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出立

 時は戦国、応仁(おうにん)の乱。


 ここ、伊達家の領内には黒脛巾(くろはばき)組と呼ばれる乱破(らっぱ)衆が居た。つまりは忍軍である。

 その黒脛巾(くろはばき)組の中でも、情報収集などではなく、暗殺任務に特化した、神羅(しんら)衆と呼ばれる異彩を放つ一族がいた。

 彼らは数百年前にここ日ノ本にやってきた渡来人であり、彼らの伝承する暗殺術、『神羅舞心流(しんらぶしんりゅう)』は、単なる武術ではなく、呪術と武術の融合殺人技であった。

 神羅(しんら)衆の一族は太陽の元には集落を作らず、主に洞窟を掘ってそこを拡張して代々暮らし、表に出ることはまずなかった。

 神羅(しんら)衆は主に三つの家で構成されていた。

 宗家である神代(かみしろ)家、その分家である影成(かげなり)家、そして、彼らの中で洞窟を出て、任務や日々の暮らしに必要な物資調達に従事し、表向き神羅舞心流(しんらぶしん)の宗家として立ち振る舞う、『赤城家』。

 その赤城家に、新たな後継者が誕生した。

 赤城宗次郎である。

 赤城家は、血の繋がりによって紡がれた一族ではない。

 彼らは幼少期にさらってきた子供を鍛え上げて、神代(かみしろ)家の奴隷、下僕とされた一族であり、その傑出した剣技の冴えによって、『天剣宗次郎』と言われる宋次郎もまた、赤子の時にここにさらわれてきた、外の人間であった。

 その宗次郎が、神代(かみしろ)家宗家当主、神代帯刀(たてわき)に呼ばれ、新たな任務を受けようとしていた。

 宗次郎が呼び出されたのは地下洞窟の最深部、(ぎょく)の間である。

 そこは地下であるにもかかわらず、煌々と明かりで照らされており、十二メートル四方の部屋。

 しかしその様式は和風ではなく、まるでキリスト教会のようであった。

 (ぎょく)の間の奥には、真っ白な絹に金刺繍の龍を施した、これまた西洋様式の旗が下げられている。


 赤城宗次郎は、頭首である神代帯刀(たてわき)の前で、騎士のように片膝を付き、左胸に手を当てて敬意を示す。一方神代帯刀(かみしろたてわき)のその尊大な態度まるで魔王の如し、ヨーロッパ諸国の王が座るような玉座に片ひじを預けてけだるげに構え、赤城宗次郎を出迎えていた。

 神代帯刀の左側には、影成(かげなり)家当主影成貞光が、左手を脇差に添え、赤城宗次郎をあたかも敵であるかの如く闘志を燃やして睨みつけ、右手は刀を納刀したままで、太刀持ちのように立てて、何時でも頭首に刀を渡せるようにしてある。


「して、ご用向きのほどは? 帯刀(たてわき)様」


 宗次郎は片膝を付いたまま面をあげ、帯刀(たてわき)に尋ねた。


「赤城家家元、宗次郎。『ひだりかいな』、伝承の儀、大儀であった。だが、伝承にあたって片付いてない案件がある。それよ」

「あるじさまを裏切り、越中葉山家に逃げ込んだ先代赤城家家元、赤城(くれない)の『ひだりかいな』の件ですな?」

「そうだ。それと越後と越中の国境で「鬼が出る」と噂が立っておる」

「なるほど。葉山厳岩(げんがん)の『魔将掌握』だと」

「それよ。われらが神羅舞心流(しんらぶしん)の奥儀を盗み、狼藉を働く厳岩(げんがん)の振る舞い、看過するに能わず。(えん)あり(ゆえ)あり、討ち取ってまいれ」

「『魔将掌握』で鬼となったものについてはなにか?」

黒脛巾(くろはばき)組に頼んで調べてもらったが、その鬼はまず越後越中国境の村、三長(みなが)村で出た。そこの村人の内、死体がなかったのはそこの村の住職、海音寺将吾郎ただひとり。『魔将掌握』で鬼に成り果てたは、その者であろう。影成! 人相書きを」


 神代帯刀(かみしろたてわき)は隣の太刀持ち、影成貞光(かげなりさだみつ)に命じて人相書きを宗次郎に渡すように促す。

 影成はそれにうなずくと、右手の刀を一旦、帯刀に預け、着物の懐に手を入れ人相書きを取り出すと、宗次郎の元まで歩き、宗次郎はそれを受け取ると、その人相書きを一目見てから己の懐に入れて、言った。


「あるじさま、鬼の海音寺のほうはどうなさいます?」


 帯刀(たてわき)はニヤリと口元を歪め、こう言った。


「言わぬが花、とは愚人の矜持。海音寺については厳岩のほうに罪科(つみとが)あり。よって(えん)なし(ゆえ)なし、討つべからず。救ってやるがよい。その『ひだりかいな』で触れるだけで海音寺にかけられた『魔将掌握』の呪いはそれに吸われよう」

「委細承知。直ちに」


 そう言うと宗次郎は立ち上がり、騎士のように抜刀して、しかしその刃のほうは自分に向けて立て、啓礼した。


「頼むぞ。かならずや赤城(くれない)厳岩(げんがん)の首を取れ」

「はっ!」


 そう威勢よく返答すると、宗次郎は(ぎょく)の間を後にした

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