第十二話 「涙」
ゼルが習得した、レオの技焔龍。それにより、ルーナは追い詰められた。
「へっ!形勢逆転みたいだな。」
「何を・・・。私の力だって、負けてはいない!」
ルーナは、鞭を放つ。
複雑に動く鞭だが、ゼルはそれをかわす。しかし、鞭は急に方向を変えて、ゼルを襲った。鞭の動きが読みづらく、交わすのが精一杯でなかなか攻撃に転ずる事が出来ない。脇腹に一発鞭が命中する。ゼルは呻き声を上げる。さらに、ルーナの魔力により、ゼルの体内に電気が流される。
「かはっ!」
ゼルはその場で膝をついた。
「あなたはさっきガローネと言う魔法使いと闘ったよね。その時分かったと思うけど、雷属性の魔法には毒の効果がある。」
ゼルは毒の効果を実感した。足が痺れて動かない。ガローネの物とは違い、炎で解毒は出来ないようだ。
ゼルの額から、冷や汗が落ちる。
「あなたもなかなかやるみたいだけど・・・。復讐を力の糧としている私には勝てないわよ。」
ルーナは鞭を頭上高く振り上げる。
「あなたは、私の最強の技で葬るわ。」
ルーナは、動かない。一体何をするつもりなのか。観客の視線が集まる。
雲行きが怪しくなってくる。ごろごろと雷の音がする。
「まさか・・・。」
ゼルはルーナが何をするつもりなのか気づいたようだ。
「この雲は、たまたま起きたものでは無い。私が作為的に起こした物よ。」
雨が降り始める。瞬く間にゼルの体はびしょ濡れになる。おそらく、通電率を上げるつもりなのだろう。
「魔女は、天候をも操ると言うのか。」
誰かが呟いた。
ピシャアっ!!
雷が落ちる。ゼルの体を目掛けて。すさまじい轟音で、他の声は一切聞こえない。煙がたつ。ゼルがどうなったのかは、一切理解出来ない。
「人殺しー!!」
観客からは、非難の声。
一瞬、ルーナが悲しそうな顔をした。雨がやむ。
「雷神・・・。天からの落雷は標的を完全に破壊する。」
その時だった。煙の中からレオ、焔龍が飛び出してくる。ルーナはとっさに防ごうとするが、遅かった。
レオはルーナの額に命中。刃はルーナの方を向いていなかったため、軽い擦り傷と火傷で済んだ。
煙の中から、ゼルが顔を出す。所々に怪我を負っているが、魔法の雷が命中したにしては軽すぎる。
「落雷っつっても所詮魔力の塊。力をぶつければ破壊出来ると思って、レオを使ったんだ。」
ゼルは命懸けの闘いを行っているとは思えないほど、ニッコリと笑った。
「なるほど。だけど、何で刃を使わなかったの?私はあなたを殺そうとしているのに。」
ルーナは相変わらずゼルを睨んでいる。
「殺そうとしている?馬鹿言うな。お前は、俺を殺そうとはしていない。」
場内は騒然となる。
「だって、お前の技には全て殺意がこもっていないもんな。今の落雷だってそうだ。雷の毒だって、もう解けてる。」
「私はあなたを殺す!」
ルーナは鞭を振るうが、スピードはとてもゆっくりしている。かなり動揺しているようだ。
ゼルは鞭を手で掴む。
「ルーナ、お前はただの女の子だ。それが、兄さんを殺されたショックで、憎むべき存在が分からなくなっちまってる。心の奥深くでは分かってるんだ。だけど、自分の本当の気持ちが分からなくなって・・・。」
「うるさい!」
ルーナは叫ぶ。ゼルの握っている鞭に雷を流すのだが、ゼルは眉一つ動かさない。
「街の人間からは、魔女と忌み嫌われ、自分の居場所が無い。そんな辛い思いはもうたくさんだろ。お前の本当の敵は政府だ!!俺と一緒に旅に出よう!!そうすれば・・・。」
「うるさい!!」
ルーナは鞭を奪いとった。「私は・・・、あなたを殺す!!これが私の本心よ!!」
鞭を、雷が包み込む。
「分かった。俺も全力で、お前の本当の気持ちを引きずりだしてやる!」
二人は全力でそれぞれの武器を振った。
ゼルの方が、わずかに速かった。ルーナの鞭は、ばらばらにくだけちる。
「どうする?お前の魔法なら、まだ自動再生させて、闘い続けることが出来る。まだやるか。」
「私・・・。本当は分かっていた。あなた達は時が来るのを待っていただけ。兄さんを見殺しになんてしていなかった。」
ルーナは、下を向いて話している。
観客は、ゼルの勝利を祝福し、ルーナを非難していた。
それに対し、ゼルの怒りは爆発する。
「うっせえ!!!!」
観客は静まりかえった。
ルーナは話し続ける。
「でも、私は現実から目を背けていた。ホークの力を見ていたから。私は、あの男に勝つことは出来ない。心の中ではそう感じていた。だから、私はあなた達、レオの子孫を私の宿敵に仕立てあげてしまった。」
ルーナの声は、震えていた。今までの事を、思い返しているのだ。目頭が熱くなる。
一粒、涙がこぼれ落ちた。「本当に、ご・・・、ごめんなさい・・・。私・・・ヒック、・・・私をあなたの旅につれていってください。」
ゼルはルーナに近寄り、頭を撫でた。
「ああ!お前みたいな強い奴が仲間だとすげー心強いよ。」
ゼルは微笑んだ。
「私を・・・許してくれるの?」
「許すも何も、ルーナは何も悪くないだろ。本当に許せないのは・・・。」
ゼルが睨みつけた先には、男が立っていた。
男は政府指定のスーツを着用している。
ゼルとルーナ。
二人の魔石研究員の子孫を狙って、刺客が現れたのだった。
次回 ルーナ編完結