舐めるなよ、アマダ
コンコン
ノックの音。
朝、朝だ……。
……朝?
「王子!?」
横で全裸で寝てる王子。
朝だよ! やばくないですか。
「お嬢! 起きられましたか! 王子を起こしてください!」
ガイゼンの声。
「おうじー! ……おう……」
身体の異変に気付く。
全裸。
あれ?私半裸状態で気絶するように寝た……
やっと気付いた強烈な臭い。
「……きぜつしててもやってたの……?」
なにそれこわい
「……ローメル?」
王子が起きる。
「王子! もう朝です!」
「……そうか。やりすぎた」
そう言って身体を起こし、抱きしめられる。
「んんんっ!」
強烈なキス。
身体は、昨日慣らされていたかのように、当たり前のように王子の舌を受け入れていた。
「ローメル、行ってくる」
王子は服を来て部屋を出て行った。
「……ガイゼン、みんなのところに行くわ」
「……お嬢、ジュリウスも呼んでいまして」
イラッ
「あのガキに呼ばれる筋合いはない。まずは部下達を見てから」
「……ありがとうございます」
ガイゼンは深く頭を下げる。
領地が心配だ。
ジュリウスの手伝い? あとあと。
私うんって言ってないし。
「ジーマさん!」
「お嬢!」
嬉しそうに笑ってくれている。
「皆には不自由かけます。他の場所が見つかるまで……」
他の場所と言っても20人が住む場所だ。
色々難しい。
あの館の廃材撤去から始めないと……
「お嬢、ご心配なく。てめらの住処はテメエで作ります」
作る?
「だよなぁ! おまえら!」
『ウッス!!!』
見ると、街の広場に家が作られ始めていた。
「な、な……」
広場に家を作るな。
そう突っ込もうと思ったが
「すぐにでも撤去できるような作りにしております」
なるほど。プレハブ小屋みたいなものか。
確かにテントだけじゃねぇ。
キツいよね。
「館も領民が手伝って頂き……」
手伝い?
気になって館に行くと
「よおし! いい材木だ! これもーらい!」
「彫像品は取るなよ! あとで殺されるぞ! 取るのは材木だ!」
領民の皆さんが集まって木材を強奪していました。
そう、強奪。
持って帰ってるじゃない。
立て直しの際の材木どうするのよ?
一から全部用意するの?
すると、そこにはボーゲンおじさんがいた。
「叔父様」
「……ローメル、悲しいな」
悲痛な顔をするおじさん。
それに釣られたのか、この身体も涙を流す。
「兄夫婦の思い出の館は無くなった。見ての通り残骸しか残っていない。だがなローメル。この光景を胸に刻むのだ。このあと、前の館を超える、素晴らしいものを作り上げてみせる」
ボーゲンおじさんは微笑み。
「可愛いローメル。もうお前しか残らなかった。だが、お前が残ってくれた。それだけで儂は生きていける」
頭を撫でてくれる。
「金の心配ならするな。必ずや前の館を超えるものを作ってやる」
城に戻ると、泣きそうな顔でジュリウスが飛び込んできた。
「ローメルさぁぁんっ!」
なに抱きついているの。
なに胸に顔を押し付けているの。
ん?
「……今更だけど」
「? なんですかぁ……?」
小動物みたいに半泣きで首を傾げるジュリウス。
「あんた、背が小さすぎない」
ジュリウスの顔が凍りつく。
そもそもだ。
私は元の身体の身長が高かった。
170cmと女性にしては高身長。
正確には計れないがローメルは、拳一つ分目線が下な気がする。
つまり身長165cm程度。
問題は、この世界はみな身長低いのだ。
ボーゲンおじさんは私より背が低い。
王子やジーマさんは身長高いが、あれはこの世界でかなり高い方。
そしてジュリウス。
150cmぐらい?
「……ううう、意地悪です。ローメルさん」
いじけるジュリウス。
「あの! ゴルダ様に言われて! 内相業務をローメルさんと一緒にやれって……」
「そう、で、なにやるのよ」
その言葉にフリーズするジュリウス。
「……ジュリウス?」
「……ええっと……」
考えてなかったらしい。
典型的な指示待ち人間かな?
