寝れない少女、楪鈴華5
…ここは?
私、さっきまで…さっきまで…?
あれ?なんだっけ?
「鈴華‼︎おーい、こっちこっち‼︎」
「あれ?お父さん?なんでここに?」
「なんでって…家族で花見に来たからだろう。寝ぼけちゃったか?」
「うーん…そうかも。うん、今行く‼︎」
まあ、いいか。
何かに疑問を感じた気がするけど、なんだか分からないし、私の気のせいだろう。
私はお父さんが手を振る場所へと走った。
♢
「それでね、それでね‼︎」
「うんうん、そうかそうか。鈴華はやっぱりすごいなぁ。」
「えへへ。あ、お母さん大丈夫?私がやるよ?」
「いいのよ。ほら、鈴華はもっとたくさん食べなさい。せっかくのお弁当なんだからね。」
「うん‼︎お母さんのご飯美味しい‼︎」
「あら、それは朝から頑張った甲斐があったわ。」
「でも、無理はしたらだめだよ。お腹の中の赤ちゃんにも負担がかかっちゃうから。」
「大丈夫よ。それよりも、もう少し鈴華の話を聞きたいわ。」
「あ、うん‼︎それでね、ーーー」
♢
「おぎゃぁ、おぎゃあぁあ!おぎゃあぁあ!」
産声が響き渡る。
「産まれました‼︎元気な女の子ですよ。」
「あぁ…おめでとう…ありがとう。産まれてきてくれて。」
「おぎゃあぁぁあ、おぎゃぁぁぁ!」
お母さんは、新たに産まれてきた小さな命をそっと抱きしめて言った。
「お母さん‼︎産まれたの⁉︎私の妹‼︎」
「ええ。鈴華の妹よ。」
「佳琳…私の妹…」
「これからよろしくね、お姉ちゃん。」
「うん、私お姉ちゃんだもん‼︎頑張る‼︎」
♢
「すーずーちゃん‼︎」
「わっ、フミちゃん…びっくりさせないでよ…」
「えへへ、ごめんね。それよりも、何してるの?」
「これ?佳琳が好きかなって思って折紙折ってるの。」
「あぁー、なるほどね。すずちゃんらしいよ。ねね、私も手伝っていい?」
「うん、もちろん。」
「やったー‼︎ふふ、何折ろっかな?」
♢
色んな景色が流れていく。
あれ、なんかすごく懐かしいような、そうでもないような感覚…もしかしてこれって…
「夢…?」
ああそうか。分かってしまうと、何とも言えなくなる。だけど、どれも私の大切な思い出だった。だからもう少し、もう少しでいいから、この夢に浸らせて欲しい…
♢
異変を感じたのは、最近の夢を見てからだ。
なんか、記憶と合致しない。
なんでだろう。
最初は、普通に気のせいだと思ってた。だけど、その異変はどんどん大きくなっていく。
まず、私の周りの人達がいなくなった。陰口なんかも叩かれるようになった。
『楪さんって、なんかうざいよね』『キモい』『なんでここにいるの?消えて欲しいんだけど。』などなど。
ここまでならば、まだ耐えられた。
ただ、それだけならどれだけ良かったことだろうか。
次に親しかった人から敵意を向けられるようになった。
『どうでもいいわよ、あんな子。ただ一緒にいてあげただけなのに、私のこと勝手に親友だとか思い込んで。ふふ、本当に笑える。』
フミちゃんから。
『お前のことなんてどうでもいい。お前なんて私は知らない。』
お父さんから。
『あなたなんて産まなければよかった。存在しなければいいのに。』
お母さんから。
そして、ーー
『あなたなんて、私の姉じゃない。私に姉なんていない。私の家族に、お前はいない。』
佳琳から。
何かが音を立てて壊れていく。
「やめて‼︎私の夢を壊さないで‼︎」
必死に泣き叫ぶが、止まらない。
「あぁ…あぁぁぁぁ……やめて…やめて……」
壊さないで、私の、大切な…夢…を……
ゆら、ゆら、と数体の何かが急に現れ、私に近づいて来ようとする。全身真っ黒で、輪郭もぼやけている、なんだかよく分からない存在。
それがどんどんと私に近づいて来る。
「いや…いや……だれ…か……たす、け…」
震える足で一歩、また一歩と下がっていくが、”それ”との距離はどんどんと近づいていく。
“それ”の、手に相当するであろう部位が私に触れようとした時、突如私の前にすざまじい勢いで、何かが振り下ろされる。
目をギュッと瞑り、そして再び開いた時には…
「…へ…?」
目の前の”それ”が全て消滅していた。