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この国を滅ぼそうとする陰謀があります

 城の中は大混乱だった。


「病が!」

「一旦全員外に出ろ!」

 大騒ぎになる中、私達は城の廊下を歩く。


「ローメルさん!」

 ジュリウスがこちらに走ってくる。


「誰が感染したの?」

「秘書のベイグレードです! 内相の執務室の中で……」

 執務室の中!?


「あなたは触れたの!?」

「い、いえ。情けないことに、血を見たら卒倒しそうになりまして……」

 本当に情けないし。


「内相の部屋には誰がいたの?」

「はい。ゴルダ様の他、主要な方々は皆……」

 顔が青ざめる。


「ジュリウス! あなた、ちゃんと接触感染の話はしたのよね!?」

「はい! ですが、ゴルダ様は納得されていません。隔離の件も対策の一貫に過ぎず信じてはいないようで」


「お嬢、我々が見てきます」

 ジーマさん。


「ジーマ」

「お嬢はジュリウスを連れ王子の元に」

「……お願いします」


「お嬢には5人着いていけ! 残りは内相の執務室に行くぞ!」




 ジーマさんと別れて、ジュリウスと一緒に王子の元にいく。


「王子!」

「……ローメル、こんな夜に」

 戸惑った顔。

 そしてジュリウスの顔をじっと見る。


「これはおぬしの趣味か?」

 え?


「い、いえ。わたしは」

 ジュリウスは口ごもる。

 おい、そこで口ごもるな。


「王子、ジュリウスと来た理由は、内相のゴルダ様を初めとした部下たちが病に感染したかもしれないという話しです」


「なんだと!?」

 王子は驚く。


「あの病は接触感染。血液の摂取で感染します。狭い部屋での炸裂は致命的です。部屋にいた人達は……」


「な、なんという。今この混乱の時にゴルダがいなくなれば……」

 王子は青ざめ


「すぐに父上に報告する。共に来い」

「はい!」

 3人で王の元へ行く。



「父上! 緊急のご用で失礼いたします!」

「なんだ? 病の件か」


 王の部屋に入る。


 寝間着だけど威厳のある王様。


「今回の感染者は内相の部屋で炸裂しました。ゴルダ様以外にも7人おりましたが、皆が感染した可能性があります」


「な、なんだと!? 誰だ!? 中にいたのは!?」


「ジュリウス」

「は、はい。中にいらっしゃったのは……」

 ジュリウスは7人の名前を挙げると王は頭を抱える。


「その話が事実ならば最悪だ。内政が止まるぞ……」

「わたしは今治療法を検討しています。過去に類似する病があったのです。ですが、その治療はそのまま使えません。書籍を参考にしながら……」


「城の学者も使え。夜を徹して調べろ」

 王からの命令に


「かしこまりました。全力を尽くします」


--------------------------------------------------

(ジーマ視点)