でも私への接触は積極的だった。
「ゴルダに聞かないと分かるはずがない。行くわよ」
「は、はい!」
溜め息をつきながらいく。
ゴルダはめっちゃ心配そうにしていた。
「……なにをしたらいいのか、という相談ぐらいはだな……」
「す! すみません!」
曰わく。ゴルダは早い段階で伝えようとジュリウスを呼んだらしいのだが、ジュリウスは私を探し回って来やしなかったらしい。
あれ?
私のせい?
いやいや、先にゴルダのところに行けよ。どう考えても。
それからゴルダに聞いて色々執務を行った。
どれも領地の手続きと大きく変わらない。
もちろん分からないものはあるので
「これは外相に相談。これは王様に直訴。これは……」次から次へと案件を振り分ける。
「す、凄い」
ジュリウス、動いてない。
「……あのね」また溜め息。ジュリウスといるのも疲れる。
「……あの、ローメルさん」
「なによ?」
疲れたので伸びていると
「好きです」
………………………………?
「は?」
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(アマダ視点)
いやあ! ローメルは凄い! ワクワクする。
なんだよ。こんな面白い事になるなら『神』なんて要らなかったのに!
「アマダ、もうスパイは潜り込んだ」
姉ホウファイが妖艶に微笑む。
妖艶。
うん、でもなぁ。ローメルがいいなぁ。
格好いいし。
あの美しい顔を苦痛と快楽で顔面をぐちゃぐちゃにしたい。
「じゃあサクッと殺しちゃおうっか!」
『神』はまだいる。
《ああ。まずはこの国を滅ぼす》
「まずは、ね」
苦笑いする。
簡単に言ってくれるもんだ。くそったれ。
結構大変なんだぞ。王国滅ぼすのも。
《不安か?》
『神』は面白そうに呟く。
「まあまあだね」
軽口をたたく。
王国を滅ぼす。王子を殺す。
《ランドは殺さねばならぬ》
『神』は歌うように言う。
「 "王子" とローメルの子ね」
《ああ、そうだ。その子が》
エステメラルダの顔をした『神』は
《世界を滅ぼすのだ》
ニコリと微笑んだ。
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ボーゲンは屋敷を見守っていた。
「……気丈だな、ローメル」
涙を流すボーゲン。
ローメルは涙を流しながらも崩壊した館を見守っていた。
あの時のローメルを思い出しボーゲンは泣いていた。
「……あの、可愛いローメルを泣かす全ては、この俺が粉砕する」
兄夫婦を失い、身内はローメルしか残っていない。
元々身内に対する愛情が過多なボーゲンにとって、ローメルは最後にして最高の宝物だった。
今館は廃材が持ち帰られ、新しく建物の基礎を掘っている。
「ボーゲン叔父貴」
ローメルの部下ジーマが来る。
ボーゲンは部下には厳しいが、ジーマの事は信頼していた。
両親を失ったローメルにジーマを推薦したのもボーゲン。
「どうした? ジーマ」
ボーゲンは作業を見守りながら返答をする。
「単刀直入に申し上げます。ホウファイが生きています」
眉がつり上がるボーゲン。
「……あれで生きている訳がない。内臓破裂だぞ……」
だが、ボーゲンもジーマの報告に心が揺れた。
「……相手は魔族です。私も死んだのは確認したつもりですが……」
ボーゲンは顎に手を当て
「ホウファイの姿が確認されたのか?」
「はい。部下からの報告です。夜中に黒い人影が動いたと」
「……夜中に歩くなど、よほどの馬鹿者か、腕に自信のあるやつだ」
「見たのはピリツァです。奴の夜目は信頼出来ます」
「……方向は」
「城の方です」
ボーゲンは頷き
「ピリツァを連れてこい。ジーマは儂の代わりにこの館の建設の指揮をとれ」
「分かりました」
「あれだけやっても死なない化け物か」
ボーゲンは天を仰ぎながら
「やはり人間は脆弱だ。だからこそ越えがいがある」
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好きです。
目の前のジュリウスからの告白に
「お断りします」
顔真っ赤のジュリウスは、その言葉に崩れ落ちた。
「……な、なんで!?」
「タイプじゃない」
「僕、好きですしか言ってません!」
「好意もノーサンキューかな?」
「そんなー!?」
床でジタバタするジュリウス。
「いや、変に期待持たせる方が嫌でしょ? 私は完全無欠に無理だから。次の恋にレッツゴー」
変に思わせぶりさせた方が失礼でしょう。
「で! でも! 僕を助けてくれて!」
ジュリウスは必死。
「……あんたね、その必死さを仕事に活かしなさいよ……」
こんなに必死なら仕事も上手く行くと思うよ。積極的だし。
「……こ、恋と仕事は別です……」
「同じじゃぁ! 真剣にやれ!」
ブチ切れる私。
「……じゃ、じゃあ! 仕事で頑張れたら、また考えてもらえますか……?」
上目遣い。
なんなんだ、この男は。
美少年好きなら良いんだろうけどなぁ。
私はまったくそんな趣味無い。
「変に気を持たせる気は無いの。いい、好みじゃない。他に好きな人がいる。分かった? その上で仕事は真剣にやって」
「は、はい!」
分かってくれたのだろうか?
