なにが本当か分からない
私はエステメラルダとヴィルツ、そしてジーマさんを連れて城を出た。
「エステメラルダ、その人の体調が悪くなってからどれぐらい経った?」
「……半日ぐらいって言ってたわ」
ゴルダ達に発病の自覚が出たのは半日後。
感染からは1日で死ぬ。
つまり
「急ぐわよ!」
エステメラルダの領地に行くと
「エステメラルダ様!」
「おお! ローメル様!」
「この前発病したものは全員ここに集まりなさい! 今は病状の自覚が無い人もよ!」
まずは6人来たので
「エステメラルダ、しばらくこの人達は生活が出来なくなるぐらいの副作用がでるかもしれない。そうなった場合援助してあげて」
「もちろんよ、ローメル」
ジーマさんを呼んだ理由は、この人医術の心得があるのだ。
医術と言っても
「若い頃は喧嘩ばかりしていまして。怪我ぐらい自分で治さねえと生き残れなかったんです」
という理由。
「ジーマさん。この浮き上がった筋に打ち込みます」
献血をしたときに話をしたことがある。
どこに打ち込むかは分かる。
「痛いし、体調も悪くなると思う。でもこれを打たないと死ぬ。我慢してください」
「……わ、分かりました」
発病した人は怯えている。
祈るような気持ちで血清を使い打ち込む。
副作用の恐怖。
それでもやる。
「……ぐっ!」
量はこれでいいのか?
本当に効くのか?
副作用は?
恐怖で震える。
でも、その人は
「……はぁ、はぁ……」
汗が滲む。
いつ炸裂してもおかしくない時間。
でも
「……か、身体が膨れ上がるような、不快感は、消えて、います」
「……ほ、本当ですか!」
効いた!
「で、でも、熱が……」
「ジーマさん! 解熱する薬を!」
「すぐ持ってきます!」
その間に
「他も打ち込みます! このままでは死ぬ!」
そこにいる6人に打ち込んだ。
苦しんではいたが、はじめから苦しむと伝えたのが良かったのか、不満はあまりでていなかった。
動けない間は支援をすると伝えたのも良かったらしい。
発病した全員が来てくれた。
「エステメラルダ、しばらく様子を見て」
「ええ。ローメル。それで相談があるの」
「ああ、ローメル。それが本題だ」
ヴィルツも頷く。
3人で話をする。
「ビローチェが死んだ。ホウファイと『神』の仕業。私はあの『神』を信じられなくなった」
エステメラルダ。
「そう。それなら話が早いわ」
ホッとする。だとすれば聞くことがある
「エステメラルダ。あの『神』が取り付いた経緯を教えて」
「……ええ、ある日突然としか言いようが無いけれど、頭に声が響いたの」
声、か。
「予言を何度もして当てた。それで私は信じた。その間にホウファイを始め、色んな人が『神』を信じた」
「……エステメラルダは憶えていないが、エステメラルダに取り付いて直接語りかけていたからな。それで信じた奴も多かった」
「ヴィルツ、真っ先に『神』を信じたのはホウファイじゃなかった?」
「……そうかも知れないな」
「エステメラルダ、ホウファイの血筋は分かる?」
「血筋?」
エステメラルダは首を傾げる。
「あなたの取り巻きで知恵袋。でもそれ以上遡れない。ホウファイはなんであなたと知り合ったの?」
「ええ。ホウファイはこの領地に仕官してきた女性でね。旅をしてきたそうよ。とても優秀で、お父様が採用されたの」
お父様。
エステメラルダの父。
私の両親と同じ流行り病で亡くなった。
……え?