 その部屋は血塗れだった。

 そして、そこにいる者達も


「なんだお主らは!?」

 内相のゴルダが叫ぶ。


 ゴルダも血塗れ。

 もう手遅れだ。


 お嬢の話以外にも情報をまとめたところ、この病は感染する。

 それも人間から人間への感染は血液。


 血液を浴びた人間が必ず感染している。


 つまり


「ゴルダ、手遅れだ」

 俺は言う。


「あなた、ローメルの部下か?」

 他のゴルダの部下が話をする。


「この病は血から感染する」

「……まだ病の原因は分からん」

「炸裂は感染から丸1日だ。それまで待つか?」


「……儂は構わんが、他の部下は治せぬか」

「治療法はお嬢が必死に調べている」

「……ジュリウスに入れ知恵したのはお主等だな」


「今、お嬢と共に王子のところに行っている」


「……ジュリウスでは不安だかな。託すしかあるまい」

 ゴルダは目を瞑り。


「我々はここに籠もる。部屋からは出ない。お主等の想定通り発病したら部屋ごと焼け」

 ゴルダの発言に


「そ、そんな!?」

「ゴルダ様!?」

 部屋にいた7人が騒ぐ。


「丸一日だ。黙って過ごせ」

「……ゴルダ殿、我々はドアの外と窓の外におります」


 俺は背を向け

「野郎共! 外に展開しろ!!!」


 命令したあとに

「ゴルダ殿、お嬢は必死に治療法を調べている。間に合うように我々も全力を尽くす」


 俺達にできることは殆どない。

 お嬢の不安を取り除くことだけしか出来ない。


「お嬢、汚いことは我々が全て行います」


--------------------------------------------------



 ボーゲン叔父さんの持ってきた本を学者に見せたら鼻で笑われました。

「こんな本を鵜呑みにするのですか?」


 どうもオカルト本扱いらしい。確かにおどろおどろしい書きっぷりといい、正確ではない表現といい確かにそれっぽいんだけど。

「この本を鵜呑みにする必要はありません。しかし、すべてがでたらめではない。必要な情報を整理すればいい」


「このような本から探すのか? もっとふさわしい本があるだろう?」

 こ、こいつら


「そのような本がすでにあるならばそれを元に治療法を見つければいい! 今は一刻を争うのです」

「そうだ。そんな時にこのような本を持ち込まれても……」


 ありありと「こんな小娘の手柄にされてたまるか」というのが見え隠れする。

「あなたたちね……」

 人の生き死にがかかってるのに、なにを、と言おうとしたら


「てめえら!? 黙って聞いてりゃゴミクソなことばっかりごねやがって!? お嬢がやれ言うとるんじゃ!!

 黙ってやらんかい!!! 文句は後で聞いてやる!!!

 ここで協力しねえでお嬢が単独で治療法見つけたら、てめえらの立場は完全になくなるんだぞ!?

 わかってんのか!? ゴミィ!!! お嬢の慈悲が理解できたらとっととやらんかい!!!」

 おお、こういう時に頼もしい部下たち!


「そうじゃ! ボケェ! これはテメエラの最後のチャンスじゃあ!!! 路頭に迷いたくないなら手を動かさんかい!!!」


 部下たちの怒号に、学者たちは動き始める。

 でも、動きは鈍い。


 まあそらそうだよね、こんな小娘&チンピラですよ。

 怒鳴られてやったって気が入るわけがない。


 結局は私一人だ。

 それでもここには本がたくさんある。

 それだけでも全然違う。


 私はその本棚から伝染病関係と思われる本を複数冊持って読みだす。

(叔父さんの持ち込んだ本は大筋で正しい)


 オカルト本なのも事実だ。大袈裟に書かれすぎてる。治療法はでたらめに近い。だが、現代知識と合わせればそこまで変なことを言っていない。


(あとは治療法だ。あの本は大筋では正しいんだ。樽で666回とかはでたらめ。でも血清を作るために遠心分離させようとしていることに近い)


 実際はどうするべきか。

 この世界では血清など作成不可能なのか?

 私に医療知識はあまりない。


 保険の営業だ。それは多少は知っているが、本当に多少。

 血清の作り方など……


 めくったその本。

 そこには全然別の病だが、死んだ家畜から解毒剤を作る工程が詳細に述べられている。


「こ、これ!?」

 実際この病で適用できるかもわからない。

 だが、試す。だってこのままではゴルダとその部下は死ぬ。

 感染から発病まで丸一日。


 ガタガタ言ってる場合じゃない。


「皆さん集まって! この記載に従って解毒剤を作る!」

 学者の人たちがびっくりしたように集まる。


「こ、これですか? 全然違う病気……」

「要は……」

 あれ? この世界の言葉で「免疫」とか「抗体」ってなんていうの?


「……解毒剤を作る工程は一緒です。それよりも」

 問題はこれは経口摂取なのだ。


「……ええっと」

 注射器という単語もない。

 経口摂取ですぐに効くのか?

 不安になる。


 急いで絵を描く。


「こういうの作れる人と、冷温施設!」

 血清は凍らせる必要がある。


「城には氷庫があるから問題ないが、なんだこれは?」

 注射器の形は理解されなかった。


 くそ、注射器はない。

 素人が作れるとも思えない。

 空気が入らない工夫が必要だ。


 時間をかければできるかもしれないがこんな短時間では。


「誰か物つくりが得意な人を紹介してください! その間に解毒剤を作ります!

