寝れない少女、楪鈴華4
扉を開ける。
「…こんにちは」
「ああ、鈴華さん。いらっしゃいませ。」
笑顔でで出迎えてくれたのは、あの店員さん。
こちらへどうぞ、と地下へ案内される。
地下と聞いて、勝手に地下の駐車場とかをイメージしてたけど、全然そんなことはなかった。当たり前だけど。そんなことにさえ頭が回らないくらい眠い。
いくつも扉があるが、その中の一箇所で止まった。
「この部屋です。中にお姉ちゃんがいますので、私はここまでです。」
「あ、はい。ありがとうございました…」
手を振って帰っていく店員さん。もう早く寝たいからさっさと部屋の中に入ることにした。
部屋は大体サウナより少し暗めぐらいの明るさ。狭くもなく、広くもなく。ただベットとディフューザーがあるだけ。あと、トイレとお風呂もついているらしい。もう完全にビジネスホテルじゃんか。
「来た…」
その中には、ベットメイク中の昨日の少女。確か名前は…
「夢咲さん?」
「夢見です。えっと…柊さん?」
「楪です…」
「「……」」
なんとも言えない微妙な空気が流れる。
お互いに名前を間違えるとか…
「こほん。まぁ、そんなことはどうでもいいです。こちらへ。」
夢見さんは軽く咳払いをして、私をベットへと招いた。
どうでもよくないのだが、確かに眠さの前ではどうでもいい。
素直に従う。
「靴は脱いでください。寝間着についてですが、そのままの服装でも構いませんけど、寝苦しいと思います。何かをお貸しすることもできますが、どうしますか?」
「ええっと、…じゃあ、貸してください。」
「分かりました。それと、アロマについてですが、匂いにご希望はありますか?ないなら私の判断でやるけど。」
「お任せします。」
夢見さん、時々敬語崩れてる…苦手なんだろうか?
「それじゃあ、私は一度出るから、着替え終わったら呼んで。」
「はい。」
寝間着を手渡されて、夢見さんは退出。多分私が着替えている間にアロマオイルを取りに行ったのだろう。
それにしてもーー
「手触りいい…」
新品だからだろうか?いや、多分製品がいいものなんだと思う。手触りが凄くいい。
それにベットと枕。昨日選んだやつだ。
色々と堪能してると、コンコンッとノックをされる。
「どうぞ」
「着れたね…よし。じゃあ今回使うアロマオイルの説明。手短にすると、メリッサを使う。スーッとした香り。効果は主にリラックス。心を落ち着けてくれる。」
「は、はぁ…」
「じゃあ、おやすみ…」
「えっ?」
「…なに?」
「いや、なにって…」
もう少し長い説明とかあるもんだと思ってたけど。あと、ここまでしてもらってるが、眠れる気がしない。確かに本当に眠いんだけど、今までより少し快適、くらいにしか感じない。
「別に。一刻も早く寝かせてあげようと思っただけ。眠れる環境が整った状態で寝かせてもらえないなんて、最悪の拷問でしょ。」
「いや、確かに…でも私、寝れるかどうか…」
「なに?添い寝でもして欲しいの?大丈夫。ちゃんと寝れるから。ほら、目を瞑って。」
「は⁉︎いや、ちが……まぁ、閉じますけど…」
ベットに入って目を閉じる。夢見さんが私の頭を、そっと撫でている。緊張感はあったものの、すぐにそれは感じられなくなってきた。
少しづつ意識が遠のいていく。ちゃんと寝られるかな…
少しづつ、少しづつ、すこ…し、づ…つ………
「おやすみ」
意識が完全に消える直前、夢見さんの声が聞こえた気がした。それは、とても優しい声だった。