第一話 Fランクの落ちこぼれ貴族
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ブンッブンッ...!
日課である早朝の素振り500回を終え、程よく汗で滲んだ修練着を脱ぐ。少年の体は程よく引き締まっていて、彼が普段から体を鍛えているであろうことは想像に易い。
彼の名は、レン。セレスタ領に住む14歳の少年である。セレスタ領はメルト王国の中心近くに位置し、年間を通して温暖な気候が続き、王都メルトバルへの作物の出荷を主な収入源としている。そんな恵まれた土地の貴族ということもあり、セレスタ家はメルト王国でも名門と謳われる貴族の一角である。セレスタ家が名門と謳われる理由、それは代々続くその優秀な「個性」の血筋による。この世界では、皆生まれながらにして何かしらの「個性」を持っている。個性は第一次成長期の頃に発現し、稀に第二次成長期とともに覚醒するものもある。個性にはそれぞれ、希少性や有用性などからS〜Fのランク付をされている。一般的に高ランクの個性の親からは、高ランクの個性の子どもが生まれる傾向にある。セレスタ家は代々、高ランクの妻を娶ることで、高ランク個性の家系を紡いできた。
当主サザン=セレスタは、Sランク「氷結」の個性である。若くして宮廷魔術師のトップにまで上り詰めた彼は「氷結の魔術師」と恐れられ、その名を他国にまで轟かせた。今は現役を退き、領地の統治に専念しているが、今もなおその名は伝説の魔術師として語り継がれている。その妻、メイ=セレスタはSランク「魅了」の個性である。「神の踊り子」と呼ばれた伝説の踊り子であり、彼女の踊りが、30年続いた国の戦争を和解させたという話は世界で知らぬ者はいないと言うほど有名である。長男ジョン=セレスタは、Sランク「神剣」の個性である。若くから剣舞の才に溢れ、齢8にして神聖龍剣術の師範代になった。その剣舞の才は止まるところを知らず、現在齢20にして、王宮の守護隊長を任されている逸材である。次男ベントラー=セレスタは、Sランク「天声」の個性である。父や兄のような武闘派ではないものの、「彼の歌が枯れた花を咲かせた」という噂が流れるほど、素晴らしい歌声の持ち主であり、国賓を出迎えるパーティーにも呼ばれるなど、王家からもその歌声は高く評価されている。
そんな天才揃いのセレスタ家には、ある一つの噂がある。Sランク揃いの天才一家に、落ちこぼれのFランク個性持ちの三男がいるという噂だ。Fランク個性とは、ほとんど無意味な個性であることを意味する。まさか、そんな落ちこぼれがセレスタ家にいるわけがないだろうと、人々は笑った。
〜セレスタ家別邸〜
ここは、セレスタ家の別邸。...とは名ばかりで、100年ほど前に使われなくなった廃墟同然の...いや、廃墟である。セレスタ家本邸の裏に隣接しているが、人の出入りはない。しかし、何人かの村人が、セレスタ家の別邸に蠢く影を見たという噂をするものだから、いつの間にかここは幽霊屋敷として有名になっていた。
その幽霊屋敷の3階、かつての当主の寝室であったその部屋に例の『幽霊』は住んでいる。といっても彼は幽霊ではない。れっきとした人である。彼の名はレン=セレスタ。セレスタ家の三男である。しかし、彼はセレスタ家本邸ではなく、この別邸に1人住み着いている。本邸には彼の居場所はない。彼は、セレスタ家唯一の「Fランク個性」だからである。彼の個性が明らかになったのは3歳の時であった。通常1〜2歳で個性が発現する中、3歳になっても個性が発現しなかった彼を不審に思い、両親が貴重な個性鑑定紙を彼に使用したところ、彼には既に個性が発現していたことが明らかになった。彼の個性は「蓄積」、物を溜めることができるという、戦闘能力皆無、文化的な価値もないFランクの個性だったのだ。たしかに、彼は赤ん坊のころから極端にうんちの回数が少なく、後から思えばそれが個性の発現であったのだが、当時は手のかからない赤ん坊だと、そう思われていた。個性が明らかになったあとの両親の反応は語るまでもないだろう。父サザンと母メイは深く落ち込み、メイに至っては1ヶ月自室に引きこもってしまうほどであった。それから2人は、三男レンの存在を隠蔽することに決め、5歳の時には別邸に移し、一人で暮らすように命じた。それからレンは一人で生きてきた。ご飯だけはメイドが毎食持って来てくれたので、飢えることはなかったが、小さな子どもが一人で生活すると言うのは大変なことである。しかし、子どもの順応性というのはすごいもので、7歳の頃には家事全般は勿論、一人で生きていくために必要な術などを、別邸にあった図書室の本から学び、どんどんと身につけていった。しかし、「個性」に乏しい彼は、際立った特技などを身につけることはなく、まさに器用貧乏という言葉が相応しいような少年であった。
