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ANOTHER WORLD STORIES  作者: 佳樹
第一部 勇者と高校生
63/75

63話 Cecil

僕は真っ暗闇の中から、希望の光が灯るのを感じた。

"death sower"が七海さんの命を奪うまでに、どれだけの時間が残されているのか分からない。

急いで装置を入手しなければ手遅れになる。


「桃恵先生、霊体になる装置は今何処にあるのですか?」

先生の表情に若干の曇りが見て取れた。

視線も何処か忙しなく動いている。


ややあって先生は重い口を開いた。

「装置はね・・・。さっき話した研究施設の中にあるの。」

「場所が分かっているのでしたこうしちゃ居られません。早速、施設へ急ぎましょう。」

僕はベンチから勢いよく立ち上がった。

そうと分かれば、ここでじっとしてられない。

すると、桃恵先生は逸る気持ちで一杯の僕の手を引いて制止した。

「セシル君気持ちは分かるわ。

これは大きなリスクを伴う危険な賭け。

私が在籍していた時にも、施設への侵入を試みた者が何人か居たわ。

その人達が見つかって、どうなったか分かるかしら?」

「・・・ゴクリ」


「その場で直ぐ銃殺されればまだ幸運な方。

人体実験の材料として、体中バラバラに切断されたり、人で無くなったり・・・。

私も施設にはそう簡単には入れない。

前回、研究所を辞めていた私が、施設に侵入して装置を入手出来たのは、ある人物の協力があったからなの。」

「でしたら、今回もその方に協力を求めましょう!」

「それは出来ないの。」

「どうしてですか?見ず知らずの人の為に、その方が危険を冒してまで、協力するとは考えられないからですか。

その方が何を見返りとして求めるか分かりませんが、僕はどんな事をしてでも、それに応える覚悟はあります。」

「違うの、そうじゃないの。

彼は変わってしまった・・・。きっと、もう誰の声も届かない・・・。」

「どう言う事ですか?」

「・・・・・・。」

桃恵先生は下を向いたまま口を閉ざし、これ以上かつての協力者について語るのを拒んだ。

ここまで重要な話をしてくれた先生に、無理に聞く事は僕には出来なかった。

協力者の事は諦めるしかない。

かと言って、ここで怖気付いて、施設に行くの断念する訳には行かない。


「分かりました。協力者の事に関しては、もうこれ以上尋ねる事はしません。

僕は元々、一人でも研究施設に行くつもりでしたから。」

「気を遣わせてごめんなさい。彼の事を聞かれるのが一番困るから助かるわ。

だけど、近い内に彼は必ずあなたの目の前に現れる。

その時にあなたが私を心の底から恨んだとしても、私はそれを甘んじて受け入れるわ。」

桃恵先生の言葉の裏に隠された真意が分からないだけに、言い知れぬ不気味さを感じる。

何だろうこの感覚は。

先生の真意を知りたいが、僕の無意識の心は何か必死に訴え掛けている。


"知ってはならない・・・。"


今は装置を入手する事だけに専念しよう。


勝手を知らぬ施設に一人で向かうのには一抹の不安があった。

しかし、桃恵先生は七海さんを救う為に、僕と一緒に施設に行くと言ってくれた。

その事が素直に嬉しく、そして何より心強かった。

あまり考えたくは無いが、七海さんに会えるのはこれが最後になるかもしれない。

施設に向かう前に、もう一度だけ病室で眠る彼女の顔を見ておきたい。

自分から先生を急かせていたのに、それが単に僕の我儘だと言う事は重々承知していた。

先生も僕の気持ちを察して、そんな我儘を受け入れてくた。

私は車を病院の前に回しておくから、早く彼女の元に行ってあげてと背中を押してくれたのだ。


僕は様々な思いを胸に病院の階段を上った。

そして、彼女が眠る病室の扉を開けた。

すると、そこには、陽菜さんの姿があった。


「ど、どうして陽菜さんがここに居るんですか?」

病室に陽菜さんが居る事を全く予想していなかった僕は、自分でもどうしてこんな言葉が口を衝いて出たのか分からない。

陽菜さんが七海さんの事を心配して、お見舞いに来た事に、何の不思議も無い。

「どうしてって、七海ちゃんが心配だからに決まってるじゃな~い。

それとも、何かな~。私が来たらまずかったのかな~。

もしかしてセシルくん。二人きりになったのを良い事に、七海ちゃんに何か良からぬ事しようとしてたのかな~?

ダメだよ!幾ら二人が両想いだからってそんな事しちゃ~」

陽菜さんは肩をすくめ、やれやれといったポーズで、僕に冷ややかな視線を送った。

「ち、違いますよ!僕は最後に七海さんの顔を見に来ただけです!」

陽菜さんの表情から、さっきまでの冗談っぽさが消え、強張った様な表情に変わっていた。

そこで僕は、はっとした。何て馬鹿なんだろう。

陽菜さんに余計な心配をさせる様な事を口走ってしまった。


「セシル君。何があったのか、ちゃんと私の目を見て正直に話して。」

その澄んだ瞳からは、一切の嘘や誤魔化しを許さないという強い意志が読み取れた。

全てを見透かす様なその視線に僕は逆らう事が出来なかった。

僕は陽菜さんに、何もかも包み隠さず、此処に至るまでの経緯を説明した。

陽菜さんは、時に驚き、時に涙し、僕の話に聞き入った。


全ての話を聞き終えた陽菜さんは、力強く握り締めた両手の拳を胸の前まで上げて言った。


「私も行く!!!」

僕の説明が足りなかったのだろうか。

施設内でもし捕まった場合の危険性につて、正確に伝えられてなかったのだろうか。

「陽菜さん。お気持ちは嬉しいですが、これがどんなに危険な事なのか分かってますか?

僕はそんな所にあなたを連れて行く訳には行きません。」

「私だって、とっても危険な事だって位、ちゃんと分かってる!

それでも、ただじっと待つだけなんて出来ない!七海ちゃんを助けたいの!

だって、このままだと七海ちゃんが可哀想過ぎるよ・・・。

今までずっと、ずーっと、苦しくて苦しくて、胸が張り裂けそうで、それでもやっと、幸せを手に出来ると思った矢先に、こんな事になるなんて!

私、行かないで後悔するのだけは絶対に嫌!

誰が何と言おうと一緒に行くんだから!」


七海さんの強い覚悟に僕は根負けした。

それは無謀などでは無く、勇敢さだ。

強い思いは時として、奇跡を呼び込む。

その考えは、僕が元の世界に居た時の経験から得たものだ。

窮地に立たされた時、その覚悟の大きさが何度も戦況を変えた。

その思いは周りにも伝染し、普段の何倍もの力を発揮する。



それは油断すれば、失う恐怖に支配されそうな今の僕が、一番欲っしていたもの。



「分かりました。陽菜さん。一緒に行きましょう!」




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