 ディール! アロンダ! あなたたちは急いで感染したと思われる家畜からの血液を摂取!

 絶対に肌に触れないように全身を布で囲ってやりなさい!」


 部下たちに命ずる。

『うっす!!!』


「みなさんはこの本の通り作り始めてください!」



 血清。

 うまくいくかどうか。


 だが、動かなければ。

 私はまだいい、死ぬかもしれないと部屋から出れないゴルダたちのほうがきつい。

「王子を救う。そのためにも治療法は必須」


 実験体にしてしまうけれども

「それでも守るから」



 内相の部屋は大騒ぎだった。


「じゃかしいわ!!! 絶対に外に出るな!!!」

 部下達がどなり散らしている。


「ジーマさん」

「お嬢、どうですか」

「治療薬は作り始めていますが、あとはそれを注入する道具が必要です。これから作りに行きます」


「お嬢、ゴルダはともかく他の部下達は精神的に限界です。死ぬかも知れないという状態で部屋に閉じ込められる恐怖は相当なものです。治療薬に目処がつき始めたことはお伝えしてよろしいですか?」


「……学者達も協力して進んでいると伝えてください」

 私からだけでは信用されないだろう。


 学者の名声は最大限利用させてもらう。


「ジーマさん、とにかく治療薬に全力を尽くします。こちらをお任せします。絶対に外に出さないように」


「お嬢、心配の必要はありません。絶対にやり遂げます。お嬢は治療薬だけに集中されてください」



 わたしは、城の広場に来た。

 そこでは城に勤めているもの作りの人達が集められている。


「いいですか、朝までにこれを作り上げてください。用途は、一切空気を入れる事無く、液体を体内に注入することです」


 注射器の絵を見せて話をするが


「……こんな細いもの……」

 やはり先端か


「ガラスがある筈です」

「空気が入らないようなど不可能だ」


 うう、注射器の細かい仕様なんて分からない。

 指示もできない。


 そこに、髭面のおじさんがやってきて


「……出来ねえ道理はねえ。できる」

「本当ですか!?」

「ただ、朝までは不可能だ。道具の選定からだからな」

「人命がかかっています! できる限りで構いませんから!」


「分かった。すぐにとりかかろう。よし! まずは道具だ! 今から言うものを準備しろ!」


 その人が中心に動き始める。


 残された時間は残り少ない。


 わたしは、祈るように作業を見つめていた。


--------------------------------------------------



「お嬢! 学者共から質問が!」

「なんで私に頼るのよ!? あんたら学者でしょ! あの本の通りに作りなさいと伝えなさい!」

「うっす!」


「おい! 中の構造だが……」

「空気が入ったら絶対にだめなんです! こんな仕組みじゃ絶対に入ります! いいですか、この内部に使う素材は……」


 こっちは私が指示しないと無理だ。

 注射器の構造を知っているのは私1人。


 色々賭が過ぎる。

 血清は本当にできるのか?

 この注射器はちゃんと上手く動作するのか?

 そして本当に効くとしても、時間は間に合うのか?


