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7/8

リストコール家の怒りを存分に味わいなさい

 バズーカ砲。


 あのですね、ここは異世界ファンタジーの世界でしてね。ボーゲン叔父さん。


 そういう雰囲気をぶち壊すようなですね。

 暴挙は止めて頂きたいのですが。


 黒こげになった床。


 だが、その黒こげが動いた。


 ホウファイ。

 死んでいない。


 だが、立ち上がることは出来ない。


「これでもまだ死なぬか」


 ボーゲン叔父さんを見ると、バズーカーを担いだ肩から血が流れている。


 砲撃の衝撃だろうか。血塗れ。


「叔父様! 肩が!」

「ローメル、油断するな!」

 そう、抱きついているアマダが少し笑ったのだ。


「あのさ、ローメル。僕の変身のどこが甘かったの?」

 ノンビリと聞くアマダ。


 なんだそりゃ


「……ジュリウスは私のいる部屋を知っている。用があるなら真っ直ぐ来る。私の部屋から王の部屋に行くまでに確実に会うはずだ」


「あらら、そんな事でバレたんだ」

 アマダは笑い、変身を解く。


「……なっ!? ジュリウス!?」


 変身を解いたアマダの後ろには血塗れのジュリウスがいた。


「僕の変身は、他の人間を担いでも有効なんだ」

 ポイッとジュリウスを床に落とし


「芸がないけど人質だよ。ホウファイを見逃して」


 そう言ってアマダはジュリウスの首に手をかける。


「ああ、この前みたいなことはないよ。こいつローメルに恋慕しているんだろ? ホウファイに一撃喰らわせたら、間違い無く殺す」


 アマダからの殺気。


 こいつは確実にジュリウスを殺す。


 ジュリウス。

 私が好きだと言った男。


 好みでは無いにしても、好意をもってくれた人を殺す?


 でもヴィルツは見捨てたのだ。結果オーライだとしても。


「……ジュリウス……」

 私の口が凍る。


 ヴィルツを見捨てたのは、この身体が勝手に口走ったのが契機だった。


 今回はそれはない。

 私が決める。


 ジュリウス……


「……て」

 ジュリウスが口を開く。


 ……て?

 殺して?

 見捨てて?


 聞き取れない。


 ヴィルツのように、自らを捨て石に魔族を倒せと……


「た、たすけて」


 助けて。でした



「根性だせよ! バカ!」

 すげー格好悪いぞお前!

 男だろ! 強がれ! 少なくともヴィルツはかっこよかったぞ!


「どーする? ローメル?」

 にこにこするアマダ。


「叔父様。そこまでです」


「……分かった。いいのか?」

 ボーゲン叔父さんが構えをとく。


「その代わりこのジュリウスには生涯魔族狩りをしてもらいますから」


 ケラケラ笑うアマダと、プルプルと首を振るジュリウス。


「ローメル!? この魔族達は……」

 あまりの展開に絶句していた王子が喋る


「王を殺した犯人です。アマダとホウファイ。魔族の王子と王女」


 皆が呆然とする。



「では! 仇を!」

「叔父様の攻撃で死ななかった。そもそも一度殺しています。なのに蘇った。無敵です」

 という事にしておこう。


 生き返らせたのはエステメラルダに取り付いた『神』だが


「今の段階では残念ながら殺せません。幸いホウファイは動ける状態にない。持ち帰ってもらいましょう」

 私はアマダに向き


「帰れ」

「じゃあねぇ♪」

 アマダはかき消えた。



 みなが呆然とする中


「叔父様。見られましたか?」

 攻撃を受けたホウファイ。


 明らかにバラバラになっていた。

 そこからの蘇生。


 だが、それでもマトモに動けなかった。


「『神』の蘇生でも癒しきれないダメージを与えたと認識しています」


「流石、頭の良いローメルは素晴らしい。その通りだな。間違い無く一度死んだ。それで蘇生したが、癒しきれなかった」


 つまりだ


「二撃食らわせれば再起不能になるかもしれません」


「ふむ。両肩に持つか」

 いやいや


「叔父様。一撃で肩が血塗れです。これは別の構えにするべき。もっと言えば、二撃目は別の人間にやらせればいい」


「別の人間? 儂だからこそ扱える武器だぞ」

 そう思う。でも一人いる。


「ジャビラグランです。彼ならば扱える」


 叔父さんに負けない程の筋肉のある部下。


「見所のある奴だと思っていたが、口下手なのが玉に瑕だと心配していた。だがローメルは正当に評価しているのだな。よかろう。ジャビラグランと共に、今度こそホウファイを葬る」