月日は流れ、今日は彼の15歳の誕生日である。この世界では15歳で成人になり、家からの独り立ちが許される。つまり、セレスタ家にとって、今日をもってレンを養育する義務がなくなるということだ。
「やっとこの日が来たか。」
サザンは、温かいカフィを一口飲んでからそう呟いた。順風満帆だった彼の貴族としての人生のしこりが今日取れるのだ。
「レンを別邸から追い出せ」
一つの躊躇もなく、彼はそう言った。彼は元来、子どもを愛情深く育てる質である。しかし、レンだけは。どうしても愛せなかった。余りにも違いすぎるその性質に、自分の息子だと、本能的に認められなかったのである。それは他の家族にとっても同じことであった。結局、レンは誰にも止められることなく、別邸から追い出されることとなった。
〜レン視点〜
ボロボロのカーテンはもはや、その役割を果たさない。遮るものが何もないので朝日が昇った瞬間に俺は起きる。今日で俺は15歳。長かったセレスタ家での生活も今日で終わりだ。と言っても、奴らとはほとんど関わることはなかったがな。唯一、いつも飯を持ってきてくれたメイドのミツレさんと別れるのは少し寂しいが、それも大した問題じゃない。それよりもこれから始まる自由な人生が待ち遠しくてしょうがないぜ!
とりあえず、日課であるランニングと素振りをこなすため別邸の裏山へと向かう。
「ふぅ、、、」
朝のトレーニングを終え、ボロ屋敷へと帰ると本邸の使いのものがいた。
「レン様。本日を待ちまして、あなたにはここから立ち退いて頂きます。これは、当主サザン様の決定によるものですので、必ず従って頂きます。」
ぶっきらぼうな態度でそう読み上げる男は退屈そうに欠伸なんかしている。
「わかりました。」
変に反抗はしない。これが1番いい対応だということはもう身にしみている。
「そうですか。では、早速出ていってください。」
そう言い残して、使いの男は帰っていった。
「旅立つ準備は昨日のうちに済ませたし、世話になったこの家に挨拶だけ済ませて出発するか!」
思い出の詰まった部屋に一つ一つ挨拶を済ませて回っていく。すると、1番思い出深い図書室であるものが目に入った。
「ステータスシートか。懐かしいな。」
ステータスシートとはその名の通り、その人の持つ様々な能力の数値がステータスとして現れるものである。勿論、俺は以前にも何度も測ったことがあるが、鍛えている分多少一般的な人より体力が優れているくらいで、「個性」溢れるようなものは何もない。いたって凡庸な、凡庸すぎるステータスだ。
「一応記念に測っとくか!」
ステータスシートの上に手を乗せ、呪文を唱える。大きな魔法は使えないが、一般人でも使えるような魔法くらいは役に立つかと思って習得しておいたんだ。あれ、?なんかいつもより魔法を使った感触が薄かったような、、、?
藁半紙のような紙の上に段々と文字が浮かび上がる。
レン=セレスタ
体力 1058
腕力 968
走力 1011
知力 1236
魔力 865
個性「蓄積」(覚醒済)
効果: 今までに蓄積した経験値を全て自分の能力に還元 する。また、獲得できる経験値の量が大幅に増加する。
「は、、、?」
いやいやいや、このステータスって、、、宮廷の剣士や魔術師でもその体力や魔力が100程度なんだぞ、、、?
「ん?覚醒済?」
そういえば聞いたことがある。第二次成長期に稀に個性が覚醒して、大きな力を得ることが出来るって。じゃあ、もしかして俺、、、
「覚醒したのか!?!?!?!?!?!?!?!?」
成人初日、新たなる旅立ちの日、俺の人生は大きく変わっていく、そんな予感がしていた。
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