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ANOTHER WORLD STORIES  作者: 佳樹
第一部 勇者と高校生
61/75

61話 Cecil

僕は原稿とブレイブソードを握り締め、部屋を飛び出した。

そして、マンションの下を通り掛かったタクシーに乗り込み、病院へと急いだ。

僕は逸る気持ちを抑え、病院に着くまでの間にこれまでの状況を整理する事にした。

原稿に現れた"death sower(死を蒔く者)"と言う一節。

これには心当たりがある。

折に触れて七海さんの前に現れ、彼女から大切な人を奪って行く存在。

"あれ"の事だろう。

昨日の七海さんの怯えた様子は"death sower"に自らが取り憑かれている事を知っていたからに違いない。

それなのに僕は、彼女が苦しんでいた事に全く気付かずに、デートに浮かれていた。

僕は何て愚かなんだ。

駄目だ、今は七海さんを救う手立てを考える事に集中しなければ。


七海さんに"death sower"が取り憑いていたとして、僕はその姿を認識する事が出来なかった。

この世界で、ゴーストの姿は認識出来るが"death sower"を認識する事が出来ない。

そう言えば、前に七海さんが話してくれたお友達も、ゴーストの姿は認識出来たが、"death sower"は認識出来なかった。

これまで、"death sower"を認識出来たのは、七海さん、彼女のお爺さん、そして、物語に登場した僕の父さん。

七海さんの御両親は、死の間際まで、自らが取り憑かれた事を知らなかった位だから、恐らく認識出来なかったのだろう。

そうなると、彼女の血縁者の中でも一部の人間にしか、認識する事が出来ないと言う事だろうか。


あれこれ考えている内にタクシーは病院の前で停車した。

僕はドライバーに礼を言い、タクシーを降りて、一目散に病室を目指した。

目に見えない"death sower"に対して剣を振る事に意味があるかは分からない。

だけど、目の前に敵が居る事が分かった以上、何もせずには居られない。

僕は病室の扉を勢いよく開けた。

そして、七海さんの眠るベッドへ、一直線に向かった。

ベッドの傍らには、桃恵先生が椅子に腰掛けていた。

僕の只ならぬ表情を見て先生は呆気に取られている様子だった。


「うぉーーー!七海さんの前から消えろ!」

僕は七海さんの周囲に向かって力一杯剣を振った。

しかし、剣は空を切るばかりで何の手応えも無い。

「何処に居る!卑怯だぞ!姿を見せろ!」

これまでの厳しい修行で身に着けた、正しい剣の型などでは無い。

只々行き場の無い怒りと憎しみを込めて、子供の様に出鱈目に何度も何度も剣を振った。

「どうして七海さんを苦しめるんだ!取り憑くなら僕に取り憑け!」

「一体どうしたって言うのセシル君!ここは病院なのよ!少し落ち着きなさい!」

桃恵先生は七海さんと僕の間に入り、必死に僕を止めようとした。

「先生!離して下さい!落ち着いてなんか居られません!早く奴を倒さないと僕は・・・僕は・・・」

不意に目を閉じたまま動かない七海さんの顔が視界に入った。

変わらず眠り続ける七海さんと、僕を心配する桃恵先生の表情を見て、やっと少しばかり冷静になれた。

それと同時に、幾ら剣を振っても無駄で、七海さんが倒れた原因が"death sower"の仕業だと分かった所で何も出来ない事が悔しくて仕方なかった。

そう思った瞬間、張り詰めていた糸が切れたかの様に全身の力が抜けて、僕は膝から崩れ落ちた。

「うぅぅぅ・・・前に七海さんと約束したんです。僕は世界を救う勇者だから、必ずこの苦しみから救うって・・・。それなのに・・・それなのに・・・。」

「あなたは七海さんの抱えている苦しみの多くを和らげて上げてたと思うわ。

一番の親友を失ってから、彼女が笑う姿を私は見た事が無かった。

だけど、あなたと出会ってからの彼女は自然と笑う様になったのよ。

それは他の人では出来ない事だった。あなただから出来た事よ。

神様でも無いんだから、人の身では出来る事と出来ない事に限界があるわ。あなたは、あなたに出来る事を十分にした。

勇者も一人の人間である以上、何でも出来る訳じゃ無いわ。」

「桃恵先生・・・。」

「それに、まだ打つ手が無いと決まった訳じゃないわ。何があったのか私に話して頂戴。」


僕は七海さんと"death sower"の二人だけを病室に残す事にはぞっとするが、それでも、先生との会話が奴に筒抜けになる事を恐れ、病院の庭へと先生を連れ出した。

緑豊かな庭に着くと、僕と先生は横並びで、ベンチに座った。

そこで僕は、『勇者アレンの冒険』の原稿を広げて先生に見せた。

先生は原稿を1ページ目から詳らかに観察しながら熟読し始めた。



不意に物語の途中で、文章を追う桃恵先生の視線が止まった。

「イワンって名前・・・」

先生が何かを呟いたが、それが何だったのか、僕には聞き取る事が出来なかった。



一通り物語を全て読み終わったのを見計らって、僕は突如浮かび上がった文章の事を話した。

「最初に原稿の余白部分に現れたのは、物語の続きとも取れる内容でした。

映画監督となった七海さんのお爺さんが、アレンと再会する場面。そこで初めて、"あれ"と言う存在が登場します。

"あれ"は、他の人間には見えない。

物語が現実に起きた事であるのならば、現実のお爺さんも恐らく"あれ"に取り憑かれた事によってお亡くなりになったんだと思います。

七海さんの話によれば、お爺さん以外で、これまでに"あれ"に取り憑かれた人は、彼女のお父さん、そして、自ら命を絶った彼女の親友。

そして、今、"あれ"は七海さんに取り憑いています。

物語の中では"あれ"に対してはアレンもどうする事も出来ないと話しています。

そして、昔二人が何か大切な約束をしたという事が会話の内容から明らかになるのですが、それが何なのかは語られませんでした。

それから数秒後、また別の文字が浮かび上がりました。

そこには、"物語はまだ終わらない・・・取り返しが付かなくなる前に、この呪われた連鎖を断ち切ってくれ・・・"と。」

「そうだったのね。

連鎖・・血縁者・・・。

ところで、七海さんは御両親がお亡くなりになって、親戚の元に引き取られて苗字が変わったそうだけど、セシル君は彼女の旧姓を知ってる?」

「ええ。以前に彼女が話してくれました。変わる前の苗字と名前の組み合わせが好きだったと。

大空の下に広がる七つの海で、大空七海。」



「大空・・・七海・・・?

まさか!?そんな事って・・・」




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