 ボーゲン叔父さんは全裸で血塗れのまま帰って行った。




 城は大騒ぎ。


 その間に私の部屋にジュリウスとヴィルツを呼ぶ。


「……ローメルさんの部屋……」

 ほわっとした笑顔を見せるジュリウス。


 おい、部屋の空気を嗅ぐな。

 デリカシーがないぞ


「……それで? どうした?」

 ヴィルツを呼び出した理由。


「エステメラルダから『神』を追い出す」

「本当か!?」

 ヴィルツは喜びの声をあげる。


「ええ。それをしなければホウファイもアマダも撃退出来ない。順番を間違えていたのよ。エステメラルダに取り付いている『神』を先に倒す」


「どうやってです?」

 ジュリウスは不思議そうに首を傾げる。


 そう。簡単に「追い出す」というが、どうやるのか


「そもそも、あの『神』はなんなのか」

 私は少しずつ理解しつつあった。


『神』


 いつ出て来たのか?

 なぜエステメラルダに取り付いたのか?


 誰がそんな事をした?


 アマダ? ホウファイ?

 なんでわざわざ人間の娘に?


 そうだ。


 なぜエステメラルダか。


 わたしの身体が震える。

 正解に近付いてきたと自覚する。



「ヴィルツ、ジュリウス。私は先に宣言する」


 二人を前に私は堂々と言った。


「ローメルト・ファルニーズ・リストコールは、間違い無く悪だ」




 悪魔に魂を売る。


 日本でよく聞いたセリフ。

 この世界では文字通りだった。


 ローメルは悪魔に魂を売り払い、恋慕する王子の奪還を願った。悪魔は願いを叶えた。魂は消滅し、売り払った先の空っぽの身体に、何故か私の魂が雪崩れ込んだ。


 情報が集まって段々理解出来たのだ。


 そもそもこの事態を招いたのはローメルだ。

 この身体の本来の人格。


 こいつが『神』を呼び出した。



 なんでローメルは古代語という格式高い、難易度の高い言語をマスターしているのか。


 なぜ魔族の知識が異常に分かっているのか。


 理由は懸命に学んだからだ。


 悪魔を呼び出し、王子を手に入れる為に。


 この『神』こそが悪魔。魂を喰らう化け物。

 呼び出したのはホウファイではない。ローメルだったのだ。

 ただ、私の予想では単なる貴族のローメルが一から儀式などできるはずがない。多分ホウファイと接触してやったのだ。

 魂が喰われるなどは多分伏せられたかなんかしたのだろう。


『神』の取り付き先はライバルのエステメラルダ。

『神』に乗っ取られ、人生ハチャメチャになりやがれってか。


 めっちゃ悪い奴だな!

 ローメル!



「……」

 二人は怪訝そうな顔で私を見る。


 そら「私は悪だ」と言われても困るだけだろう。


「これから先に行うことは外道の仕業。私は償いも込めてエステメラルダを救う」


 エステメラルダも可哀想な娘。

 天然でムカつくけど、こんな悲劇に巻き込まれるほど悪ではない。



「ジュリウス、あんたはね。身体鍛えなさい」

 は?

 という表情で私を見るジュリウス。


「わたしヒョロガリ嫌いなの」

 その一言で

『ガーン』という表情を見せるジュリウス。


「それはともかく、必要なの。部下たちに鍛えてもらいなさい」


 さて、作戦をたてますかね。


 その間身体はずっと震えていた。

 罪の意識?


