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28.ミシェル・ライネル『テディベアと花束とマカロン』

ゼノアに国元から、プレゼントの包みが届いた。

少し早いがクリスマスプレゼントなのだという。

そのプレゼントにゼノアが破顔する。

届いたのはテディーベアと精巧に作られたその衣装と、それらを入れたトランクケースだ。


「可愛い~」


そう言ってゼノアが感極まったかのようにテディーベアを抱きしめた。

ミシェルはテディーベアを抱きしめるゼノアを、この上もなく可愛いと思うのだが、

なぜだかもやもやとしてしまう。


「お前、男のくせにこんなの好きなのかよ! 女みてぇ」


ミシェルは腕を組んで、ふんっとソッポを向く。

いつものスタイルだ。

その言葉にゼノアが凍り付いた。

そしてミシェルは動揺する。


(ああもう、何をやっているのだ、私は)


ミシェルは頭を掻きむしりたい衝動に駆られた。

ゼノアを傷つけてしまったかもしれないという自己嫌悪が止まらない。

しかしそんな動揺を隠すために、ミシェルは更に子供じみた行動をとってしまう。


「かせっ! みんなに言ってやる。ゼノアは女みたいだって」


そういってミシェルは、ゼノアから乱暴にテディーベアを取り上げた。

返してと必死で追ってくるゼノアを躱し、通信室へ走って行って、

父のアレックに電話をかけた。


「どうした? ミシェル」


モニター越しに父の姿を認め、ミシェルは安堵を覚える。

それはそんな自分を戒めて欲しかったからかもしれないし、

自分の中の複雑な感情を理解して欲しかったからかもしれない。


「父さんこそ、どうしたの? 早くこっちに来てよ。

見せたいものがあるんだ。コイツがさあ……」


本当は酷く戸惑い、動揺しているのにミシェルは何でもない振りをしてしまう。


(私はゼノアが好きだ。ならばどうしてこんな意地悪をしてしまう?)


相反したこの想いが、ミシェルには少し苦しい。


「あっああああーーーーー言わないでくださいっ! ミシェル様の意地悪っ!」


そう言って、ミシェルに飛びかかろうとしたゼノアが、

通信機の電源に足を取られて転びそうになった。

ブチっと不自然な音を立てて通信は途切れたが、ゼノアは

咄嗟にミシェルに腕を取られて抱きすくめられた。


「あっぶねーな」


口調とは裏腹に、その抱擁は優しい。

そんなミシェルにゼノアは戸惑いを覚える。

ミシェルは背が伸びた。

今はもう自分と、ほとんど変わらない。

自分を抱き寄せる腕の力も、それは男のものだ。

自分にはないもの。

そう思ったら少し泣きそうになった。


(私は果たしてこの先、自身の秘密を隠し通すことができるのだろうか)


そんな一抹の不安が胸を過る。

男と女の未分化である子供の終焉の時を、今自分たちは迎えようとしている。

それは身体の著しい変化、精神の変貌の時である。


(その激動のときを、決して明かすことのできない秘密を抱えたまま、

私は乗り切ることができるのか?)


正直自信はない。


「つくづくお前って、よく泣く奴だよな」


そう言ってミシェルが、涙の溜まったゼノアの眦に口付けた。

その温もりに、ゼノアの瞼が微かに震えた。


「ミシェル様の……意地悪」


ゼノアもそう言ってはみるのだけれど、

果たしてミシェルが本当に意地悪なのか、優しいのか、ひどく混乱している。


腕の中で恨み言をいうゼノアを、ミシェルは心底愛しいと思う。


「そうだな。これは確かに私が悪い」


ミシェルがゼノアの耳元に囁いた。


(それは理解している。だが、ならばこの胸のもやもやは一体何のだ?)


ミシェルは自身の胸に巣くう、暗澹(あんたん)とした思いに


思考を馳せる。


その時部屋をノックする音がしたので、ミシェルはゼノアから腕を解いた。

入ってきたのは年の若いミリアというメイドで、豪華な花束を抱えていた。


「失礼します。ゼノア様にマルセル伯爵夫人から、

こちらの花束が届きましたのでご報告申し上げます」


ゼノアは一礼したメイドの前に駆け寄って、


「うわ~なんてきれいなんだろう。

うれしいなぁ」


そう言って花束を受け取り、破顔する。

そんなゼノアが、やはりミシェルは気に入らない。

心のもやもやが増していく。

ミシェルは腕を組み、やはりソッポを向く。


また、部屋をノックする音がした。


別のメイドが包みを持って入ってきた。


「ゼノア様にご報告申し上げます。

ボォーグ侯爵夫人からお菓子が届きました」


そう言ってメイドはテーブルの上で箱を開いて見せた。

色とりどりのマカロンである。


また、ゼノアが嬉しそうに顔を綻ばせた。


「なんて綺麗なんだろう。食べるのが惜しいくらいだ」


そう言って、うっとりとマカロンを眺める。


生菓子とい分野での繊細な芸術品だということは認める。


だが、ミシェルはやっぱり気に入らない。


ゼノアはそんなミシェルのもとに、

箱から一つマカロンを取り出して持っていく。


「はい、あーん」


ミシェルは屈託なく差し出されたゼノアの手首を掴み、

唇まで強引に持っていき、マカロンと共にその指先を唇に緩く含んだ。


「確かに……甘いな」


そう呟いてみるものの、ミシェルの心は苦いもので満ちている。

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