第四話 「魔石対魔石」
用語紹介 仙術− 東の国の術。数千万人に一人しかマスターできず、習得した者には、強靭な肉体が手に入る。
「馬鹿な!!今日魔石の存在を知ったばかりのガキが、もう魔石を使えるようになったってのか?」
救世の魔石の光はどんどん強くなっていく。リデューが魔石を発動した時とは、比べものにならないくらいの明るさだ。
「お前の目的が何であろーが関係ねえ。お前は敵だ。じーちゃんの敵は必ずとる!!」
魔石が、光終えた。
ゼルの右手には、鎖鎌が握られていた。刃の部分は、赤く光輝いていた。
「あれが・・・救世の魔石、通称獅子の牙か。」
リデューの額から、汗が流れ落ちる。これほどまでに、追い込まれたのは久しぶりだった。
「じーちゃんが遺してくれた武器・・・。コイツでお前を倒す!!」
「さすがに救世の魔石が相手では、きつそうだな。この技は、練習中だが、仕方ねーか。」
リデューは、クレイモアを強く握った。クレイモアは、少しずつ赤くなり、火花を散らし始めた。そして、メラメラと炎に包まれていく。
「何だよ・・・。それ・・・。」
「俺は、クレイモアを使いはじめて約二年になる。最近になって、ようやくコイツの真の特性に気付いた。クレイモアの能力は、発火剣!!自身が燃えるだけでは無く、触れた物全てを火で包むことが出来る。この炎は、魔石をも熔かすぞ。」
「なるほど・・・。すげーな。でも、今の俺には、勝てねーと思うぞ。」
「それなら、力で証明して見ろ!!行くぞ!!」
リデューは、ゼルに向かって走り出した。クレイモアの攻撃を、ゼルは軽々とかわした。
「?さっきより遅くなってるじゃねーか。もう一つの、速く動ける魔石は使わねーのか?」
リデューのスピードは、最初の時や、レオと闘っている時より、明らかに落ちていた。
「発火能力を使うには、集中力が必要とされる。発動している間は、他の能力は使えないんだ。」
「へえ。そいつは好都合だな!!」
ゼルは、鎖鎌を投げ付けた。しかしレオは、発火能力を解除し、攻撃を避けた。「へ!!残念だった・・・何イィィ!?」
鎖鎌は、急に進行方向を変え、リデューの体をかすめた。
「ガキイィィ!!」
クレイモアの火が、ゼルを目掛けて飛んできた。どうやら、空気中の酸素を燃やしているようだ。
「熱っ!!」
ゼルは、おもいっきり炎を浴びてしまった。
「うおっ!!燃えてんじゃねーか!!」
ゼルは、地面に体を擦りつけて、何とか炎を消した。「それだけ炎を被って、その程度のやけどとは、相当な強運の持ち主のようだな。」
「うるせえっ!!」
再び、鎖鎌を投げるゼル。しかし、今度は完全に見切られ、クレイモアで防がれる。クレイモアの炎は、鎖鎌を伝わり、ゼルの体を燃やした。
「熱いんだよっ!!くそっ!!」
「くくく・・・。そんな調子で短時間に何度も炎を被ってると、もうじき体が動かせなくなるぞ。」
(確かに、コイツの言う通りだ。これ以上は、体が持たねえ。そもそも、俺とコイツじゃ、戦闘経験が違い過ぎる。次の一発に、賭けるしかねえ。)
リデューが、酸素を燃やし、火を放ってきた。ゼルは、炎が自分の近くに来るのを待って、鎖鎌を振り下ろした。炎は、二つに別れて消えた。
「な・・・!!炎を斬っただと!?」
「この鎌って、普通の魔石とは違うんだろ?だったら、炎も斬れるんじゃねーかって思ったんだ。」
リデューは、信じられん、という顔をしている。
「それともう一つ。クレイモアの炎は、魔石も熔かすんだろ?でも、何故この鎌は熔けなかったんだ?」
(まさかこのガキ・・・。獅子の牙の能力に、気付いたってのか?)
「やっぱり、この鎌が、特別な魔石だからかも知れない。だけど、それだけじゃ無い気がしたんだ。この鎌の能力も、炎だ!!」
ゼルは、鎖鎌に力をこめた。少しずつ、炎が出て来る。
「やっぱりな。」
「使いはじめてすぐに、この能力に気付くとは・・・。まさか、救世の魔石は、このガキを使い手として選んだとでもいうのか。」
ゼルは、炎で包まれた鎖鎌をおもいっきり振った。
次の瞬間、鎖鎌は、クレイモアを砕いていた。
「まさか・・・。こんなガキに俺のクレイモアが・・・。」
「その剣がなくちゃ、お前に戦闘手段はねーだろ。留めだ!!」
殺すつもりなど毛頭ない。ここでこの男を殺してしまっては、自分も同罪になってしまう。じーちゃんも、喜ばないだろう。ただ、人を殺したことを、許すわけには行かなかった。
鎖鎌は、地面に落ちた。何が起きたのか、ゼルには一瞬理解が出来なかった。
そこには、リデューではない、男がたっていた。どうやら、その男が鎖鎌を弾いたらしい。
その男は、リデューより若く、銀色のロングヘアーで、顔には髑髏の入れ墨があった。瞳は青くとても悲しい目をしていた。
「ぶざまだな、リデュー。いきなり消えたと思って来てみれば、こんな小僧に殺されかけてるとはな。」
「ホーク。てめえ。今は闘いの最中だ。余計な事はすんな。」
「ほお。お前は、これを闘いというのか。武器も失い、一方的になぶられているようにしかみえんが。」
ゼルは、新たな敵の出現に、身構えている。そんなゼルを見て、ホークは言った。
「安心したまえ。私は、君と闘う気は無い。任務に無い殺しは、やらん主義でね。しかし、時が来たら必ず救世の魔石を奪いに来る。覚えていろ。」
そういって、ホークは去って行った。リデューもしぶしぶついていく。
「いつか、リターンマッチだ。覚えてやがれ。」
こうして、ゼルは狂気を退けた。しかし失った人の大きさは計り知れない。
この闘いは、これからの闘いの序章に過ぎない・・・
続く
次回予告 プロローグ編終了