 まあ大丈夫よ、ローメル。



「あなたの罪は私の罪。全部まとめて償ってやるわ」


--------------------------------------------------



 私の記憶には欠落がある。


 日本にいた時の記憶。

 最後の記憶は、営業で自分の会社を出たところだ。


 そこからの記憶がぷっつりない。



 続いてローメルの記憶。


 エステメラルダの館に小虫ばらまくという嫌がらせをして高笑いして以降の記憶がない。


 ローメルの意識に入り込んだのは半年前だった。


 ローメルの記憶と、ジーマさんに聞いた話を総合すると、ひと月ぐらい記憶が欠損している



 そのひと月で、ローメルは『神』を呼び出した。


「失われた記憶にヒントがある」

『神』を呼べた以上、追い出すことも可能なはずだ。



 私は城の図書室にいた。

 ここには禁断の書物も含めて並んでいる。


「……あのダメージじゃホウファイはすぐには動けない」

 一方でこっち側も動けない。


 王が亡くなり、ランド王子が跡を継ぐ。

 そのドタバタと、王子を守るためにも城から出るわけにはいかない。


「……しかし、我が国は大丈夫なのですかね?」

 一人言。


 なにがって、内相の手伝いである。


 ジュリウス一人じゃできねーと、また泣き言を言ったのでジーマさんに手伝ってもらったのだ。

 そうしたら、めちゃくちゃ仕事が早く


「……お嬢、ゴルダは優秀であることに疑いはありませんが、ほかの部下は……」

 だそうです。



 私がやるべきことは複数ある。

 だが『神』を追い出さなければいたちごっこになるのだ。

 それがよくわかった。


「王子を守る。そのためにはアマダとホウファイにダメージを与える。そのためには『神』を追い出す」

 要は『神』を追い出さくことがすべての始まり。


 文献を探していると

「はろー、はろー」


「……」

 アマダ。また平然と城に入り込んでいる。

 なんというザル警備。


「ホウファイは止めたんだけどさ、僕と『神』はね。ローメルはもう分かっちゃうと思ってるんだ」

 ニコニコ


 こいつの言いたいことはもうわかる。


「『神』を呼び出したのはローメルト・ファルニーズ・リストコールだ」

「そうだね。そして君は何者なんだい?」


「私の名は『コウヅキ アヤカ』だ」


 こっちの言語で喋ると言いづらい。


「コウヅキアヤカ、ね。いい名前だね」

「ローメルは悪魔を呼び出した。目的はランド王子の奪取」


 1年前、王子の好意は完全にエステメラルダに向けられた。

 それから5か月間、どんな努力をしても自分には注がれない、そんな絶望。

 そしてローメルは禁断の手に手を染めた。


 その先の記憶はない。

 だが想像はつく。


「ありとあらゆる本を漁った。ありとあらゆる方法を試した。そしてたどり着いたのが、あの悪魔こと『神』を呼び出す方法」


「ローメルの願いは叶いました。めでたしめでたし」

 アマダは手を叩いて喜ぶ。


「そそのかしたのはホウファイだろう。引き換えが魂だとは教えてなかったな」

「そんなの本に書いてあるし~ 読まないやつが悪いし~」

 ケラケラ笑うアマダ。


「いや、びっくりしたんだよ。ローメル。いや、コウヅキアヤカ。ローメルの抜け殻に入り込んだ魂があったことも想定外なら、まさか本当に王子と結ばれるなんてね」


 ホウファイも『神』も、ローメルを純粋に騙した。

 魂が奪われる儀式。王子を奪うなんて願いをかなえる気がなかった。


「『神』、神ね」

 そーいうことなんだろーな。

 ああ、なんというアホらしい理由で私は異世界に呼ばれたのでしょうか。


「あの悪魔を『神』と呼んで騙したのはホウファイ」

 ローメルはまんまと引っかかった。


 とは言えまるっきり信じていたわけでもあるまい。

 なにしろ取りつかせた先はライバルのエステメラルダだ。

 たちの悪いものなのは知っていた。


 それでも、呼び出した代償に自分の魂が食われるまでは想像がつかなかった、と


「僕はホウファイが手を貸して呼び出した『神』なんてどうでもいいんだ。いつも僕をパシリみたいに使うんだもん。それよりもローメル、コウヅキアヤカに会えたほうが嬉しかったなぁ」


