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3.セシリア・サイファリア『館の問題児』

このダークアッシュの瞳を持つ、

とても綺麗な執事さんの名前はアレックというのだそうです。


サロンで今後の暮らしについて色々と説明してもらっている最中に、

ノックの音がしてメイドがひとり入ってきました。


なにやらアレックに耳打ちして出ていきますと、

アレックはその顔を少し曇らせました。


アレックは人を不快にさせない程度のポーカーフェイスを会得している人だと

認識していたので少し、意外です。


傷ついているような、自分を責めているような、なんだろう、

うまく形容できませんが、深い憂慮を伴ってダークアッシュの瞳が揺れています。


事情もよくわからないので、とりあえず曖昧な笑みを浮かべつつ、

そんなアレックをぼんやりと眺めていたら、


「これは話の途中で失礼いたしました」


アレックが生真面目に私に向き直ったので、

ちょっとビクッてなりました。


「いえ、お急ぎになられることがあるのでしたら、

 どうかそちらを優先してください」


そう水を向けてみたのですが、

アレックは少し困ったような表情をしています。


「急ぐというか、この館では日常茶飯のことではあるのですが」


アレックが言いにくそうに、言葉を切りました。


この時点でなにかあるな、という

私の中の危機アラームが激しく点滅しています。


「どうしたのです?」


一応聞いてみることにしました。


日常茶飯の非常事態って、本当はあまり聞きたくないのですが、

かなりの確率で避けては通れない事柄のように思いますので、この際仕方がないでしょう。


「この館の主、ミシェル様のご気分が優れないらしくて」


(はは~ん、そのパターンでしたか)

 

私の中で色々なことの符号が一致しました。


導き出した私の答えは、ずばり!これです。『ミシェル様問題児説』


どうして二国間の人質にミシェル王太子と同年のゼノアが選ばれたのか。


しかも従来ならば迎賓の館の一室を宛がわれるであろうところを、

わざわざ東宮殿に、しかもミシェル王太子の部屋の隣に部屋を宛がわれたり、とか。


おそらくミシェル王太子はかなりの問題児で、

館の使用人たちも手を焼いているのでしょう。


そしてそんな問題児の生贄にされるのが、この私、

ミシェル王子と同い年の弱小国の王太子(影武者)というわけです。


(この執事め、最初から計算ずくだったんだ)


少し恨みがましい視線をアレックに向けてみました。


ああ、やだやだ。


しかし、嫌だといって避けられる問題ではないことは、

私だってちゃんと理解しています。


私だって一応、王族の端くれ。


この国にだって、ただ遊びに来たわけではありません。

いくら人質といっても、子供だといっても、

私は一国を背負って外交をしているのですから。


「ミシェル様はご病気なのですか?」


「いえ、病気という程ではないのですが、

 少し食が細いというか、食事を召し上がられるのが苦手なのです」


ふうむ。執事殿が言葉を濁しておられますな。


「ミシェル様はどちらにおられるのですか? 

 ご挨拶に伺ってもいいですか?」


虎穴に入らずんばなんとやら、と言いますし、

とりあえずその問題児に会ってみますか。


私は腹を括りました。

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