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3)残した者

 枝が折れる音の直後、地面に叩きつけられる衝撃が、柔らかい、人の体を通してアレキサンダーの体に伝わってきた。

「くぅっ」

 血臭と共に、押し殺した呻き声が耳元で聞こえた。アレキサンダーが何か言う前に、襟首をつかまれ無理やり引きずられ、歩かされた。茂みにたどり着いたとたん、アレキサンダーを引きずる力がなくなった。

 ロバートが茂みを背に、倒れ込んでいた。

「ロバート」

明らかにロバートの様子がおかしい。そもそも、アレキサンダーの下敷きになったのだ。無事なはずがない。

「アレキサンダー様、どうか、お逃げください。近衛のところならば、安全です」

 月に照らされた庭は明るい。藪に隠れたとはいえ、アレキサンダーの姿も、ロバートの姿も周囲から丸見えだ。動けそうにないロバートを置いていけば、何がおこるか明白だった。

「当たり前だ。お前を連れて行く」

 アレキサンダーは、ロバートを助け起こそうとしたが、ロバートに手を振りはらわれた。

「動けません。私のことはおかまいなく」

「嫌だ、お前を見捨てるなど」

突然、ロバートに頬を張られた。

「私情に溺れ、甘えてはなりません。王族ならば、国のため生き延びるのが義務です。私が枷になるのならば、ここで今、自害して果てるまでです」

 荒い息をし、押し殺した声で言ったロバートは、短剣を自らの喉に突き付けた。

「ロバート」

短剣の先が突き付けられたロバートの喉から、血が流れ始めていた。こうなったら、ロバートは絶対に引き下がらない。実際、アレキサンダーがロバートを連れて逃げても逃げきれないだろう。味方となる近衛兵たちを連れてくるしかなかった。

「覚えていろ、あとで絶対に殴ってやる」

「どうぞ。当たりませんが」

ロバートの憎まれ口を背に、アレキサンダーは走った。


 屋敷の地図は頭に叩き込んであった。部屋に刺客が押し入ってきたことを考えると、アレキサンダー達のいた部屋を警備していた近衛兵達はもういないだろう。アレキサンダーは近衛兵達が天幕を張っている場所へと走った。


 見張りの近衛兵がアレキサンダーに気付いた。

「殿下、どうされましたか」

「その血は」

慌てて口口に言い、アレキサンダーを保護しようとする近衛兵達の手を振り払った。

「付いてこい」

戸惑う彼らを無視し、アレキサンダーは、もと来た道を走った。

「殿下」

「お待ちください」

近衛兵たちが慌てながらも後ろからついてくることを確認し、アレキサンダーは走り続けた。止まったりできなかった。早く戻らないと、ロバートが危ない。




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