「……それでも、足掻くしかない」

 なにもしなければ死ぬ。

 そして、いずれその病は王子に辿り着く。

 絶対にそれは防ぐ。



 もう深夜だ。

 それでも城は騒がしい。

 騒がしい理由は

「おらぁ! だから出るなぁ言うとるだろうがぁ!!!」


 部下。


 内相の部屋を見張っている部下がめっちゃ騒いでいる。


 城の衛兵も来て大騒ぎになる。


「手洗いぐらいはいいだろうが!」

「部屋でやらんかい!!!」

 押し問答。


 注射器作りは今は指示が終わっている。

 私は上に上がると


「お嬢!」

「……ローメル殿、この者達が手洗いすらいかせないと騒いでおりまして」

 部下と衛兵がもみ合っている。


 衛兵は私が止めてくれるのを期待しているようだ。


 だが私は

「部下が正しいです。この病は接触感染。血液はもちろん尿も危ない。もっと言えば間近で喋るのも危ない」

 衛兵が呆然とする。


 私は部下に

「あなたがたの判断は間違えていない! 絶対に部屋から出すな! 出したときは誰かが死ぬと思いなさい! 怒鳴れ! 騒げ! 壁を蹴れ!」


『うっす!!!』


 その通りに

「おらぁ!!! 騒ぐんじゃねーぞ! タコナス! 明日には出るんじゃあ! 黙って寝とらんかい!!!」


 大騒ぎする部下達。


 ジーマさんは表にいるようだ。

 会いにいく。


「お嬢。大丈夫ですか?」

「ええ。わたしは、後は祈るだけ」

「いえ、お嬢の体調です。少しは寝られては?」


 首を振り。


「大丈夫です。皆も頑張ってもらっていますから」


 ジーマさんは切なげに窓を見て


「狭い部屋に閉じ込められて、死ぬかもしれない恐怖に震える。俺ですらゾッとしますよ。その中で平静を保っているゴルダはやはりただ者ではない」

 ジーマさんは目を瞑り。


「お嬢、助けてあげてください。彼等はこの国に必要な人材。我々はお嬢の力になれるよう、微力ですが全力を尽くします」


「ええ。よろしくね」



 朝。

「できたぞ!」

 注射器は朝に出来た。

 でも一本。


「同じ要領で残り七本」

「すぐとりかかる」


 急いで上に駆け上がり、血清の状況を確認する。


「お嬢! なんとか出来上がったようです。今氷庫にあります!」

「どれぐらい前に運びましたか?」

「最初のやつは……3刻(六時間)前でしょうか」


 本によれば十分だ。



 透き通った血清。

 本当にこれでいいのか。

 これで大丈夫か?


 葛藤は続く。


 だが、確信がある。

 彼等はこのままでは死ぬ。


 注射器と血清を持って内相の部屋に行き


「ゴルダ様! 最初の一つが出来ました! まずはゴルダ様から……」


「ならん! 儂が浴びたのは最後だ! まずはメイリィに飲ませろ!」


 部下が先。

 ゴルダらしい。


 メイリィが部屋から出てくる。


「本当に治るの?」


 注射をうつことすら初めて。

 緊張する。


 そこに


『いやいやいや。凄いやローメル。間違いない。それは治療薬だよ』

 脳に響くアマダの声。


「……」

 口には出さない。

 こんなところにアマダが来るなんて


『来てないよ。声だけ。心を読めるから話さなくていい。いや、感心した。凄いよねローメル。惜しむらくは』

 惜しむらくは?


『それじゃあ間に合わない。効くまで時間差が出るし副作用も半端ない。まあ死ぬよりマシだけど』


 間に合わない。

 それでも


『最後まで足掻いたローメルにご褒美』

 手のひらに突撃乗る薬。

 訳が分からない。だが、多分これはアマダの仕業。


『それを飲ませればいい。副作用ないよ』


 アマダは魔族だ。人間の敵。信じるに値しない。


 だが、私の直感はこのアマダの薬が正しいと言っていた。


 素人が奇跡にすがりすぎている。

 たまたま血清が

 たまたま注射器が

 上手くできる可能性などどれぐらい低いのか。


「……この薬を飲んでください」

 私は薬を渡す。


 それを飲み込んだ刹那だった。



「あ、ああああ!!!」

 青白かった顔色が蘇る。

 血色豊かになる。


 治った?

 バカな。経口接種でそんなすぐに効くはずが。


 でも


「身体の不調が治った!」

 メイリィの叫び声に


「本当か!?」

「薬は効いたのか!?」

 部屋からの声。


「……次の方」

「デリアス! 行け!」

「はい!」

 中からデリアスが出てくる。


『ローメル。信じてくれて嬉しいよ。本当にローメルは判断いいよね。前回で頼ったら副作用満載の治療薬。今回のは騙し無しだったんだ。ただし、僕があげるのはその八人分だけだからね。後はその不完全な治療薬で頑張って』