「ホウファイが来た後に、流行り病?」
「……そ、そうね」
あのクソ。
「……全部繋がってるわね」
両親の仇でも有るわけか。
この身体の両親でしかないけれど。
「エステメラルダ、その病も今回のもホウファイが原因よ」
「……そ、そんな」
「ローメル、あの『神』は何者だ」
「神は神でも」
私は一度言葉を区切る
「魔族であるホウファイが呼び出した、人間を滅ぼすことを目的とした怪物」
「ま、魔族!?」
「そ、そんな! だってホウファイは魔族の特徴が!?」
「あれは化けているのでしょうね」
ガイゼンが必死に捜しているが、全く手掛かりが無いらしい。
目撃談がない。
ビローチェはすぐ見つかったのにホウファイは全く見つからない。
つまり
「あいつは変身している。あれは偽の姿。そもそも逃げてすらいない」
「……だ、だれが?」
エステメラルダが怯えた顔をする。
「屋敷に行きましょう。ジーマさん、その前に……」
ジーマさんにあることをお願いする。
エステメラルダの屋敷。
ホウファイには変身能力がある。
この中から一人捜すのは無理だ。
でも当て方はある。
1人の少女を呼び止め
「最近、突然手紙を書き始めた娘いるでしょ?」
その娘はキョトンとして
「……え? ミルの事ですか?」
エステメラルダに振り向いて
「ミルっていう奴の部屋はどこ?」
「……ミルが? こっちよ」
部屋を開けると
「……」誰もいない。
でも
「さっきまでいたんじゃないか」
部屋は乱れていた。
慌てて逃げたか。
それよりも私の目的は
「手紙があるはず。化けているから大っぴらに誰かに会えない。手紙でやり取りをしているはず」
それはすぐに見つかった。
「ろ、ローメル!? こ、これは!」
ヴィルツが驚き叫ぶ。
その手紙。
その内容。
「……クソかよ」
想定外の内容。
それは王の弟にあたる人への手紙。
かつて反乱を起こし、追放処分を受けた人への手紙。
そこには
「王国を、滅ぼす」
詳細な陰謀が書かれていた。
--------------------------------------------------
「エステメラルダ、あなたは必ず私か、ヴィルツと一緒に行動して」
逃げたホウファイは必ずエステメラルダに取り付いた『神』と接触しようとする。
逃げもせず、エステメラルダの館に潜伏していたのは、『神』との会話が必要だったからではないか?
頼んだ。という思いでヴィルツを見たら
「……一緒って、夜もか……?」
顔が赤かった。
おい、お前。
「……ヴィルツ? 私真剣に話をしているんだけど?」
「……あ、ああ! すまない!」
エステメラルダも顔真っ赤。
お前ら付き合っちゃえ。
「あの館は監視が難しいわ。城に来て。一緒の部屋にいましょう」
王子に報告し、ヴィルツとエステメラルダを城の部屋に匿った。
治療薬の進捗を見るために城を歩いていると
「お嬢!」
ガイゼンが来る。
「ガイゼン。ようやく分かりました」
必死にホウファイを探していたガイゼン。
ホウファイは化けていた。見つかるわけがない。
「お嬢! 能力の足りぬ自分を責めください!」
あんな変身能力使われたら分かるわけがない。
それよりも、そのつもりで探せと言おうとしたら
「キッカリ二週間かかった事をお詫びします! ホウファイ捕らえました!」
は?
そこには、縄でグルグル巻きにされたホウファイがいた。
話を聞くと
「不自然な早足で逃げる女性がいた。あまりにも不自然なので捕らえた。捕らえた時は別の女性の顔だったが、抵抗しているうちに、ホウファイの顔になった」
だそうな。
約束からキッカリ二週間。
それは良いんですが、見知らぬ女性を取り押さえるな部下達よ。
他でもやらかしてないよね?
大丈夫だよね?
「ホウファイに聞きたい事があります」
尋問。
簡単に口を割るとは思えない。
でもこういう荒事は部下たちの出番である。
きっと期待に応えてくれる……と思った私が浅はかでした。
「でめえ!? 馬鹿なのか!? 女に対する尋問だぞ!? いきなり口もきけなくするつもりか!?」
ガイゼンか用意した拷問具を見てジーマさんが怒鳴る。
用意された道具の数々は、刃物、重石、トゲトゲハンマー。
『ぶち殺す』気満々の武器しかない。
「とりあえず、穏便な方法で……」
転がっているホウファイ。
道中も全く喋っていない。
一言も口を開いていないのだ。
これを吐かせるのに、穏便な方法で上手くいくか……
ん?
