しがれっと
コインランドリーの彼女は、くたびれた椅子に座っている。
僕の真っ正面。眼と鼻の先。向かい合わせに見つめ合って、ゴウンゴウンと僕の洗濯物が回り続ける。
「世界はそこまで貴方が好きじゃないんだよ」
彼女はシニカルな笑いで、煙草の息を僕に吹きかけた。尖った空気が僕の肺をいっぱいにして、思わず咳き込んでしまった。
「貴方はそうは思わないって言うかも知れなれど、私知ってるの。それは噓だって」
彼女は呪いだった。
僕は顔を見たくないのに、いつもここに来てしまう。
「自分が嫌いで嫌いで嫌いで嫌い。でも世界が好き好きで好きで好きでしょうがない。だけどさ、世界はそこまで貴方が好きじゃないんだよ」
彼女はトドメとばかりに嘆息をした。
「何度も言うけど」
煙の彼女は他の瞳には映らない。
都内の一角。寂れた路地裏。行き交う人々がくすんだ窓硝子からチラチラ見える。
死んだ彼女は僕を責める。
生きてる僕も僕を責める。
彼女もきっと世界の一部なのだろう。どうしてか僕は自分を生かしたままでいる。