心配だ。
保険会社の時にも言い寄られた事はあった。
保険会社にも事務の男性はいる。
でも付き合う気はなかった。
なんでだろう。
今、王子に好意をおぼえているが、日本にいたときは恋をする気もなかった。
ジュリウスに対する態度がいつもの私。
もしかしたら
(……ローメルの好意、か)
この身体の好意。
身体が王子を求めている。
意識、そして身体。
(ローメルの意識はどこにいったのだろう)
元いた身体に存在した意識。
時折身体が勝手に動く事がある。
あれがローメルの意識の残滓か?
(そもそも、日本にいた私はどうなった?)
なぜこの世界に意識だけ来たのか?
夢なのか?
長すぎる夢。
私は目を閉じる。
「……少し、考えをまとめたい」
次のアマダ達の手。
薬は大丈夫だろうか。
「ジュリウス、私は治療薬の状況見てくるわ」
「ローメルさん!」
治療薬チームは私の姿を見ると駆け寄ってくる。
「薬はなんとか量産に成功しましたが、やはり副作用の問題が」
「副作用はなんとか出来ないでしょうか?」
いや、あのね。みんな。
「……私はあなた達の……」
あ、いや、いいや。
「いい! 副作用をゆるめればいいの! 副作用の症状にあった薬の開発よ! 過去の本を読んで副作用と類似した病の薬を調べなさい!」
学者達は私の指示で動き始める。
私はお前らの上司じゃねーんだぞ。
注射器を見に行ったらまた囲まれた。
「素材はなんでもいいのか?」
「先端の作成に時間がかかりすぎる」
「空気が入らない工夫についてだが」
きみたちー!
注射器は仕方ないと思い相談に乗る。
あれは私の脳みそにしか存在しないものだからね。
治療の現場にも行こうと、ガイゼンを連れ街に出た。
「ローメル様!」
「ローメル様! 病は大丈夫でしょうか!?」
ここでも囲まれました。
わたし大人気?