強烈な違和感が脳に警報する。
ガイゼンはなんて言った?
ホウファイの顔に戻った?
何故?
私の予想か正しければホウファイは魔族のはず。
ホウファイの姿からダミーの筈だ。
何故わざわざ、ダミーの顔に戻る?
そもそもなんでガイゼンがエステメラルダの領地周辺をうろついているの?
ガイゼンは逃亡したと思われる土地に行っていたはずだ。
「……お嬢?」
ジーマさんが怪訝そうな顔をする。
ホウファイの正体は魔族。
これは私の予想でしかない。
エステメラルダに初めて言った。
だから、ホウファイはそれがバレてないと思っている。
だとすれば、こいつは
「ガイゼン」
「……はい?」
私の中では二択だ。
「あなたにもう一つ命じていたわね」
その言葉に皆が怪訝そうな顔をする。
ホウファイを捕らえる以外に命令などあったのか?
という顔。
「忘れたの? レ〇プしろと」
皆が、ああ。と納得する。
ジーマさんも
「そうだな。まずはそういう屈辱から与えろ。ガイゼン」
動かないガイゼン。
「どうした? お嬢の命令だ。お前は女を堕とすのは得意だろ?」
ガイゼンは困惑気にホウファイの服を脱がす。
「おい! ガイゼン! なにをグズグズしてるんだ! とっとと脱がせんかい!」
他の部下がホウファイを脱がせ、ガイゼンのズボンも脱がす。
「……!?」
意表をつかれ驚くガイゼンと
「……ガイゼン? お前……」
ジーマさんも気付いた。
男根が作り物のようにピクリともしていない。
このガイゼンは偽物か裏切り者。
私の祈りはガイゼンが偽物であること。
裏切り者なんて信じたくない。
その祈りは、叶ったようだ。
「ガイゼンを捕らえろ! こいつがホウファイだ!!!」
その言葉にジーマさんが飛びかかった。
「クソッ!!!」
ガイゼンの姿はみるみる変わっていく。
アマダのような黒い姿。
魔族、ホウファイ。
「ガイゼン!?」
部下たちが驚く。ホウファイの姿をしていた方はガイゼンになった。
「私の部下に潜り込もうとか、流石ホウファイ」
陰湿にも過ぎるわ。
「あんたたちね、野蛮すぎなのよ。なによ、速攻でレ〇プとか。ああ、やだやだ」
変身を解いたホウファイはアマダによく似た黒ずくめの女性。
というかよく似すぎてる。
「お前、アマダの姉かなにかか?」
「あらら。あっさりバレた」
あっけらかんと言うホウファイ。
あのくそガキ。
信じて無かったとは言え平然と騙して来やがったな。
「私は仮にも魔族だからね。こんな玩具みたいな道具で殺せるとでも?」
ケラケラ笑うホウファイ。
アマダより肌が黒いからガングロJKに見える。
ガングロJKっていつの時代だよ。私の頃には廃れてたぞ。
「……ジーマさん……」
取りあえず穏当な尋問から始めて、と言おうとしたら
『ガスッ!!!』
は?
ジーマさんは顔色一つ変えず、ホウファイの顔面に蹴りを入れた。
「じ! ジーマさん!!!???」
顔面に蹴り!?
相手は魔族とは言え女性ですよ!?
