第五十九話 「激突五 取引」
ゼルは、牢屋の中で一晩を過ごした。
自分がこうしている間にも、政府の人間達は着々と先に進んでいるのかと思うと、歯痒くて仕方が無かった。
太陽や月が確認出来ず、時間も分からない。
今は朝なのか、夜なのか・・・。
ただ延々と時間は過ぎていく。
(そういえば・・・、ルーナ達もここにいるんだよな。大丈夫かな・・・。)
ルーナとランジ、ダイスは同じ牢に閉じ込められていた。
「はぁ〜。ゼル、大丈夫かなあ。」
ルーナ達は、今のゼルの状況を知らなかった。
「アイツは、仮にも救出の魔石に選ばれた男。そんなに心配する必要はねーよ。それよりダイス、このロープほどけねえのかよ。」
「・・・無理だな。縛り方が少し特殊だ。それより、今はあまり抵抗をしない方がいい。余計な体力を使うのは利口ではない。」
ダイスは、こんな状況でも何故か冷静だ。
「ゼルさんなら、今牢にいますぞ。」
一人のゾンビが現れた。
「牢って・・・ゼルも捕まっちゃったの!?」
「いかにも。それより、あなた達の処遇が決定しましたぞ。ついて来てくだされ。」
死者の街ラクドの中央。
洞窟の中だというのに、とても明るい。
ルーナとランジ、ダイスの三人は縛られた状態でここまで連れて来られた。
「あっ、ゼル!」
ゼルはルーナの正面、十メートルくらい離れた位置にいた。
ゼルは、ルーナ達を見てとりあえずほっとした。
(それにしても・・・。この街は本当にゾンビだらけだな・・・。)
百人ほどのゾンビがゼル達を見ている。
普通の人間がここに来ることなど、めったに無いのだろう。
「それでは、あなた方四名の処置を言い渡します。」一人のゾンビが口を開く。
「あなた方は、我等の敵対する政府で暗殺行為を行っていました。」
「俺達は政府じゃねーっ!」
ゼルの叫びにも、ゾンビ達は聞く耳持たずだ。
「そのことに関しては、許されることでは無いでしょう。しかしこの街の最年長、サジタリウス殿があなた方に興味を示されました。」
ゾンビ達は黙ってこのゾンビの話を聞いている。
「サジタリウス殿は、全てを見通しておられる。あなた方の言っていることが本当ならば、危害を加えることは無いでしょう。しかし、あなた方の言っていることが嘘ならば・・・覚悟しておいてください。」
一体のゾンビが前に進み出て、ゼルを引っ張る。
「サジタリウス殿の元へ行くのはあなた一人。少しでも妙な行動を起こしたら、即刻こちらの方々は殺しますので。」
ゼルはそのまま、引っ張られて言った。
「大丈夫かなあ。ゼル・・・。」
ルーナは呟く。
「心配はいらねえだろ。アイツは、やる時はしっかりやる奴だからな。」
ランジは笑みを浮かべる。
「それより心配なのは、政府の方だ。こんな場所で時間を使っている場合では無いのだが・・・。すでに半日ほどロスしてしまっている。」
ダイスは何とか逃げ出すチャンスを探しているようだ。
この様子を遠くから隠れて見ている怪しい二人組。
政府に雇われた盗賊、バリア兄弟だ。
「なあ、兄貴。あいつら捕まっちまってるよ。」
西洋帽子を被った少年、弟のスモはけらけら笑っている。
「これでは奴らも動けない!オイラ達は何の障害も無く、先へ進めるというわけだ!」
坊主頭の大男、兄のコブは大きなあくびをした。
「・・・誰だ。」
二人は、背後に誰かの気配を感じた。
彼らに気付かれずに接近するとは、中々の実力者だろう。
「嫌だなあ。敵じゃねーよ。」
そこには、ホークの部下の少年が立っていた。
「何だ。お前、アイツ達と一緒に行ったんじゃなかったんか。」
弟のスモは、少年に銃を向けていた。
魔石の可能性が高い。
「俺はアンタ達と取引がしたくてね。」
「取引?」
「ああ。アンタが俺の頼みを聞いてくれるなら、コイツをくれてやっても良いぜ。」
少年は小さな石を差し出す。
その石は半透明で、羽の生えた人間の絵が彫られている。
「な、ソイツは・・・。なぜお前がそれを持っている!」
兄弟は、その石を知っていた。
伝説の魔石、リーボーン。噂の中での形状と、少年の持っている魔石の形状は酷似していた。
「あ、兄貴!コイツがあれば、大兄貴を・・・。」
スモは涙ぐんでいた。
「ああ。そうすれば、あの頃みたいにバリア三兄弟で盗賊がやれるんだ・・・。」
コブも涙ぐんでいる。
二人の兄、テツは病によりこの世を去った。
弟二人は、再び兄弟の楽しかった頃を作り直そうとしているのだ。
「それで、オイラ達は何をすればいい!」
コブは興奮で身体が震えている。
「・・・なあに。簡単なことだ。あいつらを襲撃してくれればいいのさ。」
次回予告 サジタリウス