 アマダはニコニコしながら


「本当にさ、僕と結婚しない?魔族はたのしーよー! 自由でなんでもやりほうだい!」

 私ははしゃぐアマダを見つめながら


「……『神』と名乗る悪魔。そいつが、ローメルと王子の子は世界を滅ぼすと言った」


「そうだね、ローメル。謎解きはできたかい?」

 そのアマダに

「お前も、ホウファイも間違っている、あの『神』はわかってるんだろうけど」

 そうだ、前提条件が


「私の存在はイレギュラーじゃない。必然だったんだ。ホウファイがローメルに『神』を呼び出せると騙したのがすべての始まり」


『神』を呼び出そうとした。

 結果、現われたのは悪魔。


 でもね

「本当に神は現れた。なぜかはわからない。だが、厳然と」


 神、神ねぇ。私の名前

「ローメルト・ファルニーズ・リストコールは、この私、神月綾香こうづきあやかを呼び出しのだ」


--------------------------------------------------


 神月綾香こうづきあやか


 私のあだ名は色々あった。

 だが、社内で陰口のように言われていたあだ名が

「カミサマ」だった。

 神月の「神」の字と、傍若無人で人の話を聞かない姿勢。


 協調性もない。

 なのに、お局様や部長は私を放任していた。

 そうこうしているうちに私は結果を出した。

 社内報で報じられ表彰を受けるほどの結果。


 そうなれば上司たちはより

「あいつのやり方に口出しするな」

 となる。


 そうして出来あがったあだ名。好き放題にふるまう私を

「あいつ自分が神様かなんかと勘違いしているんじゃない?」

 という揶揄。




「騙されたことに気づいたローメルは、魂が食われる直前、自分が調べた知識を使い『神様! 助けて!』と召喚の詠唱を行った。そして呼び出されたのが私」


 つまりだ。

 ローメルは元々「願いをかなえてくれる神様」を呼ぶ儀式を調べていた。

 それに付込んだのがホウファイ。


 エステメラルダの取り巻きとして既にいた彼女はローメルに近づき

「私ならば『神』を呼び出させる」

 と囁いた。


 きっとホウファイは「願いをかなえる代償は大きい」ぐらいは伝えたのだろう。

 だが、自分の魂を引き換えに『神』が現れるまでは知らなかったと思われる。


 そして行った儀式。

 すぐにローメルは気づいた

「騙された」と


 元々疑っていたのかもしれない

 そして、最後の力を振り絞り『神』召喚の儀式を行った。


「かみさまー、たすけてー、そんな祈りが何故か私の魂を引き寄せた」


 言われてみれば、日本にいた最後の記憶に残ってる。


『かみさま、たすけて』

 そんな声。

 振り向いてからは記憶がないが。


「コウヅキアヤカは神様だったの?」

 意外そうな顔で聞くアマダ。


「いいや。単に名前の一部とあだ名がそうだっただけだ」

 ケラケラ笑うアマダ。


 ああ、種明かしすればくだらない。

 その「神様召喚の儀式」とやらは欠点だらけ。

 でもね、ローメル。

 願いは叶えたわよ。王子と結ばれた。

 あとは、償いだ。


「謎解きを始めようか、アマダ。まずは王子と私の子が世界を滅ぼす意味からだ」

 ニタニタと笑うアマダ。


「極めてシンプルな話だ。私と王子が結婚すれば、子ができれば、世界を滅ぼそうとするやつがいる」


 《ローメルト・ファルニーズ・リストコールと、ランド=フィリップ=アルスペルド=バレッチェの子、アルドール=フィリップ=アルスペルド=バレッチェが世界を滅ぼす》

『神』はそう言った。


 だが、言葉遊びだ。

 私と王子の子が世界を滅ぼすのではない

 私と王子の子が生まれることにより、滅ぼそうとするやつがいるのだ。


「私とアマダの子は世界を救う。王子の子は世界を滅ぼす。なぜか?考えれば簡単なんだよ。救うのも滅ぼすのも同じ奴だ。お前だよ、アマダ」

 要は、王子の子を見て嫉妬して世界を滅ぼそうとする奴がいる。それがアマダ。

 だからアマダと結婚すれば世界は救われる。


「だーいせーかーい!」

 パチパチと手をたたくアマダ。


「なんかね、ランドとローメルの幸せそうな姿を見て僕は狂っちゃうらしいんだよ。『神』がそういってた」

『神』の正体。


「あれは魔族が信奉する、予言する悪魔か」

「名前は恐れ多くて言えないけどね。まあ『神』だよ」


 あれは私とは別種の存在。

 地球出身ではないだろうが、この世界とは別の世界から呼び出されたような気がしている。

 やることなすこと、無責任すぎる。


