第五十四話 「風の宿命(後編)」
夏バテ気味ですが、頑張ります。
「一度攻撃を避けたくらいで・・・いい気になるなよ。」
ハゼムはカプリコーンを魔石に戻す。
アデムはハゼムが何をしようとしているのか分からず、ポカンとしている。
「救世の魔石の真の力・・・見せてやろう。」
ハゼムはカプリコーンに力をこめた。
アデムは突如身体に衝撃を感じた。
何が起きたのか分からない。
すさまじいダメージによりアデムは気を失った。
「貴様が一族を抜けてから・・・俺は己の肉体を鍛えた。それにより、カプリコーンの真の力を手に入れた。」
ハゼムの腕は刀と融合していた。
腕から刀が生えている。
(すみません。アデム様。)
どこからか声がする。
恐らく、カプリコーンの声だろう。
ハゼムはカプリコーンを睨む。
「敵に謝るな。今の主人はアデムじゃない。俺なんだ。」
ハゼムは何者かの足音に気がついた。
「誰だ。」
現れたのはアデムとハゼムの祖父、副長老カゼム。
「じいさん。まだ集落から出ていなかったのか。」
副長老はハゼムを睨む。
「ワシにとってはアデムもハゼムも愛しい孫。孫同士が殺しあうようなことはして欲しくなかった。」
ハゼムは声をあげて笑った。
「だったらどうするよ。あんたには魔石も無ければ力も無い。大人しく俺に従うしかねーんだよ!」
ハゼムは副長老を蹴り飛ばす。
「かはっ!」
副長老は呻き声をあげる。
「昔のような・・・優しいお前に戻ってくれ、ハゼム。」
ハゼムはカプリコーンを振り上げる。
「くだらねえ。」
ハゼムは副長老を斬り殺そうとしている。
しかし、突然背後に殺気を感じ、踏み止まった。
「てめえ・・・。まだ生きてやがったか。」
それはアデムだった。
全身切り傷だらけで、常人なら指一本動かせないほどのダメージを受けている。
しかし、その目にはまだ闘気が残っていた。
「副長老に手を出したら許さない!」
ハゼムはアデムの方に歩み寄る。
「しぶとい奴だなあ。いい加減くたばれよ。」
ハゼムはカプリコーンをアデムに向ける。
しかし、アデムは動じない。
「悪は潰す。政府にしろ、兄さんにしろね。」
それを聞いたハゼムは、嫌な笑みを浮かべる。
「そうか・・・。お前は知らないのか。」
「待て、ハゼム!言ってはならん!」
副長老の表情が変わる。
「知らないって・・・何をだ?」
アデムは聞く。
「お前が一族を抜けた最大の理由・・・それはあの女だよなあ。」
アデムの眉はピクリと動く。
「あの女が今どこにいるか知っているか?」
「・・・まさ・・・か。」
アデムの声は震えている。
「政府最強の戦闘集団と謳われる、八光のメンバーだぜ!」
アデムは驚愕した。
アデムが探していた女、ミリー。
それが今、政府の人間だと・・・。
アデムは隙だらけになってしまった。
不意をつき、ハゼムはアデムを斬る。
「ガアア!」
アデムは肩を斬られ、そのまま地面に倒れそうになる。
「お前が悪を潰すと言うのなら、いずれはあの女と闘わないといけなくなる時が来るかもしれないんだよ!」
アデムは肉体的苦痛と共に、精神的苦痛にさいなまれた。
「アデム!しっかりするんじゃ!何か裏があるに違いない!ミリーは政府で殺しをやるような人間ではない!」
しかし、アデムはピクリとも動かなかった。
「死ぬんだな。アデム。」
ハゼムはアデムの喉元に、刃を突き刺そうとする。
しかし、アデムはカプリコーンの刃を掴み、それを防いだ。
ハゼムは驚く。
「兄さん・・・。僕にはまだミリーと闘うとかそういうのは分からない。」
アデムは、虎鉄を強く握る。
「ただ、アイツには悪の道を歩ませない。絶対に・・・。」
ハゼムは不満足そうにカプリコーンを掴む。
「そうか。だが、ここで俺に負けちまったら意味は無いぜ!」
ハゼムはカマイタチを発生させる。
「死ね、アデム!」
しかし、アデムは虎鉄の風の力を最大限利用し、ハゼムの背後に周りこんだ。
「くらえ!」
アデムは虎鉄を使わず、素手でハゼムを殴り飛ばす。
ハゼムは地面に頭を打ち付け、気絶した。
「・・・カプリコーンは強き者が受け継ぐ。これは僕が頂いたよ。」
アデムはカプリコーンを握り、「兄さん、ゴメン」と呟いた。
突然、アデムの前に角を生やした黒い毛の犬のような生物が現れた。
(久しぶりですね。アデム様。今日より、あなたに仕えさせて頂きます。)
二人は握手をかわした。
「これからどうするんですか、副長老。」
アデムは聞いた。
「そうじゃのう。一族の再興も望めんじゃろうし・・・とりあえず、近くの街に引っ越すよ。ハゼムも一緒に。」
少々強く殴りすぎたか、ハゼムはまだ気絶している。
「お前はミリーに会いに行くのか?」
副長老は尋ねる。
「はい。一度会って、彼女の真意を確かめようと思います。」
アデムは、ゼル達の元へ行くのは後回しにしようと考えた。
「ワシの情報によると、ミリーは救世の魔石を求めてクラムス洞窟に向かったようじゃ。そこに向かうとよい。」
アデムは副長老にお礼を言い、別れた。
アデムもクラムス洞窟に向かう。
次回 クラムス洞窟突入