ある少女との出会い[5]
それなのにお母さんは穏やかな表情を崩さず、まるでその質問がされることが分かっていたように──話し始めた。
「◯◯ちゃんはお腹の中で水頭症を発症し、頭蓋骨の中に髄液がたまり、脳が上手く発育しないで生まれてきました。
通常水頭症の赤ちゃんは生まれて間もなく亡くなるそうです。でも、この子は12歳まで生きています。
奇跡以外のなにものでもないと、お医者様は仰ります。
外見はこれといって異常は見られないのに、一人じゃ何もできません話す事も食べる事も、見る事も聞くことも、手足や首を動かす事も、脳を使って考える事も…。
私も生まれて間もない頃は、この子と一緒に死のうと何度も何度も思いました。こんな体に産んだ自分を責めました、何度も責めました。
でもこの子は成長を続けました。
自分で呼吸し、自分で心臓を動かし、体内の器官は全く異常がないそうです。
勿論たくさんの方々に助けられました、本当に感謝しています。
そして少しづつですが口から入れた食べ物を、胃に入れる事ができるようになりました。
12年かけてようやくできるようになったんです。
──凄く嬉しい!
健常な子供を見ていると、正直羨ましくもなりました。
何でうちの子が…でも、普通の事がどんなに素晴らしくどんなに奇跡なのか?
この子は身をもって教えてくれています。
それに生理も始まりました。
人間の根底を司る生殖機能が始まったのです。
なんと素晴らしい事でしょう。
この子は命を産めるのです。
──生きているのです。
そして私たちに生きることの素晴らしさ、普通である事の素晴らしさを教え続けているのです。