「……感謝するわ、アマダ」

 最悪は避けられた。


 残りの治療薬と注射器はこのあと改良しよう。



 8人は全員元気になった。

「そもそも病気にかかっていなかったのではないか?」

 と、ごねられるかもしれないと思っていたのだが


「朝からの体調不良は酷かった。体内が破裂するような恐怖。あの病は本物だ」

 ゴルダは淡々と言い。


「よくやってくれた。儂はともかく部下7人を救ってくれた恩は生涯忘れぬ。ジュリウスもだ。お主もよくやった」


「そんな、ゴルダ様」


「あの薬はもうありません。後は予防の薬ですが改良が必要です」


「我々も協力しよう。王に報告をする」



 王様に報告したら物凄い喜ばれた。

 そして

「病の治療薬の開発を引き続き命ずる」

 まじかよ。


 わたしは、ホウファイを追わないといけないのに。


「ランドからの要望もあった。おぬしはしばらく城で過ごせ」


 つまり?

 王子はにっこりと笑っていた。


--------------------------------------------------



 城に私用の部屋が用意されました。

 それは良いのですが

「王子の部屋の隣……?」

 しかも突き当たりの部屋。


 多分これ、王子お付きメイドの待機部屋だと思うんですよ。

 狭いし。


 問題は何故か部屋の大部分を占拠しているダブルベッド。


 一人で寝るにはデカすぎますね。


 ベッドも布団もとにかく綺麗。


 さっき設置しました!

 的な。


「私は治療薬作成のために城にいろというのでは~?」


 綺麗なベッドに腰かけていると


「ローメル、待たせたな」

 王子。


「……お、王子?」

 いえ、そもそも待ってませんよ? ここ私の部屋では?


 という疑問を置き去りに


「んんん……!」

 引き寄せられ、抱きしめられる。

 王子の厚い舌が私の口の中に入ってきて


「……っ! ……んんっ……」

 身体が震える。

 私の服の上から胸を掴む。その手が大きくて熱い。


「……っ! ……お、おうじ……っ!」

「ランドと言えと何度も言ったろう?」


 首筋を舐められる。

「……ひっ……ひゃんっ!」

 舌が、ゆっくりと首筋から鎖骨に向かう。

 ゾクゾクする。


 もう、私の身体は興奮に包まれている。


「服を脱げ」

 その命令の言葉に逆らえるわけもなく。


 私はゆっくりと服を脱ぎ始めた。




 王子との行為。抱き合いながらささやいてくれる。

「子どもも作ろうなローメル。俺とローメルの子だ。楽しみだな」


 私はその言葉にギュッと身体を締め付ける。

 王子に強く抱きつく。


「嬉しいか? ローメル」

 嬉しい。

 王子の子を……



 ? 


 突然の違和感。

 王子の子。


『神』は言っていた。

 私と王子の子が世界を滅ぼすと。


 そして魔族の王子、アマダとの子は世界を救うと。


 魔族は人間の敵だ。

 人間を滅ぼすのが基本的な考え方。


 アマダは変わり者だが、それにしても人間を救う行動は色々変だ。



 私とアマダの子は世界を救う。

 人間を救う。


 でもアマダは私との子を望んでいた。


 つまり?


