寝れない少女、楪鈴華3
ダメだった。結局何も解決はしなかった。やっぱり時間の無駄だったか…
もうダメだ…と、思っていると、
「あ、あの…こんな状況で聞くのもどうかと思うんですけど…お名前、なんて言うんですか?」
店員さんが声を掛けてくる。
本当にこの状態で聞く⁉︎と内心本当にイライラしながら、「鈴華。楪鈴華です。」とだけ答えた。
「鈴華さんですね。あの、この後と明日、お時間はあるでしょうか?」
「暇なことには暇ですけど、もういいです。どうせ解決しないなら、もう帰ります…ありがとうございました…」
そう言って立ち上がり帰ろうとすると、店員さんが思いっきり引き止めてきた。
「う、ぅあぁぁぁ‼︎待って‼︎待ってください‼︎お願いですから私の話だけでもちょっと聞いてください‼︎お願いしますから‼︎」
「分かった、分かりましたから、大きな声を出さないでください‼︎眠さも限界で頭に響くんです‼︎」
「はっ⁉︎ごめんなさい…つい…」
「で、話って…?」
「あ、はい。昔からお姉ちゃん、説明を省いたりするせいでよく勘違いされるんですけど、お姉ちゃんは鈴華さんのことを見捨てた訳ではありません。現に、また明日、って、言ってましたよね?」
「え、まぁ、…確かに言ってた…」
確かに言っていた気がする。そして、今すぐは無理、とも…全くもって意味が分からないが…
「確かに今すぐ何かをするのは無理です。その為に今から準備をするんです。本番は明日‼︎」
「本…番…?」
「はい。その準備の為に今から時間が必要なんです。」
「準備って…何をするんですか?」
「何って…もちろん寝るための‼︎」
訳が分からない。何故そうなるのだろうか?確かに寝れないから相談に来た。原因はなんとなく特定できて、その原因をどうにかして欲しいとも思った。だけど、今から寝る準備って…どういうこと?
「うちは寝具の専門店ですからね。とりあえず枕とベッドを選んでもらいます。」
「え、…それって…オーダーメイドってことですか?」
「いえ、現在店にあるものの中から自分に1番合うものを選んでもらう、という感じですね。本当はここまでしなくても良かったりするんですけど…お姉ちゃんなりの優しさですかね?多分快適に寝て欲しいんだと思います。」
「えっと…ちなみに、お金は…」
結構震えながら聞いてみる。オーダーメイドではないにしろ、かなりかかるはずだ。しかも、快適に寝ようと思ったら、かなりの値段になってしまうはず……
店員さんは、うーん…としばらく悩み、
「見たところ、学生さんですよね?となると、学割込みで、多分10万もしないと思いますよ。」
と、笑顔で言った。
「ひ、ひぇっ…」
途端に視界が暗くなった気がする。
10万円…高い…
それに、高校デビューで一人暮らしを始めたばかりの私には、到底買える気がしない。
「あ、あの…そんなにお金が…」
「冗談です。全部お買い上げいただくとそれくらいの値段ですが、今回だけなら2千円くらいですね。」
2千円…よかった。それなら手を出せそうだ。
「それなら…大丈夫です。」
「よかったぁ…それじゃあ、選びましょうか。」
「はい。…あ、それと、本番って何をするんですか?」
そういえば聞きそびれていた。本番って何だろうか?
「それはですね、寝るんです。うちの地下で。」
ゾワっとした。
別に誰かと一緒に寝たり、なんてことに抵抗はない。小、中学生の頃によく友達とお泊まり会とかもやっていたし。
だけど、うちの地下で…って……
なんだろう、地下、という響きが、なんというか、怖い……
「あ、変な意味じゃないですよ。ただ、この家地下がありまして、そこが何部屋か余ってるんです。だから、そこを使って、鈴華さんみたいに寝れないと困ってる人たちを癒してあげよう、というだけですよ。それだけですからね?」
と、店員さんから弁明をされた。どうやら変なことを考えすぎていたらしい。
つまり、あれだ。仮眠スペースを貸してくれる、ということなんだろう。
不眠症とかの人限定の宿みたいな?ものすごくありがたいかもしれない。でも、寝られなかったら意味ないんだけどね…
「では、まずマットの固さから選んでいきましょうかーー」
その日は私に合うマットや枕を選ぶことで終わった。
そして次の日。またフラフラとしながら学校へ向かい、途中で気分が悪くなって何度か保健室にも行き、なんとか無事学校の時間を乗り切ることができた。
さあ、ようやく私は寝れる…
もちろんだいぶ辛かったけど、ここ数日の中で1番気持ちが前向きになれていた。