始まりは1台のタブレット
ネットが全世界と繋がっているなんて誰が言ったんだろう。少なくても僕はだれとも繋がっていない。僕のフォローもフォロワーもいないSNSアカウントは、僕の思いの丈をぶつけても、誰も反応しない。
まるで孤島だ。
孤島に僕がひとりポツンといる。
そんな僕を変えたきっかけは25cm×18cmのこの薄いタブレット端末。これが僕の顔を上へあげて、僕の世界を広げてくれた。僕はちゃんと繋がっていたんだ。上を向いた僕はひとりじゃなかった。
高校2年生の夏。誕生日にタブレット端末を買ってもらった。学校の授業や塾もオンラインでやることも増えたしって、もっともらしいこと言ってねだった。スマホじゃない初めての自分だけの端末。スマホより、大きな画面はまるで世界すらも広がったように感じる。
一つやりたいことがあったんだ。
それは動画作成。本当はカメラを購入してその動画をまとめたりしてみたいけど、カメラを買うお金はまだない。なので、とりあえずスマホで撮った写真を動画にして練習でもしてみようか。ゆくゆくは動画サイトのMetubeへアップしたいな。
「どうせ、動画作りたいとか言ったってお兄ちゃん3日坊主常習犯だから無理だよ。」
妹の蜜柑が言う。
3日坊主じゃない。大体いつも3日も続いていない。だが、やる前から言うな。
動画を作ろうとして、疑問をもった。
「さて、動画の音楽はどうしよう?」
動画には音楽がかかせない。ちょっとした写真だって音楽をつければなんか様になる。でも、フリーの音楽でないとMetubeにあげると注意されるらしい。最終的にはMetubeにアップしたいと思っているから著作権は気になるところだ。
「とりあえずまずは色々と調べてみよう。」
すべてど初心者の僕はネットの力を借りる。
動画作成アプリ
動画作成やり方
動画作成音楽
動画アップの仕方
そんな単語を色々調べていたら、「はばろークリエイティブ」というサイトを見つけた。そのサイトは動画作成やアップのやり方など必要なことが事細かに載せてくれてある。
「やばっ!こんな詳しく丁寧にいろいろと載っけてくれてる!これ、この人に得あるの!?」
世の中の先人たちの心の広さに感謝する。神なの?
しかもそこには「はばろー」という名前のハシビロコウのAIキャラいて、質問を入力するすると、はばろーが色々と教えてくれる。サイト内の詳しい説明のページの案内つきだ。はばろー有能。
「はばろーよ、教えてくれ。」
僕は呟きながら入力する。
「この動画アプリに内蔵されている音楽はフリー?」
「そのアプリの音楽はフリーではないよ。」
「まじか、これ動画サイトにアップするには使えないじゃん。」
僕の端末に入っている動画アプリに内蔵されている音楽は著作権フリーではなかった。動画を作るときは別のどっかから持ってこなくてはならない。
はばろーが続けて答える。
「Metubeにアップしたいならフリーのサイトから持ってくるかまたは自分で作ったりだね。」
………………。自分で…作る…?
僕は何の楽器も弾けなし楽譜も読めないし作るとか無理でしょ。
「楽器弾けなきゃ音楽作れないよね?」
「初心者さんはフリーのループ素材を繋げて作ったりするといいよ。」
「なに?ループ素材?なんだそれ?」
「短い音源を繋げて簡単に曲が作れるんだ。」
「タブレットやスマホによっては、もともと端末に入ってる『Banban作っチャオ』という音楽創作アプリでできるよ。『Banban作っチャオ』の素材はフリーだからMetubeにアップできるよ。」
『Banban作っチャオ』ならたしか入ってたな。
触ったことないけど。
「音楽未経験でもできるの?」
「できるよ!」
はばろーがそう言うならちょっとやってみようか。半信半疑だけど、ぼくでも音楽的なものが作れるのかとちょっとワクワクする。
はばろークリエイティブのサイトにも簡単なやり方が載っていたが文字だけじゃイマイチよくわからない。なのでMetubeで作成動画を探してみた。
出るわ、出るわ。
画面を写しなから実際にループ素材で曲をつくって、一個一個の基本的な操作を丁寧に教えてくれる動画。BPMって何?ってとこから、音を歪ませたり、エコーをかけたりするやり方を教えてくれる動画。
なんでもある。
まじありがたい。
「Metuberも神なのか!」
そのおかげで僕も、見よう見まねでループ素材を繋げ曲みたいなものが作れた。
「これ…僕が作ったもの…!」
「なんかすごい…!」
嬉しくって何かが沸き上がってくるような味わったことのない感情が胸に上がってきた。出来たものを何度も繰り返し聞いた。
なんだろ…この感情。
これが達成感ってやつかな。
とりあえずこれで動画のBGMはできた。
でも僕は思い出す。はばろーがあのあと続けて言ってたんだよな。
「でもループ素材を繋げただけじゃ自分の作品とは呼べないかも。」
「自分なりの歌詞やメロディを着けたらそれが君のオリジナルになるよ。」
BGMとしちゃ、十分なものができたけど、なんか自分のオリジナルって言葉に心惹かれた。
「自分のオリジナル、僕だけのモノ…僕にしかできないモノ…………なんか、作ってみたい!」
少し前の僕なら「そんなもんできるわけないじゃん。」って一蹴しそうだ。でも新しいタブレットを手に入れた僕はちがった。
新しいことに挑戦してみたい。ループ素材を繋げて作ったときのあの気持ちも後押しする。
でも、できるかな…?
「僕がオリジナルの曲なんて作れる?」
はばろーの質問欄に入力してみる。
「こんな質問答えてくれるわけないよな…。」
はばろーが返事をする。
「自分の可能性を決めるのは自分自身。さぁ心が動いたら挑戦してみよう!」
「はばろーーーー!!!」
僕の25cm×18cmの世界で新しい挑戦が始まった。




