第四十四話 「絶望の序曲」
魔石紹介 アクアダガー−アクエリアスの能力を忠実に再現したナイフ。 触れた物、または者を凍り付けにできる。
ゼルとランジの前に現れた男、リデュー。
ランジとリデューは何と、親子だった。
「リデューがランジの親父!?」
言われてみれば、赤い髪といい、目尻といい、どこか似ている。
「コイツは俺や母さんの事は頭に無かった。あったのは闘いのことだけだ。」
ランジは言う。
「当たり前だろ。人間は闘争本能を持った生物だからな。」
ランジは手から血が出るくらいにキャンサーを強く握る。
ゼルはリデューの隙をつこうと虎視眈々だ。
しかし、ランジはそれを制した。
「悪いが、手は出さないでくれ。コイツは俺にとって憎むべき相手だ。」
ランジはリデューに斧を向ける。
「危ないだろ、ランジ。お前をこんな息子に育てた覚えはない。」
ランジの腕はプルプル震えている。
怒りが限界値までたまっているのだろう。
しかし・・・ゼルには納得がいかなかった。
「俺もコイツは憎い敵だ!ここは協力して・・・!」
ゼルの身体は動かない。
「な・・・んだ、これ。」
「悪いが、ジュリアから借りていた麻痺毒薬を使わせてもらった。しばらくの間は動けないだろう。」
「て・・・め・・・。」
ゼルは身体を動かそうと必死にもがく。
「てめえが反政府組織に入ったのは、俺を殺そうと思ったからか?」
リデューは自分の息子に命を狙われているこの状況を楽しんでいるようだ。
「それは違う。俺はボルノさんへの恩で生きている。俺の親父はボルノさんだと思いたかった。」
「そのために、血の繋がった親父である俺を殺そうってのか。面白い。返り討ちにしてやらあ!」
二人の激闘が始まった!
ランジの斧とリデューの剣がぶつかりあう!
「俺はキャンサーの後継者でありながら、一族を抜けた理由が分かるか?」
ランジはリデューの問いに答えない。
「キャンサーが弱いからだ。おそらく、救世の魔石の中では最弱。だから俺は、政府に力を求めた。そして手に入れたのがこのリーブラだ!」
ランジの斧が、リデューの剣を払いのける。
「俺はアンタと違ってキャンサーの子孫であることを誇りに思っている。てめえの腐りきった肉体を風化させてやる!」
ランジは一瞬でリデューの背後に回り込む。
そして、キャンサーで背中を斬った。
「ぐあっ!」
リデューは声をあげる。
「強い・・・ランジ!」
ゼルはいまだに身体を動かそうともがいている。
「やるじゃねーか。それだけデカイ武器を持ってたら、スピードも半減するだろうに。」
「俺は救世の魔石の重力に堪えられるだけの力を手に入れた。扱いづらいという理由で捨てたアンタと違ってな!」
ランジは地面にキャンサーを突き刺す。
「くらえ!リデュー!」
辺りに砂埃が立つ。
リデューも、ゼルも、そしてランジですら何も見えない状態だった。
「己の感覚に頼るしか無いか・・・。」
リデューは耳を澄まし、小さな物音も聞き逃さないようにしている。
「・・・こりゃ厳しいか。リーブラの能力を使うしかねーな。」
ゼルは状況がさっぱり掴めていない。
「どうなってんだよ!ランジ〜。」
金属が接触する音。
そして、どちらかの呻き声が聞こえた。
「おい、どうなった!?どっちが勝ったんだ!?」
砂埃が徐々に消えていく。
倒れていたのはランジだった。胸部には深い傷がある。
「な・・・。」
ゼルは言葉を失った。
「てめえ・・・。な、なにを・・・しやがった!」
ランジは吠える。
「これこそがリーブラの力。てめえは斧で俺を斬ろうとしたが、次の瞬間斬られていたのはてめえ自身だった。何でか分かるか?」
リデューは剣を肩に乗せた。
「リーブラの力は時間操作。限界はあるが、ある程度の時間の流れを変えられる。ソイツで、てめえの動きをスローにして、俺の動きを速くしたんだ。」
ランジは意識を失った。
「俺がこの力の使い手じゃなかったら負けていたか・・・。しかし、その程度じゃ八光には遠く及ばねえ。」
レオがリデューの首筋をかすめた。
「もう動けるようになったのか。たいした物だ。」
「てめえ・・・!どうして自分の息子を躊躇なく斬れるんだよ!」
ゼルは叫んだ。
眉間にはシワができている。
「さっき言ってたろ。俺は何より闘いが好きなんだよ。他のことなんざどうでもいい。」
ゼルは高速で移動して、レオでリデューを斬ろうとした。
しかし、ひらりとかわされてしまう。
「こんな物、時間を操作するまでも無い。あの時のリターンマッチといくか?」リデューはリーブラを持ち上げた。
ゼルとリデュー。
ダンバー以来の二人の戦士の闘いが始まる。
勝つのは果たして・・・!
次回 運命の再戦