「それで? ローメルはどうするの?」

 ニコニコするアマダに


「簡単だ。とりあえず『神』を滅ぼす。ホウファイには仇を討つ」

 そして


「アマダ、狂ったまま生きるのは苦しいでしょう? あなたがあなたであるうちに殺してあげる」

 殺す。

 私は人を殺したくない。例えそれが魔族でも。それでも


「私はランド王子が好きよ。アマダは強敵。でも敵だからこそはらえる敬意がある。私の手で殺してあげるわ、アマダ」


 その言葉に

「……あは」

 アマダは


「アハハハハハハハハ!!! 最高だよ! ローメル!!!」

 爆笑していた。


 そして

「……『神』の追い出し方なんて、僕にもホウファイですら知らないよ。召喚と追放は魔法系体が違う」

 そうかもしれない。

 今のアマダの言っていることは正しい。


 でも

「人間を舐めるな、アマダ」

 ローメルは騙された。

 だが自力で

『カミサマ』を呼んだ。


 なんの力もない、単なる保険営業ですけどね、ローメル。

 決断力なら任せなさい。



「この身体は自力で『カミサマ』召喚に成功した。ならば、この『カミサマ』である神月綾香が、自力で追放の魔術を探し当てよう」

 ローメルの身体が震える。

 そうよ、ローメル。


 私たちはね

「王子を守る。ついでに世界も救ってやる。アマダ。あんたの発狂も救ってやる」


--------------------------------------------------



 ランド王子の即位は少し先になることになった。

 まずはこの混乱を収める。


 その会議に何故か私が呼ばれていた。



「奴らの目的はなんだ?」

 内相のゴルダ。

 まだ身体は辛そうだが、国家の一大事だと無理をして会議に来ていた。


「……王の暗殺を行った魔族の手紙には、王家簒奪の野望が書いてありました。とは言え王の暗殺などは書いていませんでしたが」

 私が答える。


「王家簒奪……?」

 みながザワザワと騒ぐ。


「ローメル、以前に言っていたな。相手は」

「はい。王の弟にあたるハルド様です」

 以前も反乱を企て追放処分になった人。


 だが


「……ハルドか…… だがな、あの人は」

 そう、一言で言えば無能。


「だから魔族が手を貸している。警戒はすべきです」

 みなが頷く。


 というか、なんで私が仕切ってるんだ。




 会議は終わった。


「つかれたー」

 城のベッド。

 広くてふわふわ。


「そうだ。水浴びしよう」

 私は日本出身なのでお風呂に飢えている。


 毎日水で身体を洗わないと落ち着かない。

 この世界の人は三日に一回とか。代わりに香水で誤魔化す

 よく我慢できるよね。



 水浴び。

 丹念に水で汚れを落とす。

 本当はお湯に浸かりたいけど、水で洗いながすのでも十分。


 この城には侍女とかが使う水浴び場があるのだ。そこを使わせてもらっていると


「……あなたがローメルさん?」

「……? ええ。こんにちわ」

 水浴び場にいた1人に声をかけられる。


「すごい身体しているのね」

 ……そうかな?


 この世界にしては高身長。

 身体は比較的引き締まってるが、胸はそれなり。

 確かに理想的な身体をしている気がする。


「……その身体で王子を篭絡ろうらくしたの?」

 お? この人。もしかして


「……なにが言いたい?」

「私はランド様を諦めないから」

 ライバルキャラだったらしい。


 ライバルキャラはエステメラルダだけでお腹いっぱいですよ、お嬢さん。



 身体を清め部屋に戻ると

「ローメル」

「王子!?」

 王子がベッドに腰掛けていた。


 いや、この部屋私の部屋では?


「いい匂いがするな。身を清めてきたか」

「……は、はい」


 すると、そのまま


「……んんんんっ!」

 キス。


「俺は汗臭いままだな。いやか?」

 そんなこといわないで


 王子の匂いに包まれ、キスをされるとまた頭がボーッとする。


「ローメルは本当に賢いな。俺が来るのを見越して、身を清めてくれたのか?」

 いえ全然。


 でも王子から見れば

「そろそろ来る頃だから身を清めようか」というやる気満々に映るらしい。


 いや、私やべーやつじゃないですか。






「ローメル。色々苦労をかけるが、身体を大切にしてくれよ」

 行為が終わった後、王子と抱き合いながら話をする。


「はい」

 本当に妊娠してる気がする。


「とにかく男子を産めば認められる」

 ん?


