第十六話 「アデム」
今回、少し急展開すぎたかなと思います。 以後、少し気をつけるようにしたいです。
バナナタウン付近−
喫茶店の外に、三人の若者が腰掛けていた。
ゼルとルーナと話しているのは、ハンサムな黒髪の少年。先程、チンピラを吹き飛ばした所を見ると、ただ者ではなさそうだ。
「お前は一体何者だ?なんで俺達が救世の魔石を持っていると分かった?つーか、そもそもなんで救世の魔石の存在を知っているんだ?」
ゼルが話を切り出す。
「僕の名前はアデム。魔石研究員の一人、カプリコーンの子孫だ。」
その発言に、ゼルとルーナは驚いた。
「それじゃあ・・・、救世の魔石を持っているの?」ルーナが尋ねる。
「いや・・・。救世の魔石を持っているのは、僕の兄の方だよ。僕は、一族に縛り付けられるのが嫌で、一族を抜けたんだ。」
その発言にルーナは眉をひそめた。命を懸けて救世の魔石を守ろうとしたルーナの兄と重ね、あまりにも自分勝手だと思ったのだろう。
「そして、なんで君が救世の魔石を持っていると分かったかというと、これを持っているからさ。」
アデムはジーンズから魔石を出した。通常の物と比べると少し大きめで、赤い光を放っている。
「この魔石は少し特殊でね。数メートル以内に救世の魔石が近づいたら、赤く光るんだ。」
ゼルは、全ての謎が解けたという顔をした。
「なあ、アデム。俺達は、救世の魔石の力が必要だ。お前の一族が住んでいる場所を教えてくれないか?」アデムは少し考えた後、首を横に振った。
「それは無理だよ。一族の居場所は外部に教えてはいけない決まりなんだ。いくら一族を抜けたからって、裏切るようなことはしたくない。」
「そうか。無理言ってゴメン。俺達は先を急ぐぜ。」ゼルとルーナは立ち上がる。
「あ!ちょっと待って!僕も君達に用があるんだ。」アデムも立ち上がる。
「君達、バナナタウンに向かうんだろ?歩きながら話をしよう。」
「君達、バナナタウンに政府の施設があるって知ってるかい?」
ゼルとアデムは話をしている。ルーナはどうにもアデムが気に入らないらしく、黙りこくっている。
「ああ。研究所があるんだろ?詳しくは知らないけど。」
「うん。その研究所は、表向きは、生活に役立つ薬品なんかの研究をしているんだけど、裏では八光の一人ジョーカーを中心に人の道を踏み外した研究をしているんだ。」
「八光?聞いたことねーな。なんだそれ。」
アデムは、少し速足になる。
「八光っていうのは、政府の戦闘部隊に所属する八人の幹部。その全員が、救世の魔石を持っている。僕が知っている八光はジョーカーと、リデューという男だけだが。」
ゼルはゴクリと唾を飲む。ゼルの憎き敵、リデュー。闘った時は、救世の魔石を使ってこなかった上、所詮ガキだと油断していたため、何とか勝つことができた。
しかし、もしあの時あいつが救世の魔石を持っていたら・・・。そう思うだけでぞっとする。
アデムは話し続ける。
「奴の持っている魔石の一つに、エリクシルという物がある。救世の魔石では無いが、本当に恐ろしい力だ。その能力は、二体の生物を融合させ、新たな生命を生み出すこと!ユニコーンやドラゴンだけではない。ドワーフという種族も、その力によって生み出された。」
ダンバータウンにいたボーネスという男。ボーネスは確かドワーフと名乗っていた。魔石の持つ力は、そんなおぞましいことが出来るのか。
「僕は、個人的に政府に恨みがある。特に、ジョーカーに。」
アデムは力強くそう言った。
バナナタウン−
辺り一面に畑が広がっていて、とてものどかだ。
しかし、そののどかな街に似つかわしくない建物がある。国立総合研究所。
ジョーカーという男が指揮をとっているその施設は、決して民間に知られてはならない研究を行っていた。
新たな生命の誕生。
魔石を利用した兵器の開発。全ては、他の国を支配し、頂点に立つためだった。
「君達に頼みたいことは、国立総合研究所の襲撃のアシストだ。」
アデムはさらっととんでもないことを言った。
「襲撃って、俺とルーナがいても三人だぞ!無謀すぎる。」
ゼルは反対をした。
ルーナは相変わらず黙っているが、表情から察するに、反対のようだ。
「大丈夫。先日のダンバー武道祭で君達は一位と二位だったんだろ。実力はあるはず。それに、ある程度の作戦も考えているからね。」
アデムは必ず成功する、といった顔をした。
「君達には悪いが、出来れば早いうちに決行したい。明日の昼!この街の入口に来てくれ。強制はしない。君達が来なかったら、僕一人でもやる覚悟はあるからね。」
そういって、アデムは去って行った。
その日の夜−
「なあ、ルーナ。お前は明日どうする?」
宿で、ゼルはルーナに尋ねた。
「私は行かない。あんな自分勝手な人の協力なんてしたくない。」
ゼルは、悩んでいた。
次回 敵の魔手!