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そらのそこのくにせかいのおわり(改変版)5.2 < chapter.2 >

 ゴヤとロドニーは隊長室、総務部、警備部を回り、魔導兵器開発部に来ていた。

 開発部の鬼才、ジョリー・ラグー・フィッシャーマンは、二人の話にノリノリで食いつく。

「ありました! ありましたとも、ウンチブーム! 私の出身校では、ウンチのオリジナルキャラクターを描くブームになっていましたね!」

「へー、オリジナルキャラクター! ジョリー、どんなの描いてたんだ?」

「ええとですね、私のキャラは……」

 そう言うと、ジョリーは机上のブロックメモに、恐ろしく手慣れたペン捌きで絵を描き始めた。そして一分と経たずにそれを完成させ――。

「『限界突破! ハイパー☆ウンチマン』! 世界の人々の、ウンチを我慢するギリギリ限界の精神力を吸い上げ、エネルギー源として戦うスーパーウンチヒーローです! 宇宙の侵略者から、この星を守ります!」

「おー! なんだこれ! いいじゃん! 俺、こういう特撮ヒーローっぽいデザイン好きだぜ!」

「ヤベーっすね! でも、ウンチ我慢してる人から精神力を吸収しちゃったら……」

「はい! 全世界、脱糞の嵐です!」

「うっわヤッパリ!」

「クソだ! クソ過ぎる! 男子小学生向けギャグ漫画の設定だソレ!」

「クハハハハ! 世界を守るために、代償はつきものなのですよ、代償は!」

「代償デケエなぁ~」

「いっそ一息に殺してもらいたいっスねー。全力でウンチ漏らして、その後に社会復帰は辛すぎッスよー」

「あ、ああ……でも、便所の扉全開でウンチするヤツが言っても、あんまり説得力ねえけどな……?」

「え? 漏らしてなければ全然セーフッスよ?」

「お前の基準、たまに分かんねえわ」

「そッスか? めっちゃ一般的な基準ッスよ?」

「あ? どこが?」

 真顔で言い合う二人をよそに、ジョリーは手元の端末を操作し、開発部内で稼働実験中の汎用作業ロボットを呼び出す。

 オフィスの奥から現れたロボットの手には、赤いラベルが貼られたアルミケースがあった。ラベルに躍る文字は、安全性が確保されていないことを示す『HR』。そのものズバリ、ハイリスクの略である。

 嫌な予感に表情を曇らせるゴヤとロドニー。そんな二人に向けて、ジョリーは満面の笑みでアルミケースを差し出す。

「実は、既にウンチマンアーマーの実験機は完成しておりまして。ハドソンさん、お試しになりますか?」

「え!? なんで俺!?」

「このデザインが、たいそうお気に召されたようでしたので」

「あ、うん、そうだな! でもまあ、ほら、アレだ! ウンチマンになるなら、ゴヤのほうが適任だと思うぜ! キャラ的に!」

「おやおや、そうですか? では、ゴヤさん! さっそく準備を!」

「頑張れよ! ゴヤ!」

「ええっ!? マジっすか!?」

 騎士団において、『先輩の指示』は絶対である。しかもロドニーは、ただの『先輩』ではない。ハドソン伯爵家の次期当主だ。ハドソン家の地位は、王国全土の貴族の中でも上から数えたほうが早い。士族階級のゴヤに、拒否権などあるはずも無かった。

「あー、もー、しゃあねえッスねー……。装着方法、中に書いてあるんスか?」

「はい。読みやすさを重視し、マニュアル冊子は四コマ漫画にしておきました」

「いつものッスね! そんじゃ、実験室のほう行ってきまーす」

「では、ゴヤさんの装備が整うまで、ハドソンさんはこちらでお茶でも」

「お、気が利くな!」

「ささ、どうぞどうぞ。こちらにお掛けになって」

「おう、ありがとな!」

 勧められるがまま腰を下ろし、ロドニーはゴヤの支度を待つことにした。




 数分後、実験室には謎の新装備、ウンチマンアーマーを身に着けたガルボナード・ゴヤの姿があった。

 装着した姿に、特に問題はない。頭に被った『ウンチマンヘッドセット』は金色の巻きグソだが、それ以外のデザインはごく普通の、人間用のアーマーである。

 全身を完全に覆う甲冑タイプではなく、コントローラーと通信機を兼ねたヘッドセット、膝からつま先までの脚部パーツ、肘から指先までの腕パーツ、胸当て、脊椎の保護と腰の曲げ伸ばしを補助する背面パーツから成る。

 区分としては『軽量型・近接戦闘用アーマー』となるが、首、腋、金的などの急所をガードするパーツは一つもない。攻撃力と機動力の底上げのみを目的としているらしい。

 軽く体を動かし、使用感を確認するゴヤ。これは装着者の動作に合わせて機械的な補助が入る、典型的なパワードスーツだった。通常時の数倍の握力で物を掴めるし、しゃがんだ後の立ち上がりや、前屈みになった際の腰への負担が軽減されている。

