寝れない少女、楪鈴華9
その後、2階の家庭科室の中でうちとフミちゃんのご両親を見つけた。
普通に談笑していたのを見た時には、フミちゃんと2人で思いっきり脱力して苦笑を浮かべた。こんな状況でよく談笑できるな…
とりあえず家族とも合流できた。親友も一緒。これで一安心。そう思ったのが間違いだったらしい。
何やら3階が騒がしくなっている。
人々の叫び声と逃げてくる足音が盛大に聞こえてくる。
そして聞こえてきた声。
『奴らが侵入してきたぞ‼︎‼︎』
血の気が引く。毛穴が一斉に開き、冷や汗が流れる。頭の中に浮かぶ文字は『フラグ回収』…やってしまったか……
『うわぁぁあぁぁああ‼︎‼︎⁉︎⁉︎』
突如大混乱が起こる。
みんなが我先にと教室を飛び出し、下のフロアへと逃げようとする。中には窓から下に行こうとする人達も。
「あ⁉︎あぶなーー」
「うわぁっ⁉︎」
当然命綱もない為、真下へと落下していく。
「そんな…」
「すずちゃん、そんなこと気にしてる余裕ないよ‼︎早く逃げないと‼︎」
「でも…」
「お姉ちゃん、フーちゃん、こっち‼︎」
「りんちゃん⁉︎」
「あ…佳琳⁉︎お母さん達は…」
「どこか逃げ道があるなら行きなさい。大人数よりも少人数の方が逃げやすいし隠れやすいはずだ。父さん達は何とか逃げ切るから。母さんは任せろ‼︎」
「3人とも、無事でいてね。」
「フミ。すずちゃん。りんちゃん。気をつけて。」
「大丈夫だ。父さん達を信じろ。さぁ、早く行きなさい。」
親達はそう言って教室を出て行こうとする集団に混ざった。
「お姉ちゃん、フーちゃん、早くこっちに‼︎」
「う、うん。」
せっかく出会えたのにまた離れてしまう。はっきり言ってかなり辛いが、生き残らなければ元も子もない。
とりあえずは佳琳のに任せるか。
「行くってどこに行くのよ…」
「机の下‼︎」
「「はぁ⁉︎」」
思わずフミちゃんと2人揃って声が裏返る。
当たり前だろう。あろうことかこの妹、『逃げない』って言ったのだ。
「あんた…それどういうこと?」
「わわわ、お姉ちゃん、ちょっと待って‼︎」
「時間がないから早くして。」
「だから、今逃げると巻き込まれちゃうし見つかりやすいから。だから収まってから逃げるの。」
なるほど。聞いてみると納得だ。やっぱり焦っていてもちゃんと話は聞くべきだ。
「で、その後はどこに?まさか校長室とか?あそこなら鍵もついてるしね。」
「ううん、屋上。」
「「はぁ⁉︎」」
またも2人揃って声が裏返る。
「なんで奴らが来た場所に行かないといけないのよ‼︎」
「だって、あのもやもや、移動してるんでしょ?なら、現れた所に行けばいいんじゃない?戻ってくるとは普通思わないし。」
なるほど。それも盲点だった。しかし、もし一体でも残っていればアウト。そこから新たに発生したりすればアウト。途中の道で出会ってもアウト。かなりリスクは高いけれども。
佳琳は元々鬼ごっこやかくれんぼが得意だ。それだけに、そういう鬼側の心理も理解できるのだろうが…
「と、とりあえずりんちゃんの案に賭けてみようか…」
「そう…だね……」
とりあえず机の下に隠れる。教室の中に入ってきて、一箇所一箇所確認されたら即アウトだが、多分大丈夫だろう。
♢
何分経っただろうか。
騒ぎも収まって、周りからは一切人の気配を感じなくなった。
「よし、行こっか。」
「「うん。」」
周りをしっかりと確認し、教室を出る。
目視できる範囲では、とりあえず大丈夫。
ゆっくり、ゆっくりと歩いていく。
「ね、ねぇ…すずちゃん…大丈夫、かな…」
「大丈夫、だと信じよう。信じるしかないから。」
目指すのは3階へ昇る階段。
しかしーーーー
「◾️◾️◾️◾️◾️」
「「「⁉︎」」」
階段を昇ろうとした時、ついに1体の眷属に見つかってしまった。
「走って‼︎」
全力で階段を昇る。目指すは屋上。あそこならば鍵がついているはず。
「◾️◾️◾️◾️◾️‼︎‼︎」
3階に到着。
屋上の扉まで、残り約20メートル。
その間にもどんどんと私達を追う眷属の数は増えていく。
5体、10体、13体ーーーー
「あと少し‼︎」
どんどんと距離は縮まる。残り約10メートル。
「もうちょっと‼︎‼︎」
もうほとんど距離の差がなくなってきた。残り約5メートル。ほんの少しの距離が、果てし無く遠く感じる。
そしてーー
「着いた‼︎」
「閉めて‼︎」
「分かった‼︎」
屋上へとなんとか滑り込み、佳琳が素早く扉を閉める。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
肩で呼吸をする。
危なかった。あと少し遅れていたら……
見るとフミちゃんと佳琳は大の字になって屋上の床に寝そべっている。床が汚い、とかそんなことを言っている余裕は一切ない。
パチ、パチ、パチ…
背後から小さな拍手が聞こえてくる。
誰か居た⁉︎
身構えると、そこには、
「お疲れ様。」
出入り口の上で退屈そうに座っている黒衣の少女ーー死神さんがいた。