寝れない少女、楪鈴華2
学校帰り、自宅には寄らずそのまま夢見安眠店へと向かった。
店の第一印象は、かなり大きい。しかも、どうやら2階建てのようだった。そして可愛い。なんか、喫茶店とかみたいな雰囲気。
1階部分は主にアロマなどを扱っているみたいだった。ということは2階が寝具なんだろう。本当に、どうして今まで知らなかったんだろう?
私はゆっくりと扉を開き、入店した。
中には茶髪の、お淑やかそうな女性が1人、掃除をしていた。多分大学生くらいだろう。バイトの人かな?
「あ、いらっしゃいまs……ひっ…」
すごく笑顔で挨拶をしてくれたかと思ったら、ものすごく怖がられてしまった。
「なんですか?」
「ひぇっ…ご、ごめんなさい…ど…どうかなさいましたか…?」
謝罪をされたが、相変わらずビクビクしている。というか、普通に聞いただけなのにここまで怖がらなくてもいいじゃない。なんでそんなに怖がるのさ。怖がりなんですか?
眠いからなのか、どうしてもイライラしてしまう。
「あの、睡眠のことで…」
「あ、あぁ。そういうことですね。今店長を呼んできますので…」
そう言って、店員さんは店の奥に行ってしまった。
「おねーちゃーん‼︎お客さん‼︎ご相談だって‼︎」
そんな声が聞こえてきた。
なんだ。あの人ちゃんと大きな声で話せるんじゃん。
あと、ちょっと待って?お姉ちゃん?さっき確か店長を呼びに行ってくるって……
そのお姉さんが店長なのか?となると、姉妹で経営しているのだろうか?
「ご、ごめんなさい。遅くなりました…こちらへどうぞ‼︎」
しばらくすると、さっきの店員さんが出てきて、店の奥へと案内された。そこにはーー
「ん、いらっしゃい…」
1人の少女が出てきた。
♦︎
「…え?」
つい、ぽかーん、としてしまう。
え?姉?どこをどう見ても少女にしか見えない。
寝ぼけすぎてついに幻覚でも見え始めたんだろうか?
「なんですか?そんなにジロジロ見て…」
「え、あ、ご、ごめんなさい。」
どうやら幻覚ではなかったらしい。怒られてしまった。
ただ、これは仕方がないだろう。
「どうも、店長の夢見です。どうぞお掛けください…」
「ありがとうございます…」
正直、立っているのもそこそこしんどかったのでありがたくソファに腰を降ろさせてもらう。
「…で、どんな要件で?」
「あ、はい。最近どうも不眠症で。サイトとかを見て色々と試しては見たんですけど、どれもあまり効果がなかったんです…」
ふんふん、と夢見さんは手に持ったメモに何かを書いていく。
「最近って、具体的にどれくらい前からですか?」
「えっと…多分3日くらい前だったと…」
「原因とかに心当たりは?」
「……ない…と、思います…」
その言葉を聞いた瞬間、夢見さんの表情が僅かに険しくなった。
何かあったのだろうか?
「……そのここ数日、悪夢を見たりしませんでしたか?どんな夢を見ていたか思い出せなくても構いません。かもしれない、でも構わないので。」
「え、えっと…見た…と思います。でも、それが何か?夢なんて、すぐに忘れてしまうものでしょう?だったら関係なんて…」
別に夢なんて関係ないだろう。少しずつ、またイライラとしてきてしまった。
しかし、夢見さんは、すごく真面目な顔をしていた。
「関係なくないです。貴方は多分、その時に見た夢がトラウマになってるのではないでしょうか?」
「トラ…ウマ…?でも、……」
「ええ、貴方自身は覚えていないのかもしれない。でも、頭のどこかでは覚えている。そして、知らないうちにその夢がトラウマとなってしまっているのです。だから、寝るとまたその夢を見てしまうかもしれない、と身体が拒否反応を起こし、その結果眠れないのでしょう。」
にわかに信じられない話だった。夢がトラウマ?身体が拒否反応を起こして寝れない?
今の疲れ果てた脳内では理解することもできないし、多分だけど、普段の脳内でも理解にかなり時間が必要だったと思う。
手に持ってたメモ帳をパタンッと閉じ、夢見さんは立ち上がった。
「栞、後のことはよろしく。」
そして欠伸をしながら部屋を出て行こうとする。
「え、ちょ、ちょっと待ってください‼︎それだけですか⁉︎」
「…ん?それだけって?まだ何かあるの?」
「まだって…解決できてないんですけど‼︎」
「うん、そうだね。今はまだ解決できてない。今すぐになんて、はっきり言って無理。」
「そんな…」
「じゃあね、また明日…」
私はショックで膝から崩れ落ちた。
そう言って、夢見さんは行ってしまった。