕は続ける。
「確かに商業に載せるのだったらある程度クオリティやキレイでなければいけないよね。でも、今の僕らにそれって必要?なにかに捕らわれてないからこそつくれるものがある。
なんとなくキレイなものをつくるより、ぱっと見、不格好でも、ピカソの求めたカケラをつかみたいって思う。それには自分にしか作れないものを作ることが何よりも大切なんだ。自分の核ができる前に安易にそれなりに見えるものに手を出したくない」
「…って、ちょっと偉そうだったかな?」
僕は一気に喋りきって頭を掻く。
「いや、なるほどなって思った。確かにこんな付け焼き刃みたいなの使ってもいいの作れないよな。」
hajimeはうんうんと頷いて。
「とりあえず今回はコードは使わない!もっともっと勉強して色々と自分で試行錯誤してからコードは使ってみる。…実際俺も出来た曲聞いたとき、なんかありきたりで俺っぽくないかなって思ったんだよな。」
hajimeは苦笑する。
「絶対コードを使っても俺らしさが出るくらいまで成長していく。でも今は自分らしさを大切に曲を作ってみる。」
「うん、hajimeの作るのはかっこよくて最高だよ。僕も僕らしさを大切にして歌詞を書いてみるよ。」
今回の曲には使わないけれど、僕は今日の気持ちをスマホのメモに残しておいた。この先、何かを作り続けても大切なものを見失わないように…。
「ピカソのカケラ」
側ばっか取り繕ったて
なんにも生まねぇ
心に響くのは
おのれの信念
信じてみろよ
自分自身
新陳代謝活発なこの時代じゃ
見過ごれちゃうかもしれないけれど