「このクソボケがぁぁぁ!!! 俺の舎弟に手をかけさせようとするとは! テメエ!!! 産まれてきたことを後悔させるぞ!!! ボケエ!!!!!」
ジーマさんは叫ぶとそのまま足を
あ、いや。実況やだ。
見たくない、見たくない
「ゴミィ!!! この陰険クソゴミがぁぁぁ!!! テメエの腐った腸抜き出して燃やしたるぞぉぉ!!!」
周りの部下達も呆然としている。
ジーマさんは部下達の中では一番頼りになり、冷静な人なのだ。
それが
「俺の! 俺の大切な舎弟を! よりによって! 俺の手で!!! 殺させようとするとはぁぁぁ!!! クソがぁぁぁ!!! ゴミがぁぁぁ!!!」
ジーマさんは泣いていた。
涙を流しながら暴力を振るっていた。
舎弟。
ジーマさんは子分達を可愛がっていた。
本当の家族のように大切にしていた。
そんな家族を、間違って殺しかねない状況に追い込まれた怒り。
多分それが故のこの暴力だと思う。
いや、でもですね。これだけ見ると、どう見ても私達が加害者なのでね。
いくら相手が大量虐殺のウイルスバラまいた外道で、私の身体の親の仇でも……
「ジーマ、やれ」
私の言葉。
意識せず。
口が勝手に動いた。
ジーマさんは手を止めてこっちを見る。
「こいつは私の両親を殺した流行病を流した元凶だ。仇を討て」
頬を伝わる雫。
これは
(ローメル?)
この身体に転生してきてから、元いた身体のローメルの意識は無かった。
ローメルの記憶はあった。
それは混ざり合った。
でも意識は無かった。今もない。
でも
「聞き出すことはなにもない。残忍に殺せ」
口が勝手に動く。
ジーマさんが頷き、刃を持つ。
ホウファイは地面に倒れている。
血が流れている。
相当なダメージの筈だ。
でも相手は魔族。
相当強い、らしい。
知識でしか知らないが油断は出来ない。
殺すことが出来るのか?
口が動かない。
意識はあるが、身体が自由に出来ない。
その時
「ジーマ! 手を止めろ!!!」
ジーマに頼んで呼んでもらっていたボーゲン叔父さんが来た。
「……お、叔父様……」
ボーゲン叔父さんの声で、ローメルの身体はまたコントロールできるようになる。
でも涙が止まらない。
「ローメル!!! 愛しいローメル! 話は聞いた! お前の命令で殺してはならぬ!」
ボーゲン叔父さんは私を抱きしめる。
「叔父貴! ホウファイは動けます! 油断するわけには!」
ジーマさんの声。
「下がっておれ! 一騎打ちだ! ホウファイ! 敬愛する兄夫妻を殺し! 愛しいローメルを泣かせ! 賢明なる部下達を苦しめたホウファイ! 俺が! 俺の意志でお前を殺す!!!」
「……ボーゲン。魔族を舐めるなよ」
ホウファイは、無傷だった。
「え?」
血が流れたはず。
あの血は?
と見ると、流れていたのはジーマさんの腕と足。
「叔父貴! こいつの肌は鋼鉄並みです!」
なにそれ。無敵じゃん。
「知っておる。だからこそ一騎打ちだ」
ボーゲン叔父さんは上着を脱ぐ。
全身傷だらけで、筋肉隆々の身体。
「ローメル。美しいお主はそのままで良いんだ。仇など取らなくていい。仇や、汚い事などは」
叔父さんは全身を震わせると
『バチンッ!!!』
筋肉が膨れ上がり、残った服が弾け飛んだ。
いつも以上に膨れ上がった筋肉で隠れてはいるが、全裸である。
誰得よ、この光景。
「この俺が、ボーゲンが全ての汚い事を引き受ける。ホウファイ、魔族の恐ろしさを知った上で、貴様を殺す」
ホウファイは笑い
「出来るものなら、やってみなさい」
戦闘が始まった。
--------------------------------------------------
ホウファイは滅茶苦茶だった。
こいつは平然と館の柱を素手でぶち壊す。
「キャアアッ!」
柱が砕け散り破片が飛んできたので思わず叫び声が出る。
私を守ってくれるジーマさんとガイゼン。
ガイゼンはまだ声が出ないらしい。
口をパクパクしているが音が出ない。
ホウファイの魔法かなにかだろうか?
そんな化け物のホウファイ相手にボーゲン叔父さんは
「くそがぁぁぁ!!!」
ホウファイに折られた柱を丸太のように担いで振り回す。
あの、その柱。館支えてたやつですよ?
何キロあるのよ、それ?