「……お嬢が病の治療のため走り回っているのは有名になりました」
そうなんだ。
「みなさん。国は治療薬量産に全力をかけています。そして、副作用の克服も指示しています。安心されてください」
「ゴルダ様が倒れたと!」
「私も手伝っています。微力ですが全力を尽くします」
その言葉に私を囲んだ人達はホッとした顔を見せていた。
治療の問題は副作用。
内相の部屋に戻り
「王に決裁を願うわ」
「……は?」
「病にかかり、治療を受けた人間は一年間無税。すぐにでも王への決裁書を書きなさい」
「そ!? そんな!?」
「実行部隊は内相でも、無税決裁は王の許諾なくば出来ないわ」
「……ご、ゴルダ様に指示を……」
頭を抱える
「やかましい! 書け! 今決裁書書けるのはあんただけだ!」
「は、はい!」
決裁書には書式がある。
私は書けない。
「ゴルダには今から説明する! とにかく書きなさい!」
ゴルダのいる広間に行き説明をすると
「そうだな。今やるべきは病を隠している人間を治療させることだ。無税となれば喜んで出てくる」
「偽申告への対策も考えています。それで人員が……」
ゴルダと相談して
「そうしてくれ。万事頼んだ」
ゴルダは私を見て
「……気に入らないという印象はまだ変わらん。だが、お前がいるからなんとか国が回っている。また部下たちを救ってくれた恩は本当に忘れがたい。すまないが本当に頼んだ」
深々と頭を下げた。
「つかれたー!」
疲れました。
部屋に戻ってベットで横たわっていた。
こういう時本当に広いベットはいいよね。
部下は大丈夫だろうか、少し心配になる。
「お嬢、今日は誰も入れません。ゆっくりお休みください」
ガイゼンが気を使ってくれる。
「ガイゼン、あなたも寝ていないでしょう?」
「問題ありません」
いやいや
「大丈夫よ。いざという時に倒れても困るわ。休んで。私は鍵を閉めて寝る」
「……分かりました。おやすみなさい。お嬢」
ガイゼンの声が遠ざかった頃、私はもう意識を失った。
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ローメルト・ファルニーズ・リストコール。
親が流行り病で亡くなって以降、親の領地を引き継ぎ治世を行っている。
親が亡くなる以前は我が儘で暴虐という評判だったが、領地を継いで以降のローメルは
「別人のようだ」と称されていた。
「ローメル様を引き継ぎこの領地のご担当にしていただきたいのです」
領民からの要望。
国へのこういった要望は本来は内相の部下が受けるのだが、今は倒れているため城の衛兵が代わりに受けていた。
「しかとお伝えする」
「何卒よろしくお願いいたします」
領民は帰って行く。
「あそこまで慕われている領主も珍しいな」
衛兵は王子の元に向かう。
本来は王子は治世などは行わないが、今は国難のため様々な手伝いをしていた。
「領民から要望です」
「……ふむ」
王子はその要望書を見ながら
「ローメルの評判は随分良いようで」
「はい。ゴルダ様も信頼されているようです」
その衛兵はゴルダから「困った要望を受けたら真っ先にローメルに届けろ」と伝えられていた。
衛兵は「ゴルダ様からの信頼はそんなに厚いのか」と驚いていたのだが
「ローメルか……」
王子は少し顔を曇らせ
「……有能すぎるのも困るな」
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物凄い疲れていたらしい。
私は爆睡していた。
「……なんか最近王子とセッ〇スしてばかりな気がしてたし」
やり過ぎです。
身体を清め、着替えをする。
「さて、今日も頑張りますかね」
私は内相の執務室にいたのだが、そこには人が沢山きた。
そのうちの一人ヴィルツ。
「今回の病の治療と、ゴルダのフォローに走り回っていると評判だぞ」
ヴィルツは少し口を曲げる。
「なんで私がゴルダ様のフォローしているのか」
溜め息をつきながら書類作成。
「それで、エステメラルダの件だが」
「ええ。見つかった?」
「……全然だ」
『神』と対峙してホウファイを撃退して以来エステメラルダは行方不明になっていた。
「代わりにエステメラルダの仕事を俺がヤっているんだぞ、まったく」
「……お互い大変ね」
相槌をうってから違和感に気付く。
ヴィルツが?
なんで? エステメラルダには部下がいる。
「なんでヴィルツが? あなたそこまで治世出来ないでしょ? エステメラルダの部下に……」
ヴィルツは首を振り
「俺が出し抜かれたのは奴らのせいだ。あの部下共は洗脳されている」
「……まじで……?」
事態は深刻だった。
「つかれたー」
部屋に戻る。
部屋でベッドに座り考えをまとめる。
「……部下を洗脳?」
たち悪い。
無敵じゃん。
でもだとするとなんでヴィルツは無事なの?
って、そっか
「あいつは『神』にどん引きして疎遠にしてたんだ」
ないすヴィルツ。
すると
「ローメル」
「王子!」
王子が部屋に来る。
「ローメル、治世は大変だな。手伝いなど初めてしたが、決裁するだけで疲れ果てたよ」
「お疲れ様です」
王子も手伝っていたんだ。
本当に国難だなぁ。
「ローメルの評判はとても良いよ」
「そんな」
褒められて照れる。
でも
「……ただ、少し目立ち過ぎてる」
?
