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ANOTHER WORLD STORIES  作者: 佳樹
第一部 勇者と高校生
65/75

65話 安里翔

次の日の休み時間、俺は隣の教室を訪れ、遠村を探した。

昼休みのチャイムが鳴るや否や、急いで来たのに、何処を見渡しても彼女の姿は無い。

彼女のクラスメートに何処に行ったのか心当たりを聞いたが、何故かにやにやしながら、冷やかす様な口調で知らないと言われた。

また放課後にでも彼女の教室に寄ってみよう。


休み時間が終わるまで、まだまだ時間がある。

このまま自分の教室に戻った所で、見たくも無い、陽菜とアイツがいちゃついている姿を目にする事になりそうだ。

俺は仕方なく、当ても無く校舎を歩く事にした。


上手く説明出来ないが、何だか違和感を感じる。

陽菜とアイツの事と言い、あんな姿を見せつけられた今でも信じられない。

二人が付き合っている事実を一時でも忘れていただ何て、我ながら考えられない。

そもそも、二人が付き合う前に、俺なら、あらゆる手段を用いて、それを阻止した筈だ。

それなのに、そんな記憶が一切無いなんておかしい。


「安里くん・・・?」


背後から、声が聞こえ、思わず反射的に振り向いた。

声の主には見覚えがあった。


「遠村じゃないか!ずっと探してたんだぞ。」

「あなたとは今までお話した事も無かったのに、急にどうしてなの?」

隣のクラスってだけで、確かに今まで俺は遠村と言葉を交わした事は無かった。

なのに、どうして俺は遠村のフルネームを知っていたんだろう。

「昨日の放課後、俺、遠村にぶつかって謝らずに去ってしまっただろ?

その事が気になってて、今日一日、ずっとお前を探してたんだ。」

「そうだったの・・・。私は大丈夫だから、あなたも気にしないで。」

「そっかぁ。それなら良かった。」

一先ず安心して、その場を去ろうとした瞬間、ある記憶が浮かんだ。


「なぁ、遠村。もしかして、俺達付き合ってんのか?」


遠村は何も言わず、曖昧に首を微かに縦に振った。

急に、さっきまでに無かった、遠村との記憶が止めどなく浮かび上がった。


遠村を好きになった日の記憶。

初めてデートした日の記憶。

遠村を傷付けて泣かせてしまった日の記憶・・・。


「安里くん。偽物の記憶に惑わされないで!

確かに、この世界で私達二人は恋人関係みたい。

だけど、それは本当のあなたでも、私でも無い。同じ様で、違う人間よ。

ここに長く居ると、本当の記憶が嘘の記憶に侵食されるみたい。」

「遠村。一体どう言う事なんだ?教えてくれ!」

「他の生徒達や教師と会うのは危険だから、屋上で話ましょう。」

俺は遠村に言われるまま、二人で屋上へと向かった。

幸いにも屋上への扉は鍵が掛かっておらず、俺達は難無く、屋上に上がる事が出来た。


屋上の扉を開き、遠村は壁に凭れる様にして腰を下ろした。

俺はそのすぐ隣に座り、混乱した頭で、遠村に質問を投げ掛けた。


「なあ遠村。お前がさっき言ってた、偽物の記憶やこの世界って、一体どう言う意味なんだ?」

遠村は少し困った様な表情で、ゆっくりと話し始めた。

「私も、確かな事は何にも分からない。

これから話す事は、飽くまでも、私個人の見解。」

「個人の見解でも何でも良いから教えてくれ。俺は何が何だかさっぱり分からないんだ。」

「私の世界では、昨日と言う日は忘れられない特別な日だったの。

安里くん・・・。あなたが、私達の世界から消えて、別の人間、セシルくんが現れた。」

「そうだ・・・。光。俺はあの時、目の眩む様な光に包まれたんだ・・・。

あれっ?だったら何で今俺はここに居るんだ?」

断片的に記憶が蘇って来た。たけど、肝心な事は何も思い出せない。


それは掛け替えの無い、大切な仲間・・・。


仲間?俺には仲間が居たのか?

記憶に靄が掛かって思い出せない。

何があっても決して忘れてはいけない筈なのに、どうしちまったんだ俺は。


"お願い、翔・・・。戻って来て・・・。"