素手で建物を破壊するホウファイと、その破壊された材木で戦う叔父さん。
こんなやばい空間にいたら
「お嬢! 逃げましょう!」
ジーマさんが先に決断してくれる。
逃げましょうよ。
ここやべーですよ。
館。両親の形見でもある。
でも私には特に感慨はない。
私の意識は。
でも身体は涙をポロポロ流していた。
思い出の館が、崩れていく。
ローメルの身体は悲しみにくれていた。
「……お嬢っ!……」
ジーマさんが申し訳なさそうな顔をする。
私の意識では、人が死ぬよりも建物が壊れるぐらいのほうが良い。
でも、この身体にとっては、この建物こそが両親のいた証。
「……ぁああ……あああああっ!!!」
身体は、泣きわめいていた。
分離する意識と身体。
涙目で前が良く見えないが、私の屋敷は
『ガンッ!!!!』
凄まじい音がして
館は崩壊した。
土煙で何も見えない。
でも声が
「あんた、本当に人間?」
呆れたようなホウファイの声と
「人間だとも。魔族。元から身体能力に優れた魔族では辿り着かぬ。達人の境地に至るのはいつだって弱者だ」
ボーゲンおじさんの声。
なんでこの人たち館の材木に潰されてるのに平気なのか。
「弱者だから、優れていないから強さを目指す。究極を目指せる。天性にあぐらをかき、努力を怠った貴様ら魔族では分かるまい」
土煙の中、おじさんはノシノシと歩く。
土煙から現れたボーゲンおじさんは血まみれだった。
「お、叔父様!?」
思わず叫ぶ。
「ローメル。安心しろ、かすり傷だ」
かすり傷って、血が
「ローメル、可愛いローメル。お前を苦しませる、悲しませる存在はこの俺が破壊する。この拳で粉砕する」
そう言って駆け出すボーゲン叔父さん。
「人間風情が」
馬鹿にするホウファイ。凄まじい速度で距離を取ろうとする。
だが
「な!?」それを上回るスピードで追いかけるボーゲン叔父さん。
そして
「これが!!! リストコール家の怒りじゃあああ!!!」
叔父さんの拳が、ホウファイの肩に当たった。
「グアアアアアアァァァ!!!!!」
叫ぶホウファイ。
その攻撃で、ホウファイは吹き飛んだ。
「叔父貴!!!」
代わりに叔父さんの拳は血まみれ。
「近寄るな! こいつは! 儂がとどめを刺す!」
肩を抑えうめくホウファイ。叔父さんは仁王立ちし
「兄夫婦の仇だ。守り切れなかった俺の償いだ」
叔父さんは拳を握り、倒れこんだホウファイに向かい振り下ろ……
「はいはい、そこまでー やりすぎだよー」
ケラケラ笑いながら、アマダが現れた。
来ると思ったよ、アマダ。
「叔父様! コイツは無視してホウファイにトドメを! ジーマさん! 皆さん! アマダを取り押さえて!」
叔父様ではないが、アマダもホウファイも人間を舐めすぎている。
もっと慎重に策略を練れば、少なくとも私は騙せた筈だ。
「アマダ! 舐めるな!」
ボーゲン叔父さんはホウファイにトドメを
部下達はアマダの動きを止めようと走り出した時
「まあまあ、落ち着いて」
そこには、エステメラルダと、ヴィルツがいた。
「ローメル! すまん!」
悔しそうにしているヴィルツ。
捕らわれている。
そしてエステメラルダは
《ローメル。お前は凄いが、そこの筋肉も凄いな。一撃でホウファイが瀕死だ》
『神』にとりつかれたエステメラルダ。
くそ! 城の中なら人目につくから出てこないと思っていたのに!
《ヴィルツと引き換えだ。ホウファイを離せ》
……畜生。
親の仇、討てず……
「叔父様」
口が、また勝手に
「ああ、ローメル」
叔父さんはまだ構えを解いていない。
「仇をうって」
《な!?》
神が驚く。
そらそうだろ。私だって驚いてるわ。
「お嬢!?」
部下達も驚く。
「わたしは」
あ、口が動いた。
みんな驚いて私を凝視している。
叔父さんですら目を見開いている。
人質がいる。
それでも
「わたしは悪役だ。クソ魔族」
自分の意志で言葉が出る。
「ヴィルツ、仇はとるから安心して死ね」
滅茶苦茶。
自分でもそう思うが
「分かった。その通りだローメル」
頷くヴィルツ。
あれ? 分かられた?
