9→ゲームスタート
例の化け物が一斉に動き出した。
「うあぁああ!!!なんだこいつ?!」
誰か一人が存在に気付いて叫び声をあげる。それに気づいた者が我先にと逃げ出そうとする。
逃げ遅れた者はミンチとなって化け物に咀嚼される。
絶叫は化け物を中心に、波のように伝わっていく。
こんな出来事が同時に9カ所で起きていた。
ちなみに、俺はどこにも該当していない。
ーー早いうちに逃げたからな。
とは言っても、ここも安全とは言えない訳で、今はできるだけ遠くへ離れる。
後方で幾人もの叫び声が聞こえるが、なるべく気にかけないように進んだ。
神の奴は、相変わらず空中に浮いたまま下の様子を見て笑っている。
奴の下を見ると、1:50:8とデジタルウォッチのような数字が浮かんでいる。
よく見ると、1番下の数字が1づつ減っている。
おそらくだが、あれが残り時間なのだろう。残りは1時間と49分48秒、遠目に見ていて分かるが、このペースで喰われ続けていけば制限時間内に全滅する未来しか見えない。
かといって何かしようにも、逃げる以外にやることは無いし……
そんなことを考えていると、遠くで歓声が上がった。
すぐに〈真眼〉を発動させて歓声の原因を探る。
そこには、眼の輝きを失って倒れている化け物と、その上ではしゃいでいる陽気な青年がいた。
あいつ、トレイン魔じゃなかったか?!
状況はよく分からないが、どうやらあいつがあの化け物を倒したらしい。
過程を見てみたかったが、あいにく〈真眼〉に過去視などという機能は備わっていない。
何か手がかりを得られないかと思って見ていると、ウィンドが表示された。
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【ジャック・アロル】 (ヒューマン)
〔人狼〕Lv1
装備:無し
AP100
BP100
SP300
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俺よりスピードが高いだけのJobでなぜ倒せたのか、疑問が尽きない。
すると、視界の端に『詳細を表示しますか?』という表示があることに気づく。
俺が迷わず選択すると、もう一枚重なるようにして新しいウィンドが展開される。
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〔人狼〕
@獣化後の攻撃は、7発目が〈即死〉となる。
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〈即死〉って、文字通りの即死だろ?……チートじゃねえか。
分かった事としては、トレインがJobのスキルで化け物を倒した事と、このゲームは最初から不平等だという事。
そして、これは俺が勝手に気付いただけの事だが、この他人のウィンドを覗いたりJobのチェックが出来るのは〈真眼〉についている目視鑑定の効果だという事だ。
ウィンドが見えたり化け物が見えたりと、『俺って選ばれし者だったりするのか?!』と一人でワクワクしていたが、別にそういう事では無さそうだった。
まぁ、そんな事は置いといて、
あの化け物が死ぬ事は分かった。実際、倒した奴もいるし、一応、俺でも勝てるかも?という願いを込めて未だ暴れている化け物を対象に〈真眼〉を行使する。
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【N-628】 (クローンキメラ)
〔ー〕
AP630
BP920
SP115
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「よし、今まで通り逃げ続けるか。」
幸いにもSPに関してはそこまで差が無い。これなら簡単だろう。
月とスッポンほども差があるステータスを見てそう呟いた。