ある少女との出会い[4]
館主はカメラを持つと構えた。
もう一口お母さんがスプーンで食べさせる。
シャッターを切る、だが2、3枚撮影したとこで辞めた。
そして思った。ここまでの状況はビデオを見るであろう福祉に興味をもつ若者たちには必要ない。
あまりにもリアルで過酷な状況だから。
そうして、入り間際にお母さんが言った言葉の意味がわかった。
女の子は生まれてからずっと一人でトイレに行くことも、体を洗うことも髪を洗う事もできない。
ましてや絵本を読み聞かせても反応しないし、寝付かせることすらできない。
またこの小柄なお母さんが一人でできる事も限られている。
──12歳とはいえ女の子の体つきはもう立派な大人の女性だったからですの。
つまり、部屋の中で他人に見せられる介護の状況は食べる事くらいなんだと、館主は頭が真っ白になった。そして思った。
「生きるって何だ?」
そんな、呆然としたままの館主にお母さんがこういった。
「たぶん私たちの写真は使われないでしょう、あまりにも生々しくてリアルですからね」
──心を見透かされた気がした。
そして、お母さんは館主の顔を見て微笑むとこういった。
「だから今日はあなたが聞きたい事を聞いて下さい、疑問に思ったことやなんでもいいです。あなたの為の時間にして下さい」と…。
館主はドキッとした。
そしてお母さんは優しい眼差しで館主を見つめたのです。
しばらく考えて館主は言った。──咄嗟に自分が発した言葉に、後々自分で驚いたそうです。
その一言とは…
「お二人にとって生きるという事の意味を教えて下さい」──でした。
初対面の人間の質問です。