「エステメラルダを頼んだ」
その言葉に
「アハハハハハハハハハ!!!!!」
アマダが爆笑する。
「凄い! 凄いよ! ローメル! 絶対魔族向きだよ! その知能と決断力はまさしく魔族! ねえ! 結婚してよ! 本気でさ!」
腹を抱えて笑うアマダを見る。
ボーゲン叔父さんは
「ホウファイ、さらばだ」
そう言って、ホウファイの身体に拳を叩きつけた。
--------------------------------------------------
結局ヴィルツはそのまま解放され、ローメル達は城に向かった。
エステメラルダとアマダは倒れ込んでいるホウファイに向かい
《奇跡を》
エステメラルダが唱えると、ホウファイの傷は全て癒えた。
いや、
「死んでたんだけど」
ホウファイは苦笑いをする。
「蘇生できるから良いものを、いや滅茶苦茶だなぁ。ローメル達」
アマダとホウファイを見ながら、エステメラルダに取り付いた『神』は
《病も止められる。次の手が必要だ》
「ああ、あれね」
アマダは面白そうに笑い
「王様と王子を殺しちゃおっか」
--------------------------------------------------
住む家が無くなった。
ホウファイが館をぶっ壊したからである。
私は元々城に部屋を用意されたから良いものの、他の部下達が問題。
そうしたら、館の崩壊を知った領地の人々から
「広場にテントを張りますから、そこで生活されては。食事とかのお世話はこちらでやります」
と申し出があった。
普段あんなに怖い人達に脅されながら生活してるのに、なんて優しい人達。
私が感激して御礼を言うと
「ローメル様のおかげで奇病を防げました。普段もこの領地は税金が安くて助かってます」
安い理由は皆さんが脱税せず正直に申告してくれているからなのですが、そう思ってくれているならとても嬉しい。
ボーゲンおじさんは
「さすがローメルだ! 素晴らしい治世だな!」
と喜んでいた。
因みにこの人。上着は部下達のを借りているが下半身はすっぽんぽんのまま。
目のやり場が無いです。
「俺は自分の拠点に戻る。本当はローメル達も呼びたいが酷い場所でな」
ボーゲンおじさんは館にいない間は『拠点』と呼ばれる場所にいた。
禁制の薬物とかを流す場所ですね。そこで寝泊まりしているという。
うん。私達基本的に悪い人達だよね。
城に戻った。
今日はガイゼンが付いてきてくれる。
「ガイゼン、声は戻りましたか?」
「お嬢、本当にご迷惑おかけしました」
ボーゲンおじさんがホウファイにトドメをさした段階で、ガイゼンへの声が出なくなる魔法は解けたらしいのだが、後遺症なのかしばらく元のような声が出なかったのだ。
「……敵を捕らえるどころか、利用されるとは」
本当に危なかったんだよな……
もし、あそこでホウファイが違う言葉を言っていなかったら違和感には気付かなかった。
「お嬢、この恩は命でお返しします」
有り難い話だけど、あんまり申し訳がられても。うん。
用意されたか自分の部屋に戻るとジュリウスが飛び込んできた。
ノックぐらいしなさいよ。
「テメエ! 女性の部屋に入る時はノックぐらいせんかい!」
ガイゼンさんが怒鳴る
「ご! ごめんなさい!」
シュンとするジュリウス。
小動物みたい。
これで内相の部下なんだもんなぁ。
大丈夫か、内相。
「ゴルダ様がお呼びです。来ていただけませんか?」
ゴルダのいる大広間に、内相達の部下がいた。
みんな横になっている。
「……ローメルか」
「ゴルダ様。注射を打たれたのですね」
アマダの薬は単なる一時しのぎ。また再発するかも知れないので注射をうってもらったのだが
「……これではしばらく動けんな。それでお願いがある。王にもお願いしたのだが、お主の治療薬は既に量産が始まっている。常に付きっきりでなくとも大丈夫だろう? ローメル、お主にジュリウスのサポートをしてほしいのだ」
……は?
