第十四話 「森の出会い」
事情により、天下イチは削除させて頂きました。 真に申し訳ございませんでした。 現在、別の執筆を始めることを計画しております。 少々、お待ちください!
ゼルは、アリエスの子孫ルーナと共に、ダンバーの街を出た。
次の目的地はバナナタウンの国立総合研究所。そこに、救世の魔石の手掛かりがあるかもしれない。
地図で見た所では、バナナタウンは徒歩で三日ほどの距離があるが、途中にいくつも町があるため、疲れを感じる事は無いはずだ。
ダンバーの街を出てから、今日で既に五日が経っていた。
ここは、どこかの森の中。どうやら、迷ってしまったようだ。
「はあ・・・。参ったな。まさか迷う事になるとは思わなかったから、準備もろくにしてなかったぜ。」
二人は、小さな川のほとりで、この現状をどうするべきかの作戦会議をしていた。
「食料も切れちゃったし・・・。本当にそろそろヤバイよね。」
ルーナはため息をつく。
「食料の面は、何とか大丈夫だ。いざとなったら、図鑑をフル活用して、食える植物やら、キノコやらを探すから。」
「え〜!嫌だ〜!もし毒だったらどうすんの?」
ルーナは猛反対する。
「お前・・・、思っていたよりわがままなんだな。食い物が無くて死ぬよりはましだろ。」
ゼルは呆れている。
ふと、辺りを見渡すと、見覚えのある植物が。
黄色をしたその植物を、ゼルは引き抜く。
「何?それ?」
ルーナは尋ねる。
「この草な、名前は知らないけど、俺の故郷によく生えてたんだ。食用で、甘い味がするんだ。」
ひとつをルーナに渡す。
ルーナは恐る恐るその植物を口に運んだ。
「あ!ホントだ!おいしい。」
「だろ。これだけでもけっこういけるぜ。」
二人がしばらく植物の味を楽しんでいると、馬車の音がしてきた。
「ん!人だ!食い物、分けてもらおーぜ。」
ゼルは馬車に近づいた。どうやら、馬車を動かしているのは、馬ではなく小型ドラゴンのようだ。
馬車はゆっくりと停止した。
中から人がおりてくる。
「いやあ・・・。ボクもついてるっス。商品を探しにきてお客さんに会えるなんて!」
黒髪の小柄な少年がでてくる。服装、言動からして、商人のようだ。
「あんたたち、旅人のようですけど、どこに向かってるんスか?」
ボサボサの髪をいじりながら少年は二人に尋ねた。
「バナナタウンに向かってるんだけど・・・、道に迷っちまったんだよな。」
「お困りみたいっスね。ここから、バナナタウンまでの細かい道のりが書いてある地図なら持ってるっすよ。」
ごちゃごちゃしたかばんから、少年は地図を取り出した。
「おおっ!それを俺達にくれ!」
ゼルは目を輝かせる。
「タダでっスか?」
少年の目つきがかわった。真剣な目だ。
「いいっスか?この世の中、タダは絶対有り得ないんスよ。僕の持ち物は、全て売り物っス。タダでやれる物なんて一つも無いっスよ。」
少年はかばんの中からそろばんを取り出した。所々にカビがはえていて、相当年期がはいっているのが伺える。
「とはいえ、あんたたちは当店を初めて利用するんすよね。それなら、サービスしとくっス。うちの店て何かを買えば、地図をオマケにつけるっス。」
「本当か?助かるよ。」
ゼルは、この少年のがめつさに出会って数分で呆れてしまった。
少年は、商品を地面に並べながら自己紹介をした。
「僕の名前は、ナッツって言うっス!十歳の時に行商人になって、今年で四年目っス!」
「俺の名前はゼル。こっちがルーナだ。よろしくな。」
ナッツは品物を並び終えた。
「さて、食べ物から魔石まで何でも揃ってるっスよ。御自由にどうぞ。」
「え?何?魔石も売ってるの?」
