第四十話 「バリー対イトラー(前編)」
魔石紹介 怪王−ポーキーの魔石。ただただ大きな破壊力を持つメリケンサックだが、扱いが難しく体力消耗が激しいため、好んで使用する人間はポーキーくらいのものである。
コフル城の中央付近。
ゼル、ルーナ、ランジの三人は全速力で走っていた。
「ポーキーって奴にしろ、バリーにしろ、本当に強いのか?」
ゼルはランジに尋ねる。
「あいつらは強いぜ。ポーキーもバリーもジュリアも、隊長クラスの中に弱い奴は誰もいねーよ。」
「あれ?そういえばジュリアさんは?」
ルーナが言う。
確かに、ジュリアの姿はどこにも無かった。
「・・・あれ?」
バリー対イトラー。
イトラーは高速回転しているドリルのような魔石を右手に、同じく高速回転している盾を左手に持っている。
「ははは!回転は戦闘における重要な要素!武器の威力をあげ、盾を高速回転させれば全てを弾きかえせるようになる!」
イトラーは高笑いした。
「・・・仕方が無い。僕も魔石を使わせてもらおう。」
バリーはイヤリングの魔石を発動した。
そこに現れたのは、小さなナイフ。
「そいつがどうしたと言うんだよ!」
バリーの魔石が小型ナイフだったことが意外だったのだろう。
「アクエリアスって知ってるかい?救世の魔石の一つなんだけど。」
それを聞いてイトラーは大声をあげて爆笑した。
「それが、アクエリアスだと!?アクエリアスは政府に所持している人間がいる!姿形も、魔石から発生しているオーラも全くの別物だ!」
「別にこれがアクエリアスだと言っているわけじゃない。魔石研究員の一人、アクエリアスが救世の魔石の能力を元に、軽量化したのがアクアダガーだ。」
バリーは説明をする。
「用は、アクエリアスが弱くなったバージョンってことか?そんなもんでホーク様直属の部下である俺が負けるかよ!」
イトラーがタックルしてくる。
「このドリルに触れたら一瞬でミンチだー!」
ドリルが、バリーの身体に突き刺さる。
「がははは!これでおしまい・・・!」
バリーは怯む様子も無く、アクアダガーをイトラーの右腕に突き刺す。
パキパキと音を立てて、イトラーの身体は凍り付く。
「な、なんでお前は攻撃をくらったのに・・・。」
バリーはドリルが突き刺さった部分を見せる。
「全ての水分は私の味方。アクアダガーは、水だろうが、氷だろうが、水蒸気だろうが、全ての水分を操ることが出来る。」
バリーの身体、ドリルが突き刺さった所は氷で塞がれていた。
「出血を無理矢理氷で止めた。これで私は無傷だ。」
実際ははったりだった。
自らの身体を凍らせるのは相当の負担が伴う。
出血がないため死ぬことは無いだろうが、傷の痛みは消えない。さらに、氷による冷えの痛みも加わる。
バリーの行為はまさにもろ刃の剣だった。
しかし、イトラーを欺くには十分。
「な、なんだと・・・。じわじわいたぶる事が出来ないとは・・・。」
バリーはアクアダガーを構える。
「千殺氷。」
水蒸気が氷へと変化し、刃を形作って行く。
百の氷の刃。
こんなものに斬られたら跡形も無くなるだろう。
氷の刃は一斉にイトラー目掛けて飛んで行く。
「甘いんだよっ!」
イトラーは高速回転している盾で刃を粉々にした。
「はっはあ!・・・?」
バリーの姿がどこにも無い。
「な・・・どこへ消えたんだよ!」
イトラーは突然背後をナイフで斬られる。
そこには、バリーがいた。「まわりの湿度を調節することで蜃気楼を発生させた。それにより一瞬姿を消したように見えたわけさ!」バリーの顔は得意気。
イトラーの怒りは増えつづけるばかりだ。
「おのれ!」
イトラーは我を忘れて突進してくる。
「これでもくらえ!」
突然、イトラーの背中に羽がはえる。
羽は大きく羽ばたき、イトラーの身体は浮いた。
「俺の持っているもう一つの魔石、エンジェルフライだ!」
空を飛んでいるため、バリーには手だしが出来ない。
一方、ゼル、ルーナ、ランジの三人は、新たな敵と対峙していた。
「ワシの名は魔術師グリウ。土属性魔法の使い手じゃ!」
ルーナが前に進み出る。
「私がこの男を倒すわ。」
「何言ってんだ!お前の雷属性じゃ、あまりにも不利だ!ここは俺が・・・」
ゼルは反対したが、ルーナの意思は変わらなかった。
「大丈夫。私にも作戦はあるから!」
ルーナはやけに自信ありげだ。
「ここはルーナを信じて俺達は先を進もう。」
ランジはゼルにそう言った。
ゼルとランジは先に進む。
ルーナ対グリウ。
三戦目の始まりだ。
バリー対イトラーの闘い。最初はバリーが優勢で、このままバリーが勝利すると思われていた。
しかし・・・。
バリーは倒れていた。
身体中傷だらけだ。
「ははは!所詮お前達は空にいる敵には手も足も出ないんだよ!」
イトラーは空を飛んでいる。
羽は鋭利で相手を切り刻むのに向いているらしい。
イトラーはバリーを一方的に襲っていた。
「傷を氷で塞いだのも最初の一回だけだろ。ただのはったりかよ!」
一カ所塞ぐだけで相当な精神力を必要とするこの技は、何箇所にも使えるものでは無い。
明らかにバリーは追い込まれていた。
バリー対イトラー。
両者の争いはまだまだ続く。
次回 続・バリー対イトラー