 なにが? と思ったら


「元気な男子を産めば、正妻としてたてられる。だからローメルには本当は無理をさせたくないんだ」


 元気な男子を産めば正妻。


 ああ、なるほど。

「側室に入れ」というのはそう言うことか

 元気な男子、それは跡継ぎ。


 跡継ぎが産めない女は正妻に非ず。

 いやいや、ヘビーな世界だ。


「王子、心配しないでください」

 まあ子供がなんであろうがですね、正妻云々とかそういうのは後で考えますよ。


 その前に、今は国を立て直すことが第一


 王子を守る。これが私がとにかくやるべきこと。


 それを口に出そうとしたとき


「はい。王子の長子を必ず産みますから」

 口が勝手に動く。


 おい、待てや身体。

「ですから、私はこの部屋で養生することに致します」



--------------------------------------------------



 王子が部屋から出た後


「わたし、王子の長子を産む」

 口が勝手に動く。


 産む。じゃねーんじゃ。

 この状態で事態を放置したらホウファイと『神』に好き放題されて王子が死にかねないんだぞ。


「他の人が守ってくれる。私は女。女は子供産むのが仕事」

 くそ! この身体どうなってるの?

 全然コントロール出来ない。


 ローメルの意識は『神』に食われたのではないのか?


「『カミサマ』あなたには感謝している」

 食われていなかったのか?


 あれは私の予想に過ぎない。

 ローメルの魂は眠っていただけか?


「咄嗟の儀式で『カミサマ』を呼び寄せた」

 違和感。


 待て、こいつ、まさか。


「私はその儀式の衝撃で魂が砕け散った。半年かけて少しずつ回復してきた」


『神』はなにかを犠牲にしないと呼び出せない代物のはずだ。


 ローメルの魂が食われたとなれば、それで納得していたのだが、実は違かった。


 私を呼び寄せた衝撃で砕けたそうな。


 じゃあなんで『神』は発現したの?



 その瞬間



 ローメルの身体が意図的に伏せていた1ヶ月間の記憶。


 ホウファイにそそのかされて、『神』を呼び出すまでの記憶がなだれ込んできた。


 ホウファイの甘言、それに乗るローメル。

 呼び出す『神』

 咄嗟に呼び出す『カミサマ』


 そこまではいい。

 良いんだが


 こいつ


「『カミサマ』を捧げ、私は生き延びた」



 ローメルは想像以上に性格が悪かった。



 こいつ、呼び出した私の身体を捧げやがったのだ。

 ローメルの記憶が雪崩れ込み、私の、神月綾香の最後も理解した。


 いつものように営業に行く途中、突然道端で倒れて死んだ。


 心臓発作かなにかと診断されるのかは知らんが、こいつ無関係な私を巻き込んで生き延びようとしたのだ。


「王子と結ばれた。『カミサマ』のおかげ。さっきの性行為で赤子も出来た。あとはもういいわ」

 もういいわ、じゃねーんじゃ。ローメル。

 お前本当に悪役だな。清々しいぐらい悪役だ。


「そう。私は悪かもね、『カミサマ』」

 だがな、ローメル。

 舐めるなよ私を。


「もう意識は乗っ取らせない。『カミサマ』はもう消えていいのよ」

 そうはいかない、ローメル。もう戻る身体もない。

 これで私の意識が消えればそれで終わり。


「終わっていいわ。本当に感謝してるの。でもね、これ以上はいい。エステメラルダを救おうとしているのでしょう? そんなことしなくていいわ」


 クソかよ、お前。


「エステメラルダには悪いことをしたわ。でもね、エステメラルダが元に戻ったら王子の心はどうなるの?」


 取られるのが心配か? 根性なし。そんなんだから王子の心が離れたんだ。


「エステメラルダは強敵。勝てないわ」

 わたしは勝った。王子の心をもぎ取ったのは『神』のせいじゃない。


 そら媚薬とか反則技はあったけどさ。


「……『カミサマ』。人間はそんなに強くない」

 わたしも人間じゃ!