ルーナは二人の会話を黙って聞いていたのだが、品物をじっと見ている。
「え!この魔石、二万コインしかしないの?」
ナッツはニコニコしながらジェスチャーを交えて話す。
「はい。当店の売りは安さっス。」
「そんなに安いなんて、何か怪しいな。どこから仕入れてるんだ?」
ゼルがそういった瞬間、ナッツの顔は引きつった。
「そ・・・、そんなのどこだっていいじゃないっスか。」
相変わらずニコニコしているが、明らかに怪しい。
「おい、ルーナ。商品に触れるな。何か怪しいぞ。」
ゼルはルーナに忠告する。「大丈夫だよ。ゼルは心配しすぎだって。ゼルは魔石買わないの?」
ルーナはゼルの忠告を無視し、商品の山をあさっていた。
「俺はいらねーよ。こんな怪しい店の商品なんて。」
ナッツは、冷や汗でびっしょりだった。
「そんなこと言わないで、何か買ってくださいよぉー。旅人の必需品っスよ。魔石は。」
「俺はもう魔石持ってるからいーんだよ。つーか、ルーナも持ってるんだからいらねーだろ。」
ゼルは自分の魔石をナッツに見せた。
ナッツの目つきがかわった。驚きの目だ。
「そ・・・!それって救世の魔石じゃないっスか!」
ゼルは自分の軽率な行動を後悔した。まさか、ナッツに普通の魔石と救世の魔石の違いが分かるとは思わなかったのだ。
ナッツはゼルに近寄ってくる。
「凄いっス。レアな物を持っているんスね。」
ナッツはズボンのポケットに手を突っ込んで、何かを探している。
「くくく・・・。あんた達には特別に教えてやるっス。魔石の仕入れルートを。」
ナッツはポケットから魔石を取り出した。
魔石を発動する。
まばゆい光と共に、ナイフが現れた。
「ルーナ!後ろに下がってろ!」
ゼルは危険を感じ、ルーナに指示を出す。
「行商人はあくまで副業。僕の本業は、盗賊っス。」
「なるほどな。ここに並んでる商品は、全て盗みで手に入れた物なのか。どうりで安いはずだな。」
ナッツは、ナイフを強くにぎりしめている。
「僕は、五十五の魔石を戦闘に使っているっス。いくら救世の魔石を使おうが、僕に負けはないっスよ。」
ナッツはナイフを振り回しながら、突っ込んで来る。しかし、振りが大振りなため、避けるのは簡単だ。
ゼルは攻撃を避けたあと、ナッツの腹に一撃を与えた。
「うぐうっ!」
ナッツはうめき声をあげる。
「魔石をいくつ持っていようが、扱いが下手なら関係ないな。」
ナッツは後ずさりをした。顔には、恐怖の色が浮かんでいる。
「俺だって、悪人じゃねえ。もう、盗賊行為をやめるなら、何もしねーよ。」
ナッツは、手を差し出し、頭を下げる。
土下座をするのだと思ったゼルは、レオを石に戻す。
ナッツの右手に、魔石が握られているのに、ゼルとルーナは気付かなかった。
ナッツは魔石を発動する。少し時間をおいて、突然煙がたちはじめた。
「ゼル!?これは一体?」
ルーナの声が聞こえる。
しかし、どこにいるかまでは、分からなかった。
煙は強く、数十センチ先も見えない。
ゼルは、手探りでナッツを捜そうとしたが、さすがに無理があった。
ナッツの声が聞こえる。
「これが、僕の緊急非難用の魔石、ゲットスモーキングっス。これであなた達は僕を追うことはできないっスよ。」
ゼルは、近くにいる相手に逃げられるもどかしさに、歯ぎしりをした。
「そのうち、あなたの救世の魔石を頂きに行くっス。それまで待っていてくださいね。」
ナッツの声は次第に小さくなっていく。
煙が完全に晴れたとき、そこにナッツの姿は無かった。
新たな敵?ナッツとの出会いも、ゼルの命運を大きく左右していく。
次回 バナナタウンの・・・