第十五話 「動き出す敵」
魔石紹介 レオ−炎の鎌。使い手のレベルに応じて使える技が増えていく。ゼルは現在一つしか使えない。ちなみに、救世の魔石は、かなりの精神力の持ち主でない限り、扱えない。無理に使おうとすると、最悪、命に関わる。
とある地−
そこには、怪しげな洋館が存在した。壁から屋根まで黒一色なのだ。
ここは、政府が管理する施設の一つ−
近隣の住民の中で、この洋館がどのように使われているのか、知る者はいなかった。
洋館一階の一室−
ロビーのような部屋に、複数の人間が集まっていた。「これの完成は、まだなのか?」
顔に入れ墨をした痩せ気味な男が口を開いた。
「もう、完成はしました。ただし、通常のエネルギー蓄積魔石では、エネルギーが貯めきれないのです。新型タイプを開発する必要があります。」
シルクハットをかぶった四十代半ばほどのヒゲを生やした男が答える。
ここでは、決して民間人に知られてはならない、兵器の開発が秘密裏に行われていた。
現在、ここにいるのは五人。
そのうち、シルクハットをかぶった男を除いた四人は政府の戦闘部隊最強の八人をそろえた集団のメンバーだった。
今日彼らがここに集まったのは、秘密の会議を行うためだった。
「結局、集まったのは四人ですか。まあ、彼らも任務があるから、仕方ないか。」
シルクハットの男は、タオルで汗を拭いながら話しはじめた。
「今日、何故会議が行われたのか分かりますか?リデューさん。」
ゼルの祖父、レオを殺した男、レオは無言だった。
相当機嫌が悪いようだ。
シルクハットの男は、何も言わないリデューを見て、話しはじめた。
「リデューさん、あなたは少し前、救世の魔石が持つ、独特のエネルギーを察知し、持ち主と思われる少年を襲撃しましたね。」
リデューは何も言わない。目を閉じて、黙りこくっている。
「あなたほどの男が、しくじるなんてらしくないですね。しかも、相手は十六歳前後の少年なんですよ。」リデューはゆっくりと目を開いた。シルクハットの男を睨んでいる。
「俺は、あのガキをに負けた。それは事実だ。しかし、あのガキは救世の魔石を持っていた。一方、俺はその時これを持っていなかった。」
リデューは大剣型の魔石を持ち上げる。黒い等身が、異様な雰囲気を出している。どうやら、救世の魔石のようだ。
「ただ、状況が悪かっただけだ。実力はこちらの方が上。もう一回やれば、確実に殺せる。」
八光の一人と思われる男が口を開いた。
青い髪で、右目に×マークの眼帯をつけている。
「オッサン。負け惜しみかよ。カッコ悪いな。」
もう一人の男も口を開く。なんとこの男、顔と服装が、サーカス団のピエロそのものなのだ。とても、政府の戦闘部隊とは思えない。
「やれやれ。あなたは、自分の失敗を認めることすら出来ないのかな?」
リデューは二人を睨む。大剣をにぎりしめている。正に、一触即発の状態だ。
シルクハットの男がなだめた。
「まあまあ、三人とも。リデューさんの実力は誰もが認めている。今回の件で、あなたを処分するつもりはありませんよ。」
三人は、静まった。どうやら、権力はシルクハットの男がもっているようだ。
「しかし、その少年は我等の敵。確実に葬らなくてはいけません。」
シルクハットの男は、懐から地図を取り出した。
「先日、あなたが少年と闘ったダンバーの街で、武道大会が開かれました。そこで、主催から、私に電話がかかってきましてね。その大会に少年が出場しているというんです。」
「まさか、一度命を狙われてもう一度出向くとは、頭の方は弱いみたいだな。」ホークは笑みを浮かべる。
「ボーネスさんが向かいましたが、案の定やられてしまいました。」
シルクハットの男は、予定調和だという感じで話している。
「所詮は子供。そこまでの脅威とは思いません。しかし、幼いが故に、将来が恐ろしい。また、下っ端を一人向かわせただけでは相手にならないと分かりました。そこで、あなた達、八光に葬って頂きたいのです。」
「つまんねー任務だな。そんなもん、俺達がやるほどの任務でもねーだろ。」
眼帯の男は、不服そうな顔をした。
「あなた達が直接やらなくても構いません。部下に任せても結構です。」
男は、シルクハットをとる。
「数日前にダンバーで確認されていますから、バナナタウンに向かっている可能性がありますよ。ジョーカーさん。」
シルクハットの男は、ピエロの男、ジョーカーを指差す。
「くくく・・・。大丈夫ですよ。ダイオさん。そこの惨めな男よりは、まともな働きをしますから。」
ジョーカーは不敵な笑みを浮かべる。リデューとの仲は最悪なようだ。
「それでは・・・、各々心得ておくように!解散!!」
次の瞬間、五人の姿は洋館から消えていた。
ゼル達は、バナナタウンのすぐ近くまで来ていた。
バナナタウン付近の喫茶店。二人はそこで休憩を取っていた。
「今日の内には街につけそうだな。」
ゼルは呟く。
「少しは気をつけておいた方がいいよ。政府にも、ゼルの情報は伝わっているだろうし。」
このあたりは、ダンバータウンとは違い少し淋しい雰囲気だ。店の外には、一面畑が広がっている。
店内では、畑仕事の休憩に、若者や老人がくつろいでいた。
ゼルが何となく店内を見回していると、老人と若者が揉めているのに気付いた。「ジジイ!てめえが俺の畑を荒らしたのか!」
若者は、声を荒らげてどなっている。他の客や店主、店員も見て見ぬふりをしている。
「いいがかりじゃ!ワシは他人に迷惑などかけん!」老人は必死に否定している。
「このクソジジイっ!」
若者は老人に向かって手をあげようとした。ゼルはそれに気付いて、止めようとする。
風が吹く−
次の瞬間、若者の身体は宙に浮いた。壁に体を打ち付け、気絶している。
ゼルも、老人も、何が起きたのか理解出来ず、唖然としている。
「ただの峰打ちだよ。老人に手をあげるなんて、許せないな。」
右手に刀を持った若者が立っている。
若者は、ゼルとルーナの方を向いてニッコリ笑った。
「君、救世の魔石を持っているね。」
次回 共同戦線?