 二人で色々口喧嘩していると


「お嬢! ジュリウスが用があると!」

 ガイゼンの声。

 おお、相変わらず空気が読めないがナイスタイミングだ! ジュリウス


「わたしはもう……」

 ローメルが返答しようとする。


 だが

「ローメルさぁぁああんん!!!」

「てめえ!? お嬢の部屋に勝手に入るな!!!」


 ガイゼンさんが止める間もなく、部屋にジュリウスが入ってくる。


「本当に手伝ってください! ローメルさんとジーマさんもいなくなると、なにやっていいかも分からないんです!」


「……」

 ローメルは返事をしない。


 しばらく沈黙すると


「あ」

 急に、身体のコントロールが戻った。


 指が勝手に動き文字を描く

 曰わく


『この美少年泣かすのはちょっと。でもわたし政治分からない』

 ローメル的にはジュリウスは有りらしい。


「……行きましょうかジュリウス」



 しかし、ここにきて問題点が増えたな。

 身体のコントロールが効かない、と


「しっかし悪役ですなー」

 わたし、ローメルに殺されたようなもんじゃん。


「殺されたんだから、魂奪っても文句言わないでよね、ローメル」



--------------------------------------------------



 実は私は死んでいたんだよ!

 なんだってー!?


 と大して驚かなかった理由は複数ある。


 まずは、こっちに来てからの年月である。

 半年以上こっちにいるのだ。


 現実、というか。日本にいる神月綾香にとっては一瞬でした! 日本に帰ったら元通り!


 というのはあまりにも嘘臭い。


 意識不明でぶっ倒れてるか、下手すると死んでいるか


 最初の頃狂乱していたのはその恐怖もあったのだ。

 それをランド王子が抱きしめて、救ってくれた。

 つまり薄々覚悟はしていたのだ。


 しかし、それをやらかしたのがローメル本人と言うのは流石に予想がつかなかった。


 こいつは想像以上に危ない娘だ。

 ライバルのエステメラルダに『神』を降ろそうとした段階で気付けば良かったんだよなぁ。


 この女は危ないって。


 さて、今は自由に出来るこの身体なのだが、さっきみたいにコントロール出来ないのは困る。


 そこでこのジュリウスである。

 ローメルはジュリウスを気に入っているらしい。


 ローメル、王子一筋じゃねーのな。そら王子もエステメラルダにいくわ。

 あっちもあっちで取り巻き多いけど。


 そのジュリウスの手伝いの間は出てこない。

 ならばこの時間を活かそう。


「ジュリウス、決裁書類を書いて。私は書類に目を通す」

「はい!」

 部屋で二人きり。


 ジュリウス相手じゃアレだけどなぁ。

 しかし王子とジュリウスじゃタイプ違い過ぎでしょ?

