第五十六話 「激突ニ ゼル対ザクロ老師」
魔石紹介 カプリコーン アデムの兄、ハゼムが持っていた救出の魔石。風の能力を持った刀で、切れ味は普通の刀とは比べものにならない。修業をつむことにより、様々な技を使うことが可能。
ゼルは、八光の一人ザクロ老師と対峙していた。
恐らく、ジョーカーと同等かそれ以上の実力を持っているのだろう。
ゼルの身体を冷や汗が流れた。
「君はまだ若い。間違いだってあるじゃろう。そこから人間は成長を始めるのじゃからな。」
ザクロ老師は自分の顎に生えた長い白髭を触りながら語った。
「政府にいて殺しをやっているような奴に間違いとか言われたくねーな。」
ゼルはそう吐き捨てた。
突然、ザクロ老師は涙を流した。
ゼルは突然のことに仰天し、あたふたしている。
「おお、神よ。ワシはこのあやまちを犯した少年の命を奪わなければならないのか・・・。」
ザクロ老師は救世の魔石を発動する。
ザクロ老師の手には、一本の杖が握られた。
「この少年に死を与えることで苦しみから救ってやろうではないか。パイシーズ。」
パイシーズ。
恐らく、ザクロ老師が持つ救世の魔石の名前だろう。
「何だ、その杖。救世の魔石の割には弱そうだな。」
老師は杖を地面につけた。「見た目で強さを判断しようとは・・・あわれじゃのう。」
ゼルの背中に鋭い痛みが走る。
「があっ!」
ゼルは身体が倒れないように足で踏ん張った。
後ろを向くと、植物の太い枝が延びていた。
この枝で攻撃してきたのだろう。
「何だこりゃ・・・。」
「パイシーズの能力は樹木の発生と成長じゃ。植物の力を思い知るがいい。」
ゼルはレオに炎を発生させる。
「そんな物、炎で燃やしつくせば済む話じゃねーか。」
ザクロ老師は再び地面に杖をつけた。
今度は三方向から枝が出現する。
「だから、燃やせば・・・。」
突然、枝からピストルの弾丸のような物が発射された。
二つはゼルの反射神経で何とか回避したが、最後の一つは太もものあたりに命中してしまった。
「ぐああっ!」
「その足でちょこまかと走り回られては面倒なのでのう。真っ先に狙わさせてもらったわい。」
発射された物体はどうやら植物の種のようだ。
「こんなもので俺が負けるわけねーだろ!」
ゼルはレオに力をこめ、炎を発生させようとする。
しかし、黒い煙が発生しただけで炎は出なかった。
「な・・・どういうことだよ・・・。」
ゼルは必死に炎を出そうとするが、発生するのは煙ばかりだ。
「君が受けた植物の種は、体内で魔石を含めた魔力を吸収する。つまり、君は魔石の力を使う事は出来ないのだよ。」
ゼルは何とか炎を発生させようとするが、全く発火しない。
(馬鹿野郎!無理に炎出そうとすると、俺が疲れるんだよ!)
心の中でレオの怒鳴り声がした。
(とにかく、種を何とかしねーと魔石は使えねーんだよ!)
種を受けた太ももを見ると、植物の芽のような物が現れていた。
どうやら、魔力を吸収することによって成長したようだ。
「無理に引き抜けば、激痛と共に、精神が崩壊するぞ。さあ、どうする?」
ザクロ老師はこの状況を楽しんでいるようだ。
「うぜえな、てめえ。」
ゼルは覚悟を決めた。
植物の芽を掴む。
「いっけえええええええええええええええええええええええええ!」
ゼルは一気に芽を引っこ抜いた。
(馬鹿な!こんなこわっぱが、ああもあっさりと・・・!)
ゼルはにやりと笑った。
「肉弾戦なら、俺に分があるぜ!」
一方、ルーナ、ランジ、ダイスの三人は何もない一本道をひたすら歩いていた。
入り口のあたりに比べ道は大分広くなっており、人が十人横に並んでまだ余裕があるくらいの幅はあった。
「・・・なんかよ〜。危険な洞窟だって聞いてたから覚悟していたけど、たいしたことないな。」
ランジは大きなあくびをする。
「さっきの分かれ道、こちら側を選んで正解だったのではないか?何の障害もなく奥部までいくことができそうだな。」
ダイスも予想外の事態に、油断していた。
後ろから、何かが迫っているのも気付かないまま・・・。
初めに、何かの気配を感じたのはルーナだった。
「何か・・・後ろから来てる。」
ルーナはランジの耳元で囁いた。
ランジの身体は強張る。
ランジはダイスにも同じことを伝えた。
「恐らく、洞窟に住む化け物だろうな・・・。」
ダイスだけはあまり緊張していないようで、余裕の表情だった。
後ろから歩いてきた何かは、最初は三人の様子を確認するようなゆっくりとしたペースで歩いてきた。
しかし、何を思ったのか突然襲い掛かってくる。
「コイツら・・・。」
ダイスはそこで初めて緊張感を感じた。
三人は魔石を持っており、なかなかの猛者なはずなのだが、所詮は多勢に無勢。
瞬く間に全員気絶してしまった。
「・・・連れていけ。」
三人は気絶したまま担がれ、どこかへ連れていかれてしまった。
次回予告 ザクロ老師の力