どういうこと?
「ローメル、お前は」
「きゃっ!」
王子に抱き寄せられる。
「これが終わったら俺の側室に入れ。正妻にする。いっぱい子供を作ろう」
王子は私をベッドに押し倒して
「ローメル、いっぱいしよう」
行為後抱き合っていると
『王子は!? 部屋にいらっしゃらないが!?』
『王子はローメルの部屋に……』
『お呼びしろ! 急げ!』
部屋の外が大騒ぎになっている。
なにが?
『王が亡くなった!!!』
その言葉に、二人は抱き合ったまま固まっていた。
--------------------------------------------------
急いで部屋の外に出る。
「全員その場から動くな!!!」
私は声を張り上げる。
「王を殺した人間はまだ城の中にいる! それも変装しているはずだ! 誰であろうとその場を動くな!」
王子も
「俺が宣言をするまで、全員動くな! お互いに監視しろ!」
油断した。いや、まさかここまでやるのかよ?
ホウファイ。
直接王のクビを取った。
当然アマダもいるだろう。あいつも変装している筈だ。
くそ、あいつらの行動は常に私の想定を越えてくる。
考えろ。王を殺した。次はなにをやる?
王国転覆の野望が書かれた手紙はあった。
だが、王の暗殺など書かれていない。
暗殺の後の乗っ取りなど大変だからだ。
手紙には王の洗脳などが書かれていた。
そっちの対策をとっていたのだが
私と王子は走りながら王の部屋に飛び込む。
そこには
「父上!」
ベッドの上、ナイフが腹部に刺さっている。
目を見開いたまま死んでいる。
そこにいた王の付きの少女が王子を見て震えている。
王のこの表情。
無防備に王の寝室に入る身分。
そして、王子を見て震え続ける少女の態度。総合すると
「刺したのはランド王子ね」
少女に聞くと目を見開く少女
「な!? 馬鹿な!? ローメル!?」
王子は慌てるが
「王子、見た目の話です。王を殺した相手は王子の格好をしていた。でないとこのような情事の最中に王の寝室に入る無礼など他に誰が出来ますか?」
「……そ、そうか。ビックリしたぞ」
「……あ、あれは偽物だったのですか!」
ホッとした表情を浮かべる少女。
この娘の警戒も続ける。
誰がホウファイか、アマダか。
「……王子、王が寝る前になんと仰いましたか?」
「……? いや、執務に慣れず疲れたと言って……」
私は少し考える。
無防備過ぎる王の姿。
「……王子の偽物は、王を刺したらすぐ逃げたの?」
「は! はい!」
ふむ。
「本当は王子を犯人に仕立て上げる計画だったと思います。ですが、王子は私の部屋にいたので、殺人のみ遂行して逃げたのでしょう」
「……もう逃げられたか?」
「王が殺されてすぐ叫んだのよね?」
少女に質問。
「も、もちろんです!」
ふむ。
だとすれば
「王子、私に確信があります。やつらは逃げていません」
「……やつら?」
「はい」
ホウファイとアマダの目的、それは
「王子を殺すことが目的のはずです。まだ目標を達成していない」
王の部屋を出る。
「王子、城にいる全員を大広間に集めてください」
さあ、犯人探しだ。
全員集まる。
凄い人数。
「王子の呼びかけの後、トイレ等の必然の理由含め動いたものは挙手なさい!」
私の呼びかけに何人か前に出る。
「……ジュリウス、あんたなんで動いてるのよ」
「……怖くてローメルさん探していました……」
こいつ。
なんでも王の執務室付近にいたらしい。
元々相談があって私を探し回っていたそうで。
間が悪いというか。なんというか。
次が本題。
「挙手していない中で、動いたのを発見した者は挙手なさい! 王の暗殺犯探しだ! 必ず褒美を与える!」
その言葉に驚きの表情を浮かべる顔を見る。
何人か挙手し
「……動き、というには微妙ですが」
「構いません」
何人か名前があがる。
名指しされたその人達の反応を見るが
(……白だな)
私の予想は、最初に挙手してきた連中だ。
魔族は狡猾にして陰険。
人間を騙して喜ぶ。
怪しい動きをして疑念を抱かせるが、その疑惑を晴らしてくる。
魔族はそういうくそったれなのだ。
「……」
改めて最初に挙手した人達を見る。
ジュリウス、城付きのメイド、騎士団長他5人ほどいる。
「……何故動いたか? 述べてください」
城付きのメイド「はい。王とは違う悲鳴が聞こえたのです。そちらに走りましたが……勘違いだったようで」
騎士団長「王の一大事だ! 駆けつけるに決まっている」
ジュリウス「……元々相談があって、頼りになるローメルさんをずっと探してまわっていました」
残りは私の中では白。
そう、私は
「……ジュリウス」
「なにローメル?」
探し回った?