『神』とアマダは……



「……あ、あのガキと電波」


「ローメル?」

 セッ〇スの最中に突然顔を青ざめさせた私を心配そうに見る王子。


 分かった。

 この病と、一連の行動。


 アマダへの違和感。

『神』への違和感。


 そして人が大勢死んでしまう事を平然と行えてしまう「ホウファイ」という存在について。


 マズい。

 すぐにでも手を打たないと……


「どこに行く?」

 王子が私の手を握っていた。


「お、おうじ。私は部下たちに指示をしなければ。でないと」

 あの病は収まっていない。

 それどころか


「……俺の子という言葉で、自分の使命を思い出したのか、ローメル。本当に真面目だね」

 王子はそのまま覆い被さって


「んんんっ!」

 キス。

「いってらっしゃい、ローメル。また続きは戻ったらね」


 王子の、逞しい、蕩けるようなキスに朦朧としながら


「……はい。必ずや」


--------------------------------------------------



 出て行くもなにも半裸でしてね。

 とりあえず身支度をしている間にもですね。


「んんん……っ!」

 王子がキスしてくる。


 わたしもキスに弱いので、キスされてしまうと


「ローメル、もっとしてほしい?」

「……っ!」


 結局キスしながら着替えて、着替えながらキスして。


 部屋から出るのにかなり時間かかってしまった。




 私が保険会社にいたとき。


 私は独断専行で先輩の話を聞かない厄介な人間だったのだが、この会社で怖がられているお局様だけは私を高く評価してくれていた。



「保険営業に必要なのは『三つのキ』なのよ」

 その人は私によく言っていた。


「やる気、勇気、元気。この3つがあればね、契約は取れる。逆にこの3つが無いとね、どんな優秀で頭のよい人でも契約は伸びない。あなたはこの3つだけはある。大丈夫よ。あなたはそのうち大きな契約を取れる」


 最初の半年の成果が壊滅的だった私を励ましてくれたのはこの人だけだった。


「やる気、勇気、元気」

 精神論かよ。と思ったが、私はこの世界でこの3つの大切さを今思い知った。


「バカなの!? なんでこんなところで躓いてるのよ!?」

 学者。


 私よりも頭がよく、この世界の薬物知識ならば絶対にこの人達の方が優れている。


 なのにだ。

 こいつら


「本に載っていない工程がある」

「不明な点は進められない」


 ……こ、こいつら


「お嬢! 終始こんな感じなんすよ! こいつら!」

 部下達も困っていた。


 やる気が無いから、その物事を理解しようとしない。


 勇気が無いから、本に載っていないことはしない。作業を止める。


 元気が無いので、行動が遅い。


「……」

 褒めて伸ばすにしてもだ。

 そんな時間はない。

 アマダの薬は時限爆弾だ。


 あれは一時的な効果しかないと予測している。


『神』とアマダ、そしてホウファイ。


 こいつら全員グルで、一致団結している。


 アマダがこの薬を止めたのは、使われるのが怖いからだ。


 そして副作用が多いと脅した。

 このままでは使えないと私に認識させた。


 だが、実際はあれは成功していたのだ。

 だから止めた。


 つまりこの薬を量産すればいい。

 なのだが、この学者な皆様がやれなにができねー。あれが載ってねーと騒いで量産化出来ていない。


 そんな現状。


 うん


「腕を折れ」

 私は声を低くして言った。


「……え?」

 学者達はなに言ってるの? という目で見てくる。


「薬が作れない腕など不要だ! ゴネた先から腕を折れ! どうせそのうち直るんだ! 折る腕が無くなったら足を折れ! なにがなんでも作らせろ!」

 部下達に呼びかける。


 慣れない学者連中への対応に疲れが見えていた部下達は私の言葉に


『ウッス!!! おまかせください! お嬢!』

 元気になった。


「な、そんな」

「被験者はあなた達からだ! 半端な薬を作ったら苦しむのは自分だ! 絶対、確実に作れ! 口を動かすな! 手を動かせ! 殺されたくなかったら! 薬を作れ!」

 脅迫する事にしました。


 脅迫でもなんでも、とにかく作らせる。


「ここはお願いします。私は注射器を見てきますので」

「おまかせください! お嬢!」


 部下達と私の評判は知っている筈だ。

 実際に殺しかねないと思ってくれればいい。


 死ぬかも知れない恐怖があれば、本気でやってくれる。



 注射器作成の広場に行くと、ジーマさんがいた。

「ジーマさん」

「お嬢、注射器は8つ出来上がりました」

 8つ。


「……このペースでは遅いですね」

 最低でも8人だか、実際は百本ペースで必要だ。

 王族や部下達だけで100人は超える。


「……空気が入らず、血管に打ち込めればいい。少し相談します」


「お嬢、よろしくお願いします」



 注射器作成の打ち合わせ。

 如何に量産するか。


 しかし空気が入っては絶対に駄目。

 血液に打ち込める程度には先端は細くないと駄目。


 滅茶苦茶な条件らしく文句も言われたが、それでもこの人達はかなり前向きに取り組んでくれている。


「人の命がかかってるんだろ?」

 うんうん。あの薬作る皆さんに聞かせてあげてください。


 指示は一通り出来たところで


「ローメル!」

「……エステメラルダ」


 エステメラルダが来る。


 半泣きの状態。

 そこにヴィルツもいた。


「……ヴィルツ」

 お前、エステメラルダの『神』が嫌で離れたんじゃなかったのかよ?

