50話 安里翔
魔王がこの世界に飛ばされるまでの経緯を聞いて、俺と陽菜、魔王と姫様が重なり、居た堪れない気持ちになった。
魔王が姫様との思い出を語る時の嬉しそうな顔を見ていると、余計に痛々しく感じて胸が締め付けられる思いがした。
俺達の事を駒の様に扱う理不尽過ぎる世界に対して改めて怒りを感じた。
「魔王と姫様・・・何て健気な話なの・・・」
アリシアは少女漫画の様なラブストーリーに心打たれて涙を流していた。
「なぁ魔王!俺達絶対にそれぞれが住んでた元の世界に戻ろうな!」
「あぁ!姫様は私が来るのを今もずっと怯えながら待ち続けておられるかもしれない。必ずお助けして、お待たせして申し訳御座いませんでしたと心から謝りたい。」
魔王は身に着けた鎧の下からペンダントを取り出し、強く握り締めて誓いを立てた。
魔王が握り締めるペンダントの特徴的な模様。
どうしてだろう、これには見覚えがあるぞ。
でも俺は何処でそれを見たんだろう。
「魔王。この特徴的なペンダントの模様はこの世界では一般的なデザインなのか?」
「それは在り得ない。このペンダントは私の元居た世界のデザインで、オーダーメイドで作った物だ。だから世界にもたった二つだけしか存在しないんだ。」
「二つって事は一つはアンタが今持っている物だろう。もう一つは誰が持ってんだ?」
「もう一つは・・・」
魔王がペンダントを開いた。
「ここに写るお方が、もう一つのペンダントを持っておられる。」
ペンダントの中には一枚の写真が収められていた。
そこにはドレスを身に纏った美しい女性が写っていた。
「これってもしかして、さっき話をしていた姫様なのか?」
「ああそうだ。」
俺は姫様の顔を見てはっきりと思い出した。
ペンダントの持ち主は授業中いつもそのペンダントを握り締めていた。
だから生徒達は勝手にペンダントに纏わる話を創作して面白可笑しく噂していたんだ。
その一つには、ペンダントは不倫相手から貰った物で、今でもその相手の事を忘れられず何時も握り締めているとか。
また別の噂話では、その変わった模様のせいか、持ち主は実は宇宙人で、ペンダントはUFOを呼ぶ為の通信機であると言った子供じみた物まであった。
魔王のペンダントは桃恵先生が何時も肌身離さず身に着けていたペンダントと同じだ・・・
そして、この写真の人物は恐らく桃恵先生だろう・・・
もし、姫様と桃恵先生が本当に同一人物だとすると、ある事実を認めない訳にはいかない。
しかし、それを認めてしまうと、俺自身も目を背けたくなる事実を受け入れないといけなくなる。
それは途轍もなく恐ろしい事だ。出来る事なら考えたくない。
この世界と俺が元居た世界とは時間の流れ方が違う。
魔王は現在300歳を越えているが、桃恵先生は写真の頃よりも年齢を重ねたと言っても確か30代前半だった筈だ。
こんなに隔たりが生まれる何て信じたく無い。
本当は魔王の探し人が俺の世界に居るかもしれないと伝えたい。
だけど、別々の世界に飛ばされたが為に、年齢がこんなにも掛け離れてしまった何て魔王が知ったら、ヴァリア城に着く前にショック死するかもしれない。
これは孫とお爺ちゃんの年齢差のレベルの話では無い。
200歳以上離れているんだ。運良く再会出来たとしても、魔王が若い桃恵先生と年老いた自分とを比較した時にどう思うだろうか。
このまま再会は果たさないまま、美しい記憶だけを胸の中に留めておいた方が、お互いの為なのかもしれない。
これが愛する人との再会だけを夢見て、果てしなく長い時間を生き抜いた男が迎える結末だとするなら、何て残酷な仕打ちだろうか。
それじゃぁ魔王が余りにも可哀想過ぎる・・・
今はまだこの話をするのは止めておこう。
だけど、これは他人事じゃない。
今、こうしている間にも、俺は陽菜よりも歳を取っているかもしれない。
元の世界に戻る頃には・・・いや、その事は考えない様にしよう。
「最初の話に戻るが、思えばヴァリア城は私が最後に潜入した城に酷似している。この事に何らかの意味があるのなら、一つ確かめておきたい事がある。
私は城の潜入に当たって事前に城の図面を入手していたのだ。
しかし、実際に城に侵入すると、図面に書かれていない部屋が一部屋存在した。
その部屋の扉には多くの御札が貼られ、異様な空気を感じたのだ。
私は姫様の救出を最優先としていた為、その扉を開く事はしなかった。」
「なるほど。その異様な部屋には何かありそうだな。
魔王!アンタはここまで一生懸命頑張ったんだ!諦めなければきっと姫に再会出来る日が来る筈だ!一緒に最高のハッピーエンドを迎えよう!」
俺は魔王の前に右手を差し出した。
「私はこれまで途方も無く長い時間を無為に過ごして来た。しかし、君がこの世界に現れた事によって私の物語りも動き出した。
仮にゲートが私を受け入れなくとも、何としてでも自らの力で道を切り開いて見せる!」
魔王は躊躇う事無く右手で俺と力強く握手を交わした。
「君達はこれから共に戦う仲間だ。だから私の事は本来の名であるロマリオンとそう呼んでくれ!」
「ああ!改めて宜しくな!ロマリオン!」
剣士が利き腕での握手に応じる意味を俺もちゃんと理解している。魔王は俺達を仲間として信じようとしてくれてるんだ。
「二人共その意気よ!私も頑張っちゃう!」
アリシアは拳を軽く握り、肘を折り曲げて言った。
「皆の衆!怪我した時は何時でも言ってくれ!俺が薬草を素早く渡してやるから!」
イワンは薬草を渡す素振りをしながら言った。
「三人共、心の準備は良いな!ここから一気にヴァリア城までワープする!」
ロマリオンがワープの呪文を唱え始めた。
「オーーー!!!」
俺達は拳を振り上げて力強く叫んだ。
モンスターも魔物も存在しない平和な世界で、代わり映えない高校生活を送っていた頃には想像もしなかった。
これと言って特に目立つ事の無い俺に、こんなにも掛け替えの無い、頼もしい仲間が三人も出来るなんて・・・