「知っての通り、ジュリウスはこんなだ。不安しかない」
それはわかる。私も不安ですよ。ええ。
「だが、動ける部下はジュリウスしかいないのだ。ローメル、わしはお主を嫌っていたがその治世能力には前々から評価をしていた。誰かが動けるまででいい。ジュリウスをサポートしてもらえないか?」
王様にも呼び出されて同じ内容を頼まれる。
あのですね、私は便利屋じゃないのですが。
とりあえず部屋に帰って考え事。
ガイゼンは部屋の外で待っててもらうことにした。
1人で考えることが多い。
「……アマダ」
あっさりとヴィルツを返した。
多分あれは
「……ホウファイ、死んでねーな」
直感。
あの『神』なら死んでも復活できそうな気さえするし。
とにかく病気の治癒に集中しながら、アマダの動向に注意しよう。
「私だってできれば殺したくないし」
例え魔族でも、人殺しは嫌だ。
ヴィルツは無事、ホウファイも無事という今回の話は正直ホッとしている。
ホウファイの無事は確認していないが、アマダのあの余裕さを考えれば……
「というか」
そうだ。ホウファイとアマダと『神』はつながっていた。
ここでもう一度考え直そう。
矛盾がある。
それは、毒の矢が私を貫いた時。
ホウファイがやらせたあの毒で私は死にそうになった。
あのままなら死んでいた。
でもアマダは助けた。
(……アマダとホウファイ、『神』はそこまで連携がとれていないのか?そもそも思惑が違うのか?)
アマダは気まぐれだ。
だからか? 私を気に入っているというのも本当なのだろう。
だが、それにしても
「……そもそも、『神』とアマダの情報なのよね。世界が滅ぶだ、なんだって」
全部嘘の可能性だってある。
現にホウファイが書いていた手紙の内容は王国の転覆。
世界が滅びるとか関係ないし。
「……くそ、なにが本当か分からないな」
頭の中でグルグル回る。
でも私ができることは、王子を守ること。
それだけだ。
『ローメルは中にいるか?』
「……は、はいっ!」
王子の声。
良かった。ガイゼンで良かった。
他の部下なら
「あんじゃあこらぁ!?」ぐらいは言いそうで怖い。
「ランド王子」
「ローメル。一つ聞きたい事がある」
真面目な顔。
なんだろうか。病のこと? 他のトラブル?
「……お前、ジュリウスみたいなのがタイプなのか……?」
は?
「王子、もうしわけありません。意味がわかりません」
「……お前の男性の好みは、ジュリウスみたいな奴か?」
「いいえ」
即答
その言葉に王子はホッとした顔を浮かべる。
「いやな、ジュリウスの奴が。お前に恋慕しているようで、聞くとローメルも満更ではないという噂が」
「私にそういう趣味はないです」
美少年ではあると思うし小動物キャラで可愛いとは思うけど、ないない。
私は王子一筋です。
「そうか、それならいい」
王子は私の首を持ち上げて
「……んんんんっ……!」
キス。
顎クイですか!?
ふと、扉を見る。
扉の向こうにはガイゼンがいるのだ。
「……んんっ……! お、王子……!」
私は王子を引き離す。
部屋の扉一枚挟んでセッ〇スはいくらなんでも
でも離れない。
王子の身体は逞しい。
私の力では全然だめ。
「ローメル、我慢が出来ない」
扉の向こうのことは王子も分かってる。
でも止められない。
部屋を占拠しているベッドに押し倒される。
「……ローメル、俺は、甘えた顔を見せるローメルが好きだ」
そう言って首筋を舐める。
「……ひゃん……っ!」とっさに口を抑える。
声が恥ずかしい。
「ローメル、部下がいるから拒んでいるのか?」
うんうん、と頷く。
でも王子は手を止めない。
「俺は別に気にしない」
きにしてー!