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2.セシリア・サイファリア『王都入城』

エントランスを出ますと、

ライネル公国からの迎えの車が車寄せに停めてありました。


ほう、さすがは大国、ライネル公国の公用車は艶が違いますね。

整備士さん、いい仕事をしています。


とりあえず、磨き抜かれた黒塗りの高級車には、

乗り込む前に指紋をつけておきました。


車窓には分厚い防弾ガラスがはめ込まれており、

厳重な近衛隊による警備に護られて母国を旅立ちました。


人質生活の幕開けです。


ああ、悲し気に高級車の先端で母国の国旗が揺れています。


建国の父エルローズの剣と百合の紋章です。

母国の国旗の風にはためく様を見ながら、

先ほどから脳内BGMドナドナが鳴りやみません。


運転手とその横にはSPがつき、後部座席の私の隣には、

乳母のマアナが同行しています。


その車の前方、後方には、

それぞれライネル公国の選りすぐりの近衛隊が特別車両で警備を固めています。


あっ、ちょっと今調子に乗った感じの近衛隊の白バイが

1台なんでもない所で転倒したような。


でも、見なかったことにします。


そんなこんなで2時間半ほどの快適なドライブの後、

車は隣国の王都へと進んでいきました。


いよいよ王城への入城です。


王城への入城の際には、国賓は馬車と車とを選ぶことが、出来るのですが、

出来る限り目立ちたくなかったので、私は迷わず車を選びました。

 

ふうむ。小国の人質(影武者)とはいえ

一応の体裁とその扱いは国賓の体を保ってくださっているようですね。


感謝なことです。


そして車が向かった先はどうやら王城の東宮殿らしいです。


母国でいうと兄ゼノアの住む館ですね。

人質になる私を最後まで心配してくれた優しい兄です。


東宮殿を見て兄を思い出し、少しほろっとしてしまいました。


いけません、気を引き締めなければ。


車寄せには一糸乱れぬ姿勢で、

館の執事が待機しており、恭しく出迎えてくれました。


おやまぁ、これは美しい執事さんですね。


うちの爺やとは全然違います。シュッとしています、シュっと。

ダークアッシュの瞳がとても印象的です。


「こんにちは、初めまして」


ドアを開け、執事に差し伸べられた手を取り、

とりあえず愛らしく微笑んでおきました。


なんせスマイルはゼロ円ですから。

外交の基本ですね。


「こんにちは、長旅お疲れさまでございました。 

 お待ちしておりましたよ、ゼノア様」


そう言って執事さんも微笑みを返してくれましたが、

あれ? この人なんだか目は笑っていない感じがします。


館のサロンに通されて、格式の高そうなお茶を頂いていたら、

先ほどのダークアッシュの瞳の執事さんが来てくれて、色々と説明をしてくれました。


てっきり迎賓の館を一つ宛がわれるのだと思っていたら、

どうやらこの館でこの国の王太子と同居することになるそうです。


心底やめてほしいと思っていますが、

弱小国の人質王太子(の影武者)ごときでは、

そもそも口を挟める立場にありません。


そんな私の思いを知ってか知らずか、執事さんがぐいぐい来ます。


「この館にはゼノア様と年の近い、ミシェル王太子がお住まいですので、

 きっとすぐに仲の良いお友達になれると思いますよ」


そう言って執事さんは白い歯を見せてニコッと微笑んでくれるのですが、

やっぱりその瞳の奥は決して笑っていないと思ってしまう私の心は

どこかひねくれているのでしょうか。


「わぁ、そうなんだ~、楽しみだなぁ」


一応子供らしく、そう言っておくことにしました。


「お部屋も居間を挟んで

 ミシェル王太子の隣に用意させていただきました」


やたらとぐいぐい来ますね。

何かが私のレーダーに引っかかっていますよ? 

ですが『余計な事すんなっ!』とは

弱小国の人質王太子(の影武者ごとき)には口が裂けても言えません。


「わぁ、そうなんだ~、ミシェル様はチェスはお好きですか? 

 私の相手をしてくださると嬉しいのですが」


とりあえず適当に話を合わせておくことにしました。


ああ、外交って肩が凝りますね。

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