夢見安眠店
最終話です。
夢見さんと真昼さんの決戦から、だいたい1ヶ月が経った。
あれ以来、真昼さんは夢見安眠店で居候をしている。
『家も無いし行く場所も無い。そんな妹を見捨てるの?』とか夢見さんにも言っているのを聞いた。その後腹パンを喰らってた。
ああいう反応をする夢見さんも珍しいな…とか最初は思っていたものの、今ではもう見慣れてしまった光景だ。
今は倉庫として使っていた部屋を1つ片付ける事で自室とし、毎日ゴロゴロダラダラとしている。
夢の世界で会った時とは、話し方も性格も、全く違っていたが、どうやらあれは取り込んだ黒魔に精神含めて侵食されていた影響だったらしく、本来の性格や話し方はこんな感じだと夢見さんが言っていた。
栞さんを捉えて黒魔の苗床にしようとしていたのも侵食されていた影響で、今となっては手を出す気すら無いとの事。
因みに、死神としての力も、禁忌を犯して得た黒魔の力も失ってしまったらしい。
『まぁ、才能の無い私には過ぎた力だった。その力で身を滅ぼしかけたんだし…寧ろあっても困るから無くなってよかったかな。』
そう言って笑っていた。
あと、決戦の次の日に夢見さんと真昼さんで約束していた例の件。
未だに夢見さんには話していないらしいが、私にだけ話してくれた。
『私が禁忌に手を出した理由ね。えっと…恥ずかしいから夜深には言わないでよ?……強くなりたかった。最低限しか戦えないで、夜深に任せっきりってのが嫌だった。だって、歳離れた姉妹じゃなくて双子なんだよ?…まぁ、そういうコンプレックスが少し。後は…夜深の……お姉ちゃんの力になりたかった。背中を預けて一緒に戦いたかった。…かな。』
なんて、照れでちょっと赤くなった頬を掻きながら言う真昼さん。
その言葉に少しホッとした私。
自分より強かった夢見さんに対する恨みからなのか、とか邪推していたから、元は向上心と姉妹愛からだと分かって安心した。
ただ、それが結果歪んでしまったと言う事がとても悲しかった。
そういえば、昨日から歩美さんが復職したらしい。
学校側とも話し合いの上、少しずつ復帰していくらしかった。
『今まで本当にお世話になりました。』
そう言って、置いていた荷物も全部自宅に持ち帰った歩美さん。
そっか、もういなくなっちゃうんだな…なんて悲しみに更けていたら、次の日———と言うか、今日。
土曜日なので朝からシフトを入れており、いつも通りに出勤したらお店の制服姿の歩美さんがいた。
「あの…復職されたんですよね…?」
「えっと…はい。」
「……どうして制服を…?」
「……あ、あの!…その…今私がここにいるのは、ただお友達のお手伝い…ですので…」
その言葉を聞いて、感激のあまり歩美さんにハグをする栞さん。歩美さんもどこか嬉しそうだった。
「それに、その…また眠りに困った時には…すぐ訪れるつもり、です…!」
そっか、これからも歩美さんに会えるんだ。
いずれ終わってしまう関係なのかとも頭のどこかで考えていた。
だが、その終わりはまだ当分先になりそうでよかった。
夢見さんと栞さんに関しては、今まで通りだ。
いや、栞さんは真昼さんが来た事で家族が増えて嬉しそうだし、夢見さんもあまり口には出さないが、ずっと心の底で心配だった実妹がすぐ近くにいて、昔みたいに仲良く話したり出来る事を喜んでいるようだった。
全てはあの一件が片付いたからこそのいい結果だ。
ただ、これで完全に問題が解決したわけでは無い。
黒魔はまだ何処かで必ず生まれるし、真昼さんからの意図的な黒魔の寄生が無くなったとはいえ栞さんが一般人よりもずっと黒魔に狙われやすいと言うのは変わりようが無い。
それを何とかするのが夢見さん、そして死神見習いの私の仕事だ。
お店の扉が開く。
「あの…サイトを見て来ました。睡眠に関する相談を受けてくれるって……その、わたし、最近なかなか眠れなくて…」
私と同じくらいか少し上くらいの女子。
あの日を思い出す。
私がこのお店を初めて訪れたあの日を。
「いらっしゃいませ。ようこそ夢見安眠店へ。こちらへどうぞ。今店長を呼んで来ますね。」
「…大丈夫、もう来たから。」
奥から現れた、1人の少女。
「いらっしゃい。どうも、店長の夢見です。」
ここは『夢見安眠店』。寝れない人達が寝る為の場所。
ここには、自称睡眠のプロフェッショナルな死神がいる。
これにて『夢見安眠店』完結‼︎
2章終わりから3章まで4年も空いてしまいましたが、なんとか完結させる事が出来ました‼︎
今まで読んでいただき、本当にありがとうございます。
今後も小説は書いていくつもりなので、これからもよろしくお願いします。
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