「!?」

「遠村。今、声が聞こえなかったか?戻って来てって・・・。」

「私には何も聞こえなかったけど・・・。でも、それはもしかしたら、気のせいじゃ無いかもしれない。

きっと、何処かで、あなたの帰りを待っている人が居るんだわ。」

その声には聞き覚えがあった。

いつも明るくて、俺より年上って事で強がって見せるけど、涙もろい所もあったりして。

誰よりも俺の事を認めてくれていて、信じてくれてて、勇気付けてくれる・・・。


こんなにも大切な奴の事を思い出せないのが悔しい。


「俺は絶対に帰らなきゃいけない。」

「そうね。私も、元の世界に戻ってもう一度セシル君に会いたい。

その為にも、私達がお互いに協力して、記憶を頼りに、何としても突破口を見つけましょう。」

「ああ。そうだな。」

「私が見た所、安里くんの方が、記憶の混乱が大きく見られるから、私がこの世界に来た時のお話からするね。

私はこの世界に来て暫くして、ここが私の居た世界とは違うって事に気付いたの。

カレンダーの日付を見て、今居る世界は私の居た世界の過去に当たるんだってその時確信した。

だけどそれは、ただ過去だって言うだけの単純な物では無かった。

居る筈の人が居なかったり、居ない筈の人が居たり。

他にも私の居た世界との相違点が多く見られた。

例えば、あなたが見た、陽菜さんと転校生との関係だったりね。

私がこの世界に来たのは恐らく、あなたがここへ来る10日程前だった。

最初は陽菜ちゃんに相談しようと思ったけど、この世界の陽菜ちゃんは、私の知ってる陽菜ちゃんじゃ無かった。

その時まで、ずっと考えまいとしていたけど、私は独りぼっちになんだって思い知らされた。

本当に辛かった・・・。

そんな時、カレンダーの日付を思い返して気付いたの。

私の世界で、あなたが消えてセシル君が現れた日。この世界では丁度昨日に当たる日。

その日は何か起こるんじゃないかって。

私はその時が来るのを教室の前でじっと待った。

すると突然、人が変わった様に狼狽したあなたの声が耳に入って来た。それでもしやと思ったの。

この世界のあなたと別の世界のあなたが入れ替わったんだって。」


「そんなぁ・・・」


「ところで、安里くんは、物理の先生が誰だったか覚えてる。」

「物理は一年の頃からずっと桃恵先生だろう?」

「それがこの世界では違うの。どうやら桃恵先生自体、この世界には存在しないみたいなの。

安里くんが私達の世界から居なくなった後、俄かに信じられない事が沢山起こったの。

余計にあなたを混乱させる事になるかもしれないけど、桃恵先生は私達の世界の管理者だったの。」


「管理者・・・?待ってくれ!管理者なら俺も一人知っている!」

白髪で老人の癖にやたらと強い、名前は確か・・・。


「そうだ!ロマリオン!魔王ロマリオンだ!」

「もしかしたらと思ってたけど。やっぱりあなたは別の世界に飛ばされていたのね。

それは多分、セシル君の居た世界なんだわ。

セシル君も魔王を討伐する旅をしてたって言ってた。」

「そうだ!セシルって名前は知ってるぞ!イワンや、そう・・・アリシア!

二人が一緒に旅をしていた仲間だって言ってた!

俺はそこで、アリシアとイワンと一緒に旅をしてたんだ!」


「ねぇ安里君。世界には必ず管理者なる者が存在するのかな?

もし存在するんだとしたら、何か知ってるかもしれないわ。」

「仮に、もし存在するんだとしても、それを探すなんて雲を掴む様な話じゃないか?」

「・・・。前に桃恵先生が話してたんだけど。桃恵先生は完全な管理者じゃ無いって。

と或るお婆さんから管理者の能力を託されたんだって。」

「そのお婆さんがこの世界にも存在するのなら、もしかすると・・・。」

「桃恵先生がお婆さんと会った場所、私、覚えてる。」

「その周辺を徹底的に探れば、お婆さんと遭遇出来る可能性は高まる!」

遠村のお陰で、希望が見えて来た。

もし、俺一人だけがこの世界に飛ばされていたのなら、自らの不運を呪うばかりで、何の行動も起こせなかったかもしれない。


「ごめんな。遠村。」

「どうしたの急に。」

「俺、遠村の事、今まで誤解してたかもしれない。

いつも自信が無くて、下ばかり向いてる暗い奴っだって思ってた。

だけど、本当はこんなにも、直向きな強い心を持った奴だったんだなって、すっげぇ感心しちまった。

実は俺、一人、知らない世界に飛ばされた時は、恐くなって泣いちまったんだぜ。

全く情けなくて笑っちゃうよな。

たまたま最初に出会ったのがアリシアとイワンだったから、一緒に旅するのが楽しくなって、それからは泣かずに済んだんだけど。」

「私の場合はね、セシル君や七海ちゃんとの出会いが、それまでの弱くて、臆病で、人との関わりを避けて来た私を大きく変えてくれたの。

もう一度、会いたいって人達に出会えて私、心を強く持てる様になったの。

私から見て、安里君も前とは随分と変わったと思うよ。

人の痛みに気付いてあげる事が出来て、何だか頼もしい存在になったって感じたよ。」

「そう言われると、何だか照れるな。

俺はまだセシルの世界でやり残した事があるから、遠村と同じ所には帰れねえけど。

お互いに、必ず帰るべき場所に帰ろうな。」


「うん・・・。そうね。」

そう言った遠村は、口角を少し上げただけで、どの様な感情を抱いているのか読み取れなかった。

だけどその表情は、俺に対して何か隠しているのだろうか、複雑な思いを打ち消そうとしているかの様にも見えた。




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