なぜ?
私の居場所など一つしかない。私の部屋だ。
そして、私は部屋から王の執務室まで真っ直ぐ進んだ。
それも声を張り上げながらだ。
本当に探していたならば、確実に出会う。
だがその間にジュリウスはいなかった。
「舐めるなよ、アマダ。このクソガキ」
ジュリウスの顔は、にたぁっと、めくれるように笑う。
このジュリウスは偽物。
「アマダは人間を舐めすぎだ。問題はホウファイだ」
これが分からん。
どっちだ。
私の中では騎士団長なのだが。
城付きメイドと、あとあの王の情婦である少女も可能性が高い。
アマダはニタニタしている。
周りはジュリウスの豹変に驚いているが、私は放置していた。
ガイゼンに頼んだものがそろそろ来る。
最終兵器。
アマダと立ち向かうのはその最終兵器。
アマダは王殺しをしていない。
確信があった。
王を殺したのはホウファイ。
「アマダ、あんたは王を殺してない」
「……ふーん、なんで?」
「変身が下手くそだからだ」
ハッタリ。実際はそんな事はない。
完璧な変装。
変装を見破ったのは、迂闊な事をいったからだが
「ええーっ! そんな事無いって! ホウファイの方が下手くそだよ!」
アマダは悔しそうに言う。
アマダは単純な性格。負けず嫌い。自分が劣ると言われれば、反論する。
「だって……」指の動き。注視する。
その先には騎士団長。
「叔父様!!! ホウファイは騎士団長に化けている!!!」
叫ぶ。
「くそがぁぁぁぁぁああああっっっ!!!!」
暴力がやってきた。
そうとしか表現出来ない。
暴風。暴力。暴虐。
王の暗殺を聞いて、城の端で寝ていたガイゼンを起こして叔父さんとジーマさんを呼びに行かせたのだ。
「わお! 嵌められた!?」
アマダが驚く。
「あんたの性格なんていい加減わかるわ!」
『だってホウファイの変身だって甘いじゃん』と指さそうとしたのだ、この馬鹿。
アマダならやりかねない。
そう思ってかまをかけたのだが
その大広間で
「……あんた達、本当に尊敬するわ」
騎士団長の姿は、ホウファイに戻る。
「ま、魔族!?」
周りが驚く
「みなさん! 王子を守って! 叔父様! ホウファイを潰して!」
「任せろ!!! ローメル!!! 今度は骨も残さん!!!」
叔父さんの姿を見ることもなく、私はアマダに迫る。
「なに? ローメルみたいな女の子が僕の肌を殴っても怪我するだけだよ」
そらそうだろうね。
そうじゃないんだ。
私はそのままアマダに抱きつく。
「な!?」
「殺せるものなら殺してみろ! 下手に振り払えば、私は死ぬぞ!」
叔父さんの邪魔はさせない。
アマダは私を殺せない。
何故ならば
「『神』が言っていた! 私はどうやっても殺せないと! その『神』の信奉者であるアマダは私を殺せない!」
アマダは戸惑った顔をする。
後ろからの声
「ホウファイぃぃ!!! 塵になれぇぇ!!!」
叔父さんの叫び声の直後
『ドガァァァァアアアンンン!!!!!!』
有り得ない音。
私は思わず振り向くと、そこには
黒こげになった床と、バズーカ砲みたいなのを構えた全裸のボーゲン叔父さんがいた。