39.セシリア・サイファリア『生と死の狭間で』
人間という生き物はですね、
死の間際まで聴覚はちゃんと機能しているんですよ?
だから発言には、気を付けてください。
もうちょっとデリカシーあってもいいような気がしますが、
皆さん私がもう死ぬ限定で、モノを言っておられます。
だけど一応まだ生きているので、言っていることは全部聞いていますからね?
もし生き返ったら、根に持ちますよ?
死んだら化けて出ますよ?
寝台に横たわる私は、どうやら中枢神経を毒に犯されたらしくて動けません。
なんやかんやで私は今死にかけているのですが、
原因はですね、どうやら良かれと思ってミリアが
枕元に飾ってくれた白薔薇らしいのです。
部屋に持ち込んだ時点では、これといって不審な点はなかったのですが、
蕾に毒が仕込まれていたらしく、それが夜中に開花してこういう状況に陥っています。
密室で行われた完全犯罪のトリックは分かりましたが、
犯人は一体誰なんだ?
私は死体役なんで、犯人の推理もできないじゃないですか。
ちょっと悔しいです。
ああもう、こうなる前になんか、
ダイイングメッセージとか残しておけば良かった。
っていうか、私は犯人がわからないんですけどね。
基本的に私はチキンな性格なので、そこまで誰かに憎まれるようなことは
していないとは思うのですが、国家規模で色々と後ろ暗いことを背負っているので、
私怨というよりは、そっち方面が有力かな、と思っています。
完全に死に至る前に、アレックが気付いてくれたから、
現在辛うじて生きてはいるんですが、
アレックが来てくれてなかったら、完全に死んじゃってましたね。
っていっても、身体が動かないこの状態で、
呼吸もだんだんできなくなってきましたので、そろそろやばいです。
「ミシェル、手を握ってあげなさい」
アレックの声です。
ああ、いよいよこの時が来たか、という感じです。
自分の臨終のときかぁ。
たった12年の人生でしたが、
そう思うと色々と感慨深いものがありますね。
「は? はあ? 何言ってるの? 父さん……。
コイツは生きてるっ! まだ生きているんだ」
ミシェル様の声です。
ちょっと震えています。
ありがとう、ミシェル様。
この場でそう言ってくれたのは、ミシェル様だけでした。
誰が何という言おうと、あなたは最後までブレずにいい人でしたよ。
天国からちゃんと見守ってますからね。
なんて思って安らかに目を閉じていたら、しばらくしてミシェル様に変な液体を飲まされて、
そしたら、次の瞬間に呼吸器が正常に動き出したんです。
「戻って……来いっ!
私を置いて逝くなんて、許さないといっているだろう」
正直ミシェル様の言葉に、ちょっと感動してしまいました。
ミ……ミシェル様は、命の恩人です。
そんな気持ちを込めて、ぼんやりとする視界の中で
ミシェル様を探しました。
ミシェル様のいつもより少し冷たい手が私の手を握ってくれたところで、
もう一度私は眠りに落ちていきました。
◇◇◇
「目が覚めましたか? もう心配はいりませんよ、セシリア様」
次に目を覚ました時に目にしたのは、乳母のナアマでした。
「私の性別……バレてない?」
そう問うと、ナアマが涙ぐみました。
「大丈夫でございますよ、セシリア様が気が付かれたときには
もう命の危機を脱した後だったので、呼ばれたお医者様は服の上から
脈を測ったり、熱を測ったりといった事しかしていません。
だから大丈夫でございますよ」
そう言ってしきりに目元を拭っています。
「心配かけてごめんね、ナアマ」
そう言うと、ナアマが感極まって泣き崩れました。
ありゃりゃ、これは逆効果でしたね。
「姫様……姫様……お可哀想な姫様……」
可哀想って言わないで。
私も悲しくなってくるじゃないですか。
「姫様は私がお守りします。
ええ、ええ、命に代えても、このナアマがお守りしますとも。
もとよりそのつもりでございますのに、
姫様……。
ナアマは命より大切な姫様をこの様な目にお合わせしてしまいました。
お許しください、お許しくださいませ」
そう言って泣きじゃくる。
「泣かないで、ナアマ。
あなたのせいではないし、それに私はちゃんと生きているわ。
あなたが私のそばにいてくれて、どれだけ助かっているかしれない。
ありがとうね」
そう言って私はナアマの手を握りました。
少しぽっちゃりとした、優しい手です。
私を育ててくれた、優しいこの手が私は大好きです。
「それにしたって、ナアマは姫様が不憫です。
口惜しいです。
こんなにも美しく成長なされたのに、
腰まであった見事な髪をバッサリと切られて
男の恰好なんかをさせられて、こんな厄介な国に人質に出されて……。
命が危険にさらされているときでさえ、ご自分の秘密がバレやしないかと
気を使わなくてはならないなんて……。
それにこんな格好をしていては、何より結婚に差し障ります。
嫁の貰い手が…嫁の貰い手がぁ」
そう言ってナアマがまた泣き出しました。
そんなナアマをなだめる為に
「嫁の貰い手かぁ~、それは確かに難問かもね」
そういって、ナアマの背中をポンポンと叩いていると、
「乳母よ、心配するな。
コイツは私が責任をもって嫁に貰う」
いつの間にかミシェル様が、寝室のドアの所に佇んでおられました。




