第二十三話 「幻想箱5 DESPAIR」
魔石紹介 アリエス−救世の魔石の一つ。ルーナの兄・カヤが持っていたが、現在は政府の物となっている。能力は雷のムチ。しかし、更なる能力があると思われる。
ゼルとアデムは、パンドラボックス三階、にたどり着いた。
扉を開けた二人は口をポカンと開けている。それも無理はない。なぜなら、そこにはこたつが一つあり、金髪の女性がくつろいでいたからである。
「ようこそいらっしゃいました。私がジョーカー様にこの三階を任されております、クイーンと申します。」
一階、二階共に命懸けの闘いをしただけに、何かひょうしぬけした感じだ。
「あの・・・。」
ゼルとアデムは思いがけない事態に、戸惑っている。
「ここまで、来るのは疲れたでしょう。そんな所に立っていないで、ここに来なさい。おいしいみかんもありますよ。」
二人は、クイーンに言われた通りにこたつに入ってしまった。
「クリップタウンに行ったことあります?このみかん、クリップ産で普通の物より甘みがあってとてもおいしいんですよ。」
二人はみかんを手渡される。恐る恐る食べてみるが、確かにおいしい。
「私もね、クリップの出身なんですよ。小さい頃から、色々な実験が大好きでねぇ。ここに勤めたいとずっと思っていたんですよ。それからねぇ、ぺらぺらぺらぺら・・・」
クイーンはぺらぺらと色々な話をし始めた。
最初は戸惑っていた二人だが、この女性から悪い感じはしない。
しばらく経つと、仲良く談笑していた。
「俺はライブ島出身なんですよ。あそこは本当にのどかで、ぺらぺら・・・」
「僕、実家を継ぐのが嫌だったもんで、家出して気ままに旅しているんですよ、ぺらぺら・・・」
ゼルは話している途中に我にかえった。こんなことをしている場合では無いのでは。
「おい、アデム!急がないとやべーんじゃねーか?」アデムも我にかえる。
「そうだった!すみませんクイーンさん。僕達、先を急いでるんで、行かせてもらいます。」
二人が立ち上がったその時−
「それは困りますわ。私、ジョーカー様にあなた達を倒すように言われてますの。」
クイーンも立ち上がる。
「何言ってるんですか、クイーンさん。あなたは、闘いには向いてなさそうですよ。」
アデムは言った。
「あら、失礼な。これでも私、ジョーカー様の部下ですのよ。戦闘だって、出来ますわ。」
ゼルとアデムは、クイーンをなめてかかっていた。その考えを、すぐに改めることになるのだが。
「あなた達には、究極の選択をしていただきます。まずはゼルさん。あなたのお友達のルーナさんと、出身地であるライブ島の住民達。どちらか一方を失うことになるとしたら、あなたはどちらを選びますか?」
「はあ?何言って・・・、」ゼルはクイーンの質問の内容が理解出来なかった。
「見せてあげましょう・・・。大切な人を失うその苦しみを。」
クイーンの左腕のリストバンドについている魔石が光る。
ゼルの目の前に信じられない光景が写った。
ライブ島でゼルの世話をやいてくれた、ルードが立っている。
少し離れた所には、ルーナがいた。
「な・・・、なんでルードがここにいるんだよ!それに、ルーナも最上階にいるんじゃねーのか?」
次の瞬間、ルーナはムチに雷を発生させ、ルードを狙って振り落とした。
ゼルはとっさにレオを発動して、ムチを弾きとばす。
「どういうことだ!なんでルーナがルードを狙うんだよ!」
クイーンはこの光景を見て微笑んでいる。
「これは、あんたの魔石の能力で、俺に幻覚を見せているのか?」
「さあ、どうでしょう。もしこの二人が本物だったらどうします?」
手が出せない。
おそらくこれは幻覚だろう。仲良く話をしていた時に、ゼルはルードのことも話していた。
しかし、幻覚だと断定することも出来ない。
クイーンの魔石の能力が分からない以上、どうすることも出来ない。
「ルーナさんは私の命令ならなんでも聞きます。私は、ルードさんを殺すように命令しましたわ。止めたいなら、ルーナさんを殺しなさい。」
ゼルは歯を食いしばる。
アデムがクイーンの懐に入り、喉元に刃を向けた。
「あなたのやり方は気に入らないね。今すぐあれを消すんだ。そうしなければ・・・。」
「どうしますか?」
クイーンは部屋の隅に立っていた。しかし、アデムは確かにクイーンに刃を向けたはず・・・。
アデムは直ぐさま自分が刃を向けている人間の顔を確認する。
青髪の女性−
その顔を見て、アデムは呆然とした。
「な・・・、なぜだ・・・。あなたにこの女のことは話していないはず・・・。」
「私の魔石の一つ、ビジョン。あなたの記憶を覗くことが出来るのよ。まあ、だからといってその女性が偽物と言うことにはならないでしょうね。」
その女性は、アデムがよく知っている。
「ミリー・・・。」
アデムは女性の名を呼ぶ。
「ミリーさんに命中したのは、あなたを殺すこと。どうですか?愛する者に殺される絶望は・・・。」
ミリーは、アデムを見つめる。
「まさか・・・。」
アデムは体を横にずらす。
刀が、アデムに突き刺さる。
「ミリーさんは、あなたが剣術を教えた方なのですね。今のも、魔石の刀だったら避けられなかったでしょう。」
アデムは何も出来なかった。
ミリーは確かにアデムの剣術の弟子だった。
しかし、才能をみるみる開花して、アデムと同レベルまで成長を遂げたのだ。
ミリーの刀がアデムを襲う!
一方、ゼルも手だしが出来ずにいた。
何度か気絶させようとしたのだが、倒れる気配が無いのだ。
「ルーナさんを止めるには、殺すしかありませんよ。」
クイーンは言う。
ここは、絶望の間。
さらなる絶望が二人を襲う。
次回 クイーンの罠