 と思って見つめると


「エステメラルダの話を聞いてやってくれ」

 曰わく、一度治ったと思われた領民から、病が再発したと。


「違う病かも知れない。だが症状は一緒だ。このままでは」


「エステメラルダ! 案内して! ジーマさん! 出来上がった注射器を持って行きます! 誰か! 学者の元に行って出来上がった薬を持ってくるように指示!」


 私は命令を皆にする。


 その間にヴィルツと二人で内緒話。


「ヴィルツ、いつからエステメラルダのところに? その間『神』は出てきた?」

「昨日からだ。その間は出てきていない。エステメラルダが半泣きで現れてな。流石に断れなかったよ。その後の病気の騒ぎだ」


 ヴィルツは少し申し訳なさそうにしながら

「お前にも相談しようとしたら、館に誰もいなくてな」


「ええ。城に行っていたからね。構わないわヴィルツ。それよりも昨日から『神』がでていない事が知れて幸い。奴の考えがよく分かったわ」


「考え?」

 ヴィルツは首を傾げる。


「あなたはエステメラルダにとって必要な存在。なのにあの『神』は遠ざけようとした。『神』に不信感があるからにせよ、ビローチェを失い、ヴィルツに疎遠されたエステメラルダの精神はかなり厳しいものだった。本来ならば遠ざける存在ではない。それなのに目の前で奇跡を見せ付け、化け物であることを誇示して遠ざける。その意図は?」


「……待て、つまりだ。あの『神』は?」


「エステメラルダに害を為す存在なのは間違いない。あの奇跡で癒えた筈の病が、実際は癒えていなかった。先延ばしにしただけ。あいつらの目的は」


「この国の滅亡、でしょうね」



--------------------------------------------------

(ランド視点)


「すぐにでも動きなさい!」

 ローメルは緊張感のある声で皆に指示をしていた。


 真面目で頭の良いローメル。


 この病も内相達より前に対策に気づき、学者達よりも先に治療法にたどり着いた。


 この国にとってはなくてはならない存在。


 だが、俺にとってローメルは



「王子、私はエステメラルダの領地で病の治療をして参ります」

 凛々しい顔。

 美しく凛とした顔を


「……んんっ……!」

 口付け。


 ローメルはいつも、キスをすると

「……ぁあ……っ」


 とろけるような顔をする。

 ローメルはキスをすると、すべてを忘れたかのように求めてくる。


「ローメル、いってらっしゃい。待ってるよ」

 そう言いながら、舌をまた吸い上げる。


 ローメルのものはどれも美味しい。

 甘い蜜のよう。


「……ああ……っ!」


 ローメルにこのようなことが出来るのは一人しかいない。


 その優越感にひたる。


「……お、王子。わたしは、行ってきますので……」


「ああ。待ってるよ」




 夜。

 ローメルは帰ってきた。


 深刻な顔をしている。


「お帰り、ローメル」

「王子、お話しが」

 固い顔。


 なにか重要な話だろうか。

 でもその前に、もう限界だった。


「ローメル」

 その身体を抱きしめる。


「お、おうじ…… あの、先にお話を」

 もう我慢が出来ない。


「ランドと言えと言ったろう?」

 そう言って口付け。


 いつも、これだけで


「……んんっ…………っ……ぁあ……」

 あっという間に顔が紅潮するローメル。



 ローメルを抱きしめながら

「これ以上焦らすな」




 行為後しばらく、余韻に浸っていると

「王子、お話ししないといけないことが」

「……ああ。なんだ?」


 青い顔をして部屋に戻ってきたのだ。


 なんの件だろうと思っていたのだが、それよりもローメルを抱くことを我慢出来なかった。



「この国を滅ぼそうとする陰謀があります」

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