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16)子と親

 アレキサンダーがロバートに付き添うことになったとたん、医者の弟子ハロルドはアレキサンダー相手に容赦なく、あれこれと指示を出してきた。

 ロバートは恐縮して断ろうとしたが、起き上がることすらできない身ではどうしようもない。アレキサンダーは体を拭いてやり、着替えを手伝い、食事を食べさせた。


「アレキサンダー様は、意外と何でもできますね」

 不躾なハロルドの言葉に、アレキサンダーは隣の部屋のロバートが寝ていることを確認した。

「アリア、私の乳母の方針だ。王族は、いつ何があるかわからない。いざという時、生き延びるため、自分のことくらい自分で出来なくては駄目だと育てられた」

 当時、意味はわからなかった。今となってはアリアが、本当にアレキサンダーのためを思っていてくれたことがわかる。

「へぇ。殿下はいい乳母に育てられましたね。その方のおっしゃる通りですよ。私の兄は騎士です。それなりに腕も立つみたいですけど、襲撃されたとき、自分で剣を掴んで走って逃げられない主人の身なんて、兄が何人いても、守れないと思います」

ハロルドの兄にあったことなどない。だが、このよく喋るハロルドによく似た男が数人いる光景を想像し、アレキサンダーは顔を顰めた。


「お前、貴族相手には随分と辛らつだな。アリアはロバートの母親だ。優しい人だった」

「殿下、そんなにお世話になった乳母の息子さんに、無理させましたね。反省した方がいいですよ」

アレキサンダーも、今更ハロルドに指摘されなくても十分わかっている。確かに、無理をさせたアレキサンダーが悪い。だが、このハロルドは口が悪い。

「ハロルド、お前、随分と言いたい放題だな。私は王太子だぞ。他の者がいたら不敬を咎められるぞ」

「えぇ、ですから、騎士にはなれないと思って家出しました」

突然、打ち明け話を始めたハロルドにアレキサンダーは驚いた。

「家出か。親はお前がここにいることを」

「知らないはずです。知らせていませんから」

「知らせてやれ。きっと心配しているだろうに」

アレキサンダーの言葉に、ハロルドは肩をすくめた。

「連れ戻されるから嫌です。医者として一人前になったら連れ戻されることも無いでしょうから、知らせます」


 アレキサンダーは、もう一度、扉の向こうの部屋をみた。寝台の上のロバートは、まだ眠っている。今なら聞こえる心配はないだろう。

「アリアは亡くなった」

アレキサンダーは声を潜めた。ロバートが墓に縋って泣いていたことが忘れられない。

息をのんだハロルドが、寝台の上のロバートを見た。

「突然で、誰もアリアが亡くなるなんて思ってなかった。本当に急だった。まだ若い私が、お前に言うのもどうかと思うが。ハロルド、親が生きている間に、会っておいたほうがいい」


アレキサンダーの言葉に、ハロルドが神妙な顔をした。

「親がお前を連れ戻しに来たら、私が、ハロルドは、ロバートの看病をする私の手伝いをしているのだからといって、親を説得できるかやってみる」

いつまでも、ロバートに助けてもらうだけではいけないと、アレキサンダーも思っている。


「お前は私を邪険にするが、私は王太子だ。王太子の手伝いをする息子の邪魔をする親がいるとは思わないが」

 アレキサンダーなりに、出来ることはやるのだ。

「わかりました。殿下がそこまでおっしゃるのでしたら、明日、親に手紙を書きます。もしもの時は殿下、親の説得を手伝ってくださいよ。言っておきますけど、父も兄も騎士ですから、怒鳴るとうるさいですよ」

「お前の大声は血筋か。説得だけでなく、耳のためには、怒鳴らせないように努力する必要がありそうだな。」

「よろしくお願いしますよ」

「もちろんだ」

にやりと笑ったハロルドにつられて、アレキサンダーも笑った。ハロルドは少々図々しい気もするが、親身になってロバートの世話をしてくれる。アレキサンダーはなんとなく、ハロルドに親しみを感じていた。



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