寝れない少女、楪鈴華7
「違う。奴らが擬態するのは人間。寄生した人間が最も大切に思っている人間よ。」
最初、何を言われたのか全く分からなかった。
人…間…?一番…大事な…?
「当然じゃない?いくら眷属が多かったり強かったりしても、本体は黒魔一体。実力なんてたかが知れてる。それなら宿主が一番大切に思っている人に擬態すればいい。自分の最愛の人なんて殺せないでしょ?まあ、やるのは私だからそんなの一切関係ないけど。」
だって、それってつまり……
「殺すんですか…人間を…」
「違う。やつらは黒魔。人間じゃない。」
「それでも…」
「じゃあ、黒魔の為に死ぬ?」
「それは…」
「なら倒す、それだけ。安心して。私がやるから。」
それだけ、と言われたところで、納得はいく筈ないだろう。
「で、最愛の人…誰?恋人とかいないの?教えてくれたら見つけやすい。」
「そんなの…言える訳ないじゃないですか……」
それはつまり、自分の目の前で最愛の人が殺されるのだ。
そんな命を売るような真似、できるはずが無い。例えそれが本物では無かっとしても。
しかし、そんな事は死神さんからすると一切関係はない。
死神さんが手を正面にかざす。
すると、死神さんの影が不意に揺らめき、どんどんとその姿を変えていく。
やがて私の背丈とそう変わらない程の漆黒の大鎌となり、その手に収まった。
そしてそれを私の首元に突きつける。
「もう一回聞く。最愛の人は誰?」
凍てつくような瞳。その顔は一切の表情が無かった。
「面倒なのは嫌い。早く答えて。」
死神さんから溢れる殺気に、夢だというのにも関わらず思わず気を失いそうになる。
「早く。」
急かされるが、答えようにも答えられない。
そもそもの話、誰かなんて分からないのだ。
両親も、妹も、フミちゃんも、祖父母とかだってみんな大切だ。ちなみに残念ながら私に彼氏はいない。別に悲しくは無いけど…
だからこそ、”一番”が分からない。
いつまで経っても答えようとしない私に我慢の限界を迎えたのか、死神さんが大鎌を振りかぶる。
死ぬ…
死を覚悟して咄嗟に目を瞑った。
これで終わりなのか…呆気ない……
あぁ、もう少し妹と遊びたかったなぁ…………
………………
……………
…………
………
……
…
「…あれ?」
いつまで経っても痛みが来ない。もう死んでしまったのだろうか?死ぬ時って、痛みを感じないのだろうか?それとも、寸止めだろうか?
薄っすらと目を開ける。
「…え?」
いつのまにか死神さんは私の隣にいる。
大鎌はちゃんと振り下ろされていた。
刃の先を辿ってみると……
「えっ⁉︎」
そこには切り裂かれた黒い何か。これはさっき見たーー
「眷属…」
「ちっ…囲まれたか…どうして…」
周りを見ると、黒魔の眷属達に囲まれてしまっている。その数、残り15体。
「あ、あの…どうすれば…」
「…逃げ道作るから逃げて。すぐに倒して追いつくから。」
そう言うと、死神さんは大鎌を構えて突撃していく。
「はぁっ‼︎」
大鎌を横に薙ぐ。
それだけで3体の眷属が同時に切り裂かれ、消えた。
左右から1体ずつ襲いかかるものの、1体は返す刃で首に相当する部分を切り落とされ、もう1体は縦真っ二つにされる。
「走って‼︎」
「は、はい‼︎」
死神さんの脇を通り過ぎて全力で走る。
2体が私を追いかけようとするが、「邪魔。」という死神さんの一言と共に両断にされた。
通りを真っ直ぐ走り、途中で細道へ。広い道にまた出て、そのままただがむしゃらに走る。
「お姉ちゃん‼︎こっち‼︎」
そこで私は出会った。
「か…りん……」
佳琳ーー私の妹に。