 しかしこの程度の性能ならば、軽作業用として市販されていてもおかしくない。『ハイリスク実験機』に指定されるからには、なにか隠された機能があるに違いないのだが――。

「あれ? 先輩? どうしたんスか?」

 ロドニーの様子がおかしい。

 曰く言い難い表情を浮かべ、どことなく前傾気味になっている。

「えっと……どっか、痛いんスか? お腹?」

「お、おう……なんか、さっきから妙に腹の具合が……?」

「大丈夫ッスか? 医務室行きます?」

「いや、それほどでもねえし、たぶん大丈夫」

「なら良いんスけど……?」

 仲間を心配するゴヤをよそに、ジョリーはニコニコしながら、ロドニーに謎のヘルメットを被せる。一般的な高所作業用の安全帽を改造した物のようだが、ヘルメットのてっぺんからアンテナが突き出ているのが特徴的である。アンテナの先には、当然のようにウンチのマスコットがついている。

「え、ちょ、ジョリー? このヘルメット、何?」

「排便欲求を抑圧した際に発生する、精神エネルギーの送信装置です」

「……ん?」

「先ほどご説明した通り、ウンチマンは、世界の人々の『ウンチを我慢する精神力』によってパワーを得ます。これは私の持論なのですが、排泄欲は、人間の三大欲求にカウントされていないにもかかわらず、その実、睡眠欲、食欲、性欲以上の精神エネルギーを消費しています。食欲と対を為すものでありながら、食事のように『人前で気軽に』という訳には参りません。睡眠中であっても、健康状態によっては容赦なく出ます。性行為はパートナーとの絆を深めますが、ウンチを漏らせば交際終了です。それでも人類は、排泄欲を止めることができません。生きている限り、ウンチは出ます。それなのに、トイレまで我慢できなければ、待ち受けるのは絶望的終焉のみ。つまり、標準的な社会人であれば、排泄欲を制御するため、少なからぬ精神エネルギーを消費しているはずなのです。それも、一日に何度も。大小プラス放屁の抑制に費やすエネルギー量は、日々、莫大な数値となっているに違いありません。このエネルギーを魔導エネルギーに変換することができれば、史上最強の戦闘用アーマーが開発できるのではないか? 私はそう思い立ち、このアーマーの開発に着手しました。そして先月、ついに実験機が完成したのです! ……ですが、騎士団長命令で、『ハイリスク実験機』に指定されてしまいましてね……」

「あー、うん、あの……ちょっと確認していいか?」

「なんでしょう?」

「喋りながら色々つけてる、これは……?」

 ロドニーの両手、両足首に装着されたのは、どこからどう見ても囚人拘束用の手枷、足枷だった。鎖の先は、実験室で一番太い鉄筋コンクリートの柱に繋がっている。

 ジョリーはスッと後ろに下がると、メガネをクイッと直しながら、謎の笑みを浮かべた。

「……本当は、逆の配役を想定していたのですがねぇ……」

 キラリと光るジョリーの眼鏡。

 この光を見た瞬間、ロドニーは悟った。


 さっきのお茶は下剤だ。


 ロドニーはそのことについて問い質そうと口を開きかけたが、それより一瞬早く、緊急事態を知らせる警報が響いた。

 何事かと耳をそばだてる三人。サイレン音に続き、状況を知らせる緊急放送が行われた。



〈こちらは中央司令部・魔導技術調査室です。

 中央司令部の押収品一時保管庫より、違法改造された作業用ゴーレムが逃げ出しました。

 このゴーレムには戦闘用ゴーレムに匹敵する戦闘力が与えられており、非常に危険です。

 屋外作業中の騎士団員は、直ちに最寄りの建物に避難し、防御結界を構築してください。


 なお、このゴーレムには傷害致死事件の証拠となる魔法式が書き込まれているため、強制解除による術式の削除デリートが行えません。魔法による足止め、魔弾による攻撃も、術式を欠損させる恐れがあります。魔法、及び魔弾の使用は厳禁。物理的拘束へのご協力をお願いいたします。


 ゴーレムは現在、散策路を蓮池方面に移動中であり――――〉



 ここまで聞くと、ゴヤはジョリーに尋ねた。

「これ、多少破損しても大丈夫ッスか?」

「ええ、実験機ですから。実戦データが取れれば十分です」

「そんじゃ、このまま行ってきます。で、あの、先輩! えっと……」

 ゴヤは微妙な半笑いになった後、取り繕うように表情を引き締め、こう言った。

「頑張ってください! 行ってきます!」

 颯爽と駆けていくゴヤ。柱に繋がれたロドニーは、その背を無言で見送った。


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