 長身で逞しい王子と、チビショタのジュリウス。


 ローメルも節操ないね。


 私は書類を見ながらも、同時に本も読んでいる。


 さっき目をつけた本。

 ローメルは咄嗟に私を呼び出せるぐらいに魔術の造詣が深い。


 この身体ならば理解できる。

『神』の追い出し方。

 そして

「……この身体は私のもの」

 勝手に口が動く。


 だが、また身体のコントロールが戻る。


 ローメル。

 あんたは『カミサマ』である『神月綾香』を犠牲にして生き延びた。


 残念だけどあなたの強運はここまでよ。ローメル。


 わたしは、今。

 本を解読してこの解決策を知り得た。




 私はそのまま真っ直ぐ部下達の元へ行く。


 まだ広場で家を作っていた。

 あっという間に出来上がる家を眺めながら


「みなに告ぐ!」

 大声を張り上げる。


 すると部下達は整列をした。


 部下達。

 本当に悪役にしか見えないヤバい人達。


 モヒカンから、パンチパーマ、スキンヘッド。

 本当に怖い人達。


 でも彼等がいたから、私はこんな異世界で生き延びられた。


 ローメルに感謝することがあるとすれば、ボーゲン叔父さんや、この部下達との仲が良好だったことだ。


 おかげで私は、全てを掴む。


「私の両親の仇はホウファイ! ひいては魔族だ!」

 その言葉に部下達は頷く。


「だが最大の問題はエステメラルダに取り付いた『神』の存在! やつがいる限り、殺しても復活する!」

 そう、無敵の存在。


「しかし! 私は『神』の追い出し方を知り得た!」

 ここで、身体のコントロールがのっとられるような感覚に襲われる。

 ローメルが抵抗しているのだ。


 エステメラルダを救うなと。

 だが、度重なる身体の乗っ取りで、私は対処法を知り得た。


 こいつは、ローメルは

『ザクッ!』

「ぐうぅ!!!」

 ポケットに入れたナイフを渾身の力で手に突き刺す。


「お嬢!?」

 皆が驚く。


 しかし、乗っ取ろうとしたローメルの気配は失せた。


 こいつは、痛みに弱い。

 それはそう。

 だって女の子だもんね。痛覚耐性なんてないわ。


 その痛みに痺れながら

「この痛みは亡くなった両親の痛み! 流行病で失った命の痛み!」

 私は演説を続ける。


「我等はこれから修羅になる! 目指すは魔族のホウファイと、その弟アマダ! ホウファイはボーゲン叔父様のダメージでまだ存分に動けない! 必ずトドメをさせ! 私はエステメラルダの『神』を追い出しアマダと対峙する!」


『オスッ!!!!』

 部下達の気合いの入った声を聞きながら


「全員出撃!!!」

 私達は、事前に予測していたアマダとホウファイの隠れ家に向けて出発した。




 部下たちを連れて、かたきに会いに行く。

 ホウファイ、アマダ。そして『神』

 その前に寄る場所がある。

 それはヴィルツ。


「……そんな大勢で何事だ」

 ちょっとビビってるヴィルツ。

 まあ20人で押しかければね。


「エステメラルダを救う。そのためにあなたの手助けが必要」

「喜んで。なにをやればいい?」

 ヴィルツの問いかけに


「その前に聞きたいんだけど、あなたエステメラルダ好きよね?」


 ヴィルツは虚をつかれたように

「……ま、まあ。そうだな」


「それを聞いて安心したわ。これはエステメラルダが好きで責任を取れる奴にしか頼めない事だから」

「責任?」


 そう。

「取り付いた『神』を追い出す方法。それは性行為だ」



 私の身体のコントロールが効かなくなってきたのは王子と性行為をするようになってから。

 致命的にコントロール不能になったのは、妊娠してから(これは身体が勝手にそう言ってるだけで実際は知らん)


 そして、調べた本でもそうだった。

 追い出し方は

「エステメラルダを孕ませて、ヴィルツ」


 あ、ヴィルツドン引きしてる。


「あ、あのな。俺はエステメラルダは好きだが、ちゃんと段階を踏んで」

「段階なんて踏める状況じゃない。エステメラルダはあのままでいいと思っているの? 心優しい彼女に酷いことをさせ続けるつもり?」


 ヴィルツは黙る。


「まずは『神』を追い出す。話はそれからよ、ヴィルツ。そのあと存分にイチャイチャして」

 ヴィルツが考えこむ。


「あなたが決断できないなら部下達に……」

「分かった! やるから!」

 慌てて決断するヴィルツ。


 うん。良かった。


 エステメラルダは被害者。

 本当は例えヴィルツでも不同意の性行為など嫌だろう。

 申し訳ない、エステメラルダ。

 でもね


「……ヴィルツって相当良案件だと思うから」


 この状況で、最後までエステメラルダを心配している。

 洗脳にも、陰謀にも乗らず、ただひたすらにエステメラルダの為を考えてきた。


 彼は私がこの世界で見てきた中で、一番頼もしく、素晴らしい男性だと思う。

 エステメラルダも満更ではなかったしね。


 王子?

 いや、ほら。ベッドヤクザだし、私選んだのも身体で選んでますからね、あの人。


 例えそれでも私は良いんだけど。




 ヴィルツを連れ街外れに出る。

「どこまで行くんだ?」

 ヴィルツの問い掛けに


「奴らはまだ目的を果たしていない」

「目的?」

「そう。王子を殺すのが目的。だから離れた所にはいない。もうすぐそこよ。奴らの隠れ家は」


 立ち止まるヴィルツ。

「……待て、ならばマズいのでは?」

 そう。王子の暗殺が目的と知っていて、何故私達は全員で出かけているのか。


「簡単よ、ヴィルツ」

 私は微笑み


「王子は一騎当千の最終兵器が守っているから」

 部下20人でもアマダ、ホウファイ、『神』、そして他の魔族達と一斉に当たれば勝てない。


 だから


「アマダ、リストコール家